第10話「振った人のことが気になってきた」
初の斎藤くん視点です。
斎藤 泰成は目立たない。
自分に自信がなく、クラスの中でも空気のような存在であり、その事実から逃げ出すかのように教室の隅でひたすらライトノベルを読みふけっている。
ライトノベルを読んでいる時は、自分のことを忘れられる。
ただし、日向 湊斗は例外である。
日向 湊斗は教室の隅でライトノベルの世界に逃げ込んでいた泰成に話しかけ、そのライトノベルのアニメ版を見たことがある、という話題から彼と友人になった。
それ以来、湊斗と泰成はよく話すようになり、休日には二人でアニメ系のショップなどに向かうことも増えていった。
日向 湊斗は自分と同じ雰囲気をどこか持っていて、自分の自信のなさを感じさせないでいてくれる存在。
だが、湊斗と泰成は同じ人間では無い。
友達がほとんど居ない泰成に対し、湊斗にはそこそこ友達がいる。
女友達、なんて存在も彼にはいるらしい。
別のクラスにいる神崎 凛音という女子が彼の中学時代からの友人であるとか。
彼はすごい。
何もしなくても、湊斗の周りには不思議と人が寄ってくる。
だが彼は決して、クラスの人気者という訳では無い。
たくさんの生徒が彼を慕っているわけではない。
それでも、彼には友人と言える存在が何人も存在している。
それはとても凄いことだ。
誰もがウットリする美形でもなければ、スポーツ万能でもない。
故に、クラスの全員から好かれる人気者では決してない。
それなのに、だ。
それが泰成にとっては不思議だった。
日向 湊斗の魅力とはなんなのだろうか?
1年以上、彼の友人をやっているにも関わらず、斎藤 泰成にはそれが分からなかった。
しかし、日向 湊斗には恋人が居ない。
彼のような人間であれば、恋人がいてもおかしくない。
彼には、思いを寄せる相手がいないのだろうか。
自分に自信がなく、誰かから好かれるはずもないと思っていた泰成は、"恋バナ"というものを避けていた。
そのため、湊斗の恋愛事情を何も知らない。
2年生になった今も知らない。
知ろうとしなかった。
しかし、斎藤 泰成には自分も思いもしなかった出来事が起こった。
2週間程度前に久遠 葵という女子が自分に告白してきた。
信じられなかった。
なぜ、自分を?
なぜ、ほかの誰でもなく自分のことを?
信じられなかった。
女子の仲間内で、罰ゲームで告白してきているのではないか?
ラノベで見たことがある。
だが、久遠 葵の表情に嘘があるようには、なにか裏があるようには思えなかった。
もしこれが嘘告だったら、もしこれが何らかの罠であったならば、泰成は女性不信になること間違いなしだ。
久遠 葵のように自分にあそこまで好意を寄せてくれ、それを言葉にしてくれた人はいなかった。
その気持ちが、とても嬉しかった。
思い返せば、思い返すほど、彼女の言葉や態度に胸がいっぱいになる。
だからこそ、"僕と君じゃ釣り合わない"という断り方をしてしまったのは非常に悔やまれる。
自分に自信がなく、自分なんかと付き合ったことが知られれば、久遠 葵の立場が危ぶまれるのではないかという懸念によるものだが、それは彼女の恋心を傷つけてしまう言葉だったかもしれない。
もし、時間を巻き戻せるならあの言葉を撤回したい。
だが、現実にSFものに出てくるタイムリープマシンは存在しない。
"飛ぶ"ことなど出来ない。
"リバイバル"など起こらない。
過去は変えられない。
だが、未来は違う。
未来を変えることなら出来る。
これからの自分の行動次第で、自分は久遠 葵の思いに応えることが出来るようになるかもしれない。
久遠 葵をもう二度と、泣かせるようなことがないように出来るかもしれない。
気がつけば、彼女のことばかり考えていた。
彼女のことをもっと知りたくなっていた。
そういえば、湊斗はいつの間にか久遠 葵と仲良くなっていた。
なぜ、という疑問は意外となかった。
湊斗の元には不思議と人が集まってくる。
湊斗には人を寄せつける、謎のフェロモンでも出ているのかもしれない。
永松 優希もその一人だ。
クラスの女子の憧れの存在である永松 優希も、湊斗の魅力を知ってしまった一人だった。
そして、久遠 葵もその一人なのだろう。
気づけば、湊斗とよく話すようになっていた。
湊斗と話しているときの久遠 葵は、自分に想いを告白してきた時の久遠 葵はまた違った印象だった。
素の久遠 葵というのだろうか。
リラックスした様子で、湊斗も話している。
クラスの大多数の人間は気づいていないが、日向 湊斗は不思議と話しやすい。
万人受けするタイプでは無いかもしれないが、
誰からも相手にされない自分のようなタイプでもない。
誰からも相手にされないは言い過ぎか。
自分を大切に思ってくれる家族もいるし、文芸部の後輩だって泰成のことを先輩として慕ってくれている。
だが、それでも泰成は湊斗と自分は違う人間と思っている。
そして、今回それに対して初めて嫉妬を覚えた。
今までは尊敬のような感情をどこか抱いていた気がする。
しかし、久遠 葵の存在が泰成の見方を変えた。
泰成にとって、湊斗はある種、ライバルのような存在であるという認識へ変わりつつあった。
だから、泰成は永松 優希と久遠 葵と連絡先の交換の場に割って入った。
"湊斗の友達だから"という理由で永松 優希が久遠 葵と連絡先を交換するのであれば、湊斗の友人である自分にだって、その権利があるはずだ、と泰成は思っていた。
だから、泰成は行動に出た。
少し、突然割って入った自分に対して戸惑いつつも久遠 葵は連絡先の交換を拒まなかった。
湊斗には負けたくない。
彼女は自分のことが好きなのだから。
自分のことが好きだと言ってくれたあの子を、湊斗に渡すつもりはない。
こうして、泰成は湊斗とライバルになった。
そして、湊斗も泰成のことをライバルだと思っているのだが、二人がお互いをライバル視するようになったことをお互いは知らない。
はい、斎藤視点でした。
湊斗と他のキャラ、みたいな会話が多くなってしまい、
斎藤の出番が減ってきたのでねじ込んでみました。
また気が向いたらやります。




