第24話「先輩と後輩」
再び斎藤に出番をですね・・・
「日向先輩」
「また雨宮さんか…」
「そんなに迷惑がらなくてもいいじゃないですか…」
「ごめんて」
「まあ、斎藤先輩以外に嫌われてもなんとも思いませんが」
「知ってる」
「日向先輩、部室での斎藤先輩、気になりませんか?」
「別に…」
「気になりますよね」
「いや…」
「気になりますよね?」
「いや、だから」
「…」
「…はい、気になります」
「よろしいです。では、お教えしましょう。私が、斎藤先輩の気持ちを知った瞬間を」
「(別に知りたくねえ…)」
少し前の出来事。
その日も、文芸部の部室は静かだった。
部として成り立つ人数の部員数はいるものの、そのほとんどが顔を出さない。
部員は3年の部長と副部長、2年の部員が2名、1年の部員は3名が所属している。
なお、2年の部員には斎藤 泰成も含まれている。
1年の部員には雨宮 翠とその友人2名が含まれているが、友人2名はすっかり部室に顔を出さなくなり、幽霊部員となってしまっている。
部室によくいるのは部長か副部長、そして斎藤 泰成と雨宮 翠くらいである。
その日は部長も副部長もおらず、泰成と翠の二人のみが部室に顔を出していた。
沈黙のまま、それぞれ思い思いの書籍を読み漁っていた時、突然泰成が沈黙を破った。
「雨宮さん。ちょっと、相談してもいいかな」
「…斎藤先輩が私に相談なんて珍しいですね。どうしたんですか?」
「この間、クラスの女子に告白されたんだけど」
「…えっ?」
予想外だった。
まさかの恋愛相談?
「ちょ、ちょっと待ってください」
「何かな?」
「斎藤先輩、女子に告白されたんですか?」
「ああ、そうだよ」
「斎藤先輩が、ですよね?」
「そ、そうだけど」
「(う、嘘でしょ!?斎藤先輩が告白されるなんて!?信じられない!あの斎藤先輩に告白するなんてどんな物好きなの!?)」
「なにか失礼なこと考えてないか?」
「気のせいです。告白されたってことは、その人は斎藤先輩のか、彼女に…?」
「…いや。断ったよ」
「そ、そうですか…。理由をお伺いしてもいいですか?」
「僕とあの人じゃ釣り合わないな、と思って」
「それはつまり、斎藤先輩のレベルが高すぎてお相手のレベルが釣り合っていないということですか?」
「違う!逆だよ」
「では、斎藤先輩のレベルがあまりにも低すぎて、お相手のレベルに釣り合っていないということですか?」
「言い方が若干気になるけど、そんな所だよ」
「…そうですか」
泰成にはああ言ったが、翠にとって泰成は憧れの先輩だ。
とても優しくて素敵な人なのだから、もっと自分に自信を持っていいと思いつつも、自信を持ちすぎて恋人ができるとまずいのでそこそこ謙虚でいて欲しいという感情で翠は板挟みになっていた。
「それで、相談というのは…?今の話は、ただの事後報告に思えますが」
「その…振った相手のことが気になりだすって、変かな?」
「なッ…」
非常にまずいことが起こった。
泰成に告白してきた女子がいるだけでまずいのに、泰成が告白を機にその女子を意識し始めているときた。
まずい、非常にまずい。
泰成がほかの女に取られてしまう。
これはうかうかしていられない。
「私も斎藤先輩の恋愛事情が気になってきました。告白してきたのはどんな方なんですか?」
「その人の名前は久遠 葵さん。なんというか…自分の意見をハッキリと言える強い人って印象かな」
泰成はそういうタイプの女性が好みなのか?と翠は考えていた。
自分の意見をハッキリと言えるという点では自分もそのタイプなので、少し悔しい気持ちが生じた。
「…自分の意見をハッキリと言える女性が好みから、私だってなかなか負けてませんよ」
「何の対抗なんだ?」
「…さあ、何でしょうね」
「ただ、久遠さんは最近、仲の良い男子がいてね…」
「…ふむ。恋のライバルというやつですね」
「しかもそれが、僕の友人なんだ」
「斎藤先輩、友達いたんですね」
「君の中で僕はどんなイメージなんだ?」
「教室の隅っこでラノベ読んでるクラスの日陰者ってイメージです」
「何も間違ってないのが悔しい…」
「友人、というのはどんな人ですか?」
「日向 湊斗って言って、僕の1年の頃からの友人だよ。彼もクラスの人気者ってタイプじゃないけど、彼を慕う人はそれなりにいる。久遠さんも日向とは親しげに話してるね」
良いことを聞いた。
日向 湊斗と久遠 葵がくっついてくれれば、非常に都合が良い。
それに、久遠 葵は自覚があるのかないのかはわからないが、泰成のことを忘れて次の恋に進もうとしているように思える。
「二人の関係がよく分かりませんね。久遠先輩と日向先輩はお付き合いしているんですか?」
「いや、付き合ってはないと思う。ただ、なかなか入り込む隙がない…というのも事実かな」
「では、私に任せてください」
「え?」
「私が久遠先輩に聞いてあげます。斎藤先輩じゃ聞きづらいでしょう?」
「確かに聞きづらいけど…いいのか?」
「面白そうですし、いいですよ」
「やっぱり面白がってた!?」
「…私にとってもライバルですから」
「え?今なんて?」
「独り言です。では先輩、今日お先に失礼します。」
「じゃあ僕も帰るよ。戸締り手伝って」
「分かりました」
翌日。
「1年の雨宮です。久遠 葵さんはいらっしゃいますか?」
2年の教室へ雨宮 翠がやってきた。
「さて、日向先輩」
「なんすか雨宮さん」
「今の話を聞いて、どう思いましたか」
「頑張ってね雨宮さん!と思いました」
「では、私の恋愛成就に協力してください」
「なんでどいつもこいつも俺に恋愛成就のお手伝いをさせたがるんだよ」
「おや、他に誰かの恋愛成就を手伝っているんですか?」
「そうだけど」
「久遠先輩…な訳が無いですから、高本先輩辺りですか?」
「まさか高本先輩も斎藤先輩のことを…」
「なわけ」
「うーん…ああ、永松先輩ですか?」
「探偵並みの名推理だな」
「ふむ。では私のライバルではないですね」
「久遠さんもお前のライバルにならないぞ」
「おや、付き合ってもないのに自分のもの扱いですか?なんと気持ちの悪い」
「ひどい」
「現時点では、久遠先輩は私のライバルです。しかし、私に協力すれば、斎藤先輩と久遠先輩が親密になるのを回避することができます。そうして、邪魔者がいなくなった日向先輩は晴れて久遠先輩に告白する権利を得ることができます」
「え?俺今その権利ないの?」
「どうせあってもしない癖に」
「そんなことないもん!するもん!」
「先輩がやっても気持ち悪いですね」
「うるさいわい」
「では休日ダブルデートに行きましょう」
「は!?どんな流れでそんな話になった!?」
「私に協力するって言ったじゃないですか」
「え、するって言ったっけ?」
「協力…してくれないんですか?」
「そんなあざと可愛い上目遣い、この俺には通用しないぞ。久遠さんなら話は別だけど」
「いちいち言わなくて結構です。では協力は…」
「トリプルデートならいいよ」
「とり…え?」
「永松と高本さんの仲を深めるついでならいいよ」
「面倒事を一度に済ませようとしてませんか?」
「そんなことないよ、何言ってんだよ」
「まあ、高本先輩や久遠先輩も同意してくれるのであれば私は構いません」
「分かった。それじゃまた連絡するわ」
その後、高本さんにトリプルデートの話をして困惑されつつもOKをもらい、久遠さんにも同じく困惑されつつもOKをもらえた。
ふっふっふ、今回もしれっと二人きりになって久遠さんと幸せのひとときを過ごさせてもらうとするぜ。
雨宮さんは書いてて楽しいキャラです。




