117, 動けない
「じゃあ、またね?」
「は、はい〜⋯⋯⋯。」
居座り亭と詰所の丁度中間地点のあたりにある噴水前でシャルルはハーディの頭を撫でて帰って行った。彼の姿が見えなくなったところでハーディはその場に頭を抱えてしゃがみ込む。
(結局、覚悟が決まらず渡せませんでした⋯⋯。)
何故か無理なのだ。最近、シャルルを前にすると謎に浮ついたような心地になる。落ち着かないし、照れる。
「うぅ、イメージトレーニングではバッチリなんですけど。」
居座り亭や、団長専属連行係のお仕事で探すときは平気なのに、偶然あったり連行係の帰りとか、少しゆるい雰囲気の時は何故だが無理なのだ。
「あれ、あれ⋯⋯?」
前までは当たり前のように接していたのに、今ではその頃の自分がどんな感じだったのかイマイチ思い出せない。
「なんで渡せないんでしょう。ありがとうの印なのに。渡したいのに⋯⋯。」
鞄の中の袋を開ける。今手元にあるのは薄黄色の髪紐。祭り日の屋台で購入したもの。
「あ痛たたたぁ⋯。」
「?」
ハーディは顔を上げた。辺りを見回すと、少し先にハーディのように地面に座り込んだおばあさんがいる。
「大丈夫ですか?」
「んぁ?あぁ、ちょっと足をつっただけさね。困ったねぇ。店を開けて来たというのに。」
「あの、よければ私がおぶってお店までお連れしましょうか?」
「おや。良いのかい?」
「えぇ。良いですよ!!」
「なら頼もうかねぇ。」
ハーディは小柄な女性をおんぶした。指示される通りに道を進む。
「あぁ、ここだよ。」
「ここですか?」
たどり着いたのは一軒の占い屋だった。中に入って女性を椅子に座らせる。
「ありがとうねぇ、お嬢ちゃん。何かお礼に⋯。そうだ。何か悩み事を見てあげようか。嬢ちゃんは精霊に好まれているようだし、きっといいものが見れるよ。」
「精霊に好まれているですか?」
「あぁ。私は精霊を見て占う占い屋なのさ。技術的なところは秘密だがね。」
「悩み事ですか⋯⋯。」
(普段こういったお店には来ないですし、いい機会かもですね。)
「お願いします。」
「なら、そこのイスに座りな。」
「はい。」
言われたままに座ると、女性がどこからかカードと水晶を取り出した。
「まずは、お前さんの悩みをみていくよ。」
そう言うと女性は黙り込み、水晶を覗きながらカードをめくったり、裏返したりし始めた。
(悩みまで見てくれるんですね。少し楽しみ。)
女性を黙って眺めることしばらく。顔を上げた女性はにこりと笑った。
「悩みの部分は自分で気づかないといけないよ。気づけないと意味がない。申し訳ないが、アドバイスのみをさせてもらうね。」
「自分で気づく、ですか?」
「あぁ、無自覚に抑えているものを、抑えてはいけない。気持ちに正直になりなさい。そして求めなさい。今まで通り努力と思いやりを忘れなければ、きっといい方向へ舵を切れるから。それが、精霊たちが口を揃えていっていたことだよ。」
「無自覚に抑えている?」
「無自覚なんだから心当たりがなくて当然さ。でも、悩みを見るのに悩みを教えられないのは申し訳ないねぇ。そうだ。今度お友達と遊びに来なさい。一緒に見てあげる。」
「え?!いや、流石にそれは⋯⋯。」
「暇な婆の暇つぶしに付き合ってくれないのかい?」
「えっと、それは別もののような⋯。」
「はい。なら、今度の三日月の夜の翌日、その日に来なさい。」
「え。」
「婆との約束、破るんじゃないよ。」
「え、あ、ありがとうございます。」
ハーディは呆気に取られつつ頷いた。
○△○ オマケ ○△○
「しかし、何年ぶりにあんなに精霊に見守られている娘をみたかね。」
婆は上を見上げた。そこには、ふよふよと浮かぶ光る丸いもの、精霊が浮かんでいる。色は様々で、赤に緑に、白色など、様々だ。だが、数は先ほど女性がいたときよりも圧倒的に少なかった。
「魔力が無いから、それを補うように愛されている。」
占いをする、それは、相手の魂、ひいてはこの世界に向き合うことだ。何十年も続けていれば、次第に見えなかったものが見えるようになる。
「しかし、溶け合っている理性と感情が恋愛になるだけであぁも離れているとは、彼女何を恐れているのじゃろうか。」
黒、白、青色の精霊が寸劇のようなものを始める。白が青から逃げ回るのだ。そして、黒は近くとも遠くとも言えない場所からそれを見守っている。
「若いっていいな。」
ここまで読んでいただきありがとうございます。




