日本には性的表現が溢れ過ぎている?
とあるSNS。
欧米などに比べ、日本社会では性的表現が頻繁に見られる。その点について、様々な意見が交わされていた。そしてそれは、ある女性だろう人物のこんなコメントが切っ掛けだった。
『アメリカでは、日本アニメの性表現が問題視されているわ。意識改革が必要。日本ももっと性表現を規制するべきなのよ』
欧米は性的表現に対してあまり寛容ではない。
ケモナーと呼ばれる、動物同士のポルノコミックが欧米では発達していて、「日本人よりもHENTAIじゃねーか」などという声が上がっているが、これは欧米では性的表現に対して否定的である為に、比較的許容される動物同士のポルノが多く出回った結果なのだという。
(……性的表現の規制によって、このような結果に至るのならば、やはりやらない方が良いのでは? という感想をつい抱いてしまうが)
『日本は欧米に比べて性犯罪がかなり少ない。規制なんか必要あるのか?』
『“表現の自由”についても考慮しなくては』
『性表現を見て、不快に感じる人のことも考えてよ』
様々な意見が噴出する中、突然、このようなコメントが出た。
『“名誉の殺人”は許せない風習ですよね?』
“名誉の殺人”とは、婚姻前の女性が性交した場合、その女性を殺害してしまうといった風習を言う。
問題を提起した女性は、このコメントは味方であると判断したのか、『ええ、もちろん、許せないわ』と好意的にそれに返した。
すると、そのコメント主はこのように続けたのだった。
『ところで、“名誉の殺人”のような風習がどうして生まれるのかを知っていますか?』
誰も知らなかったのだろう。返信は何もなかった。コメント主が説明をする。
『“配偶者防衛”という生物の習性があります。これは貴重な卵子の生産者であるメスをオスが独占する行為を言います。極端な事例がハーレム制ですね。一部のオスが複数のメスを独占してしまう……
この“配偶者防衛”は、実は人間にも観られまして。その為に、女性が性的アピールをする事を禁じます。貞淑さをもって美徳とする性道徳もそれと同じですね。夫以外の男性と性行為をした場合は殺してしまう。“名誉の殺人”はその極端な事例と言えるでしょう』
そのコメント主の説明には誰も何も返さなかった。興味深く受け止めているのかもしれないが、一部の聡い者達は気付き始めていたのかもしれなかった。
“……あれ? これって性表現規制への反対意見なのじゃ?”
コメント主は続ける。
『このような性道徳は、男系社会で発達します。女系社会の場合は、生まれて来る子供は女の血を継いでいれば良く、その為、性に対して奔放でも大きな問題はないからです。仮に女性が複数の男性と性交を行ったとしても、生まれて来る子供がその女性の血を継いでいるのは確定していますから』
その段になると、流石にコメント主の意図を誰もが察しているようだった。ただ、反論はない。
コメント主は続ける。
『欧米は典型的な男系社会です。だからこそ、性表現に関しても不寛容なのです。それに対して、実は日本は女系社会が比較的残り続けていた事が知られているのです。日本神話の最高神である天照大神は女神であるとされていますが、それは女系社会の影響を受けていると言われています。
だからこそ、日本は性表現に寛容なのでしょう』
そこまでをコメント主が語っても、誰も何も言わなかった。
コメント主は最後にこう語った。
『欧米の性道徳が全てではありません。それは多様な文化の一つに過ぎないのです。もちろん、女性が性的に搾取されて来たという点も事実です。それを防ぐ意味で、欧米の性道徳にも価値はあるでしょう。
――ですが、
“女性は貞淑であるべきだ”
そのような性道徳の所為で、性的に奔放な女性は差別や虐待を受け続けて来ました。例えば現代だってAV女優などが侮蔑されるケースがあります。
“絶対に自分の性道徳は正しい”
そのように思い込むのではなく、まずは自分の考えが本当に正しいのか、疑ってみる事から始めてはみませんか?』