3・ひとつめの分岐点
久しぶりにお泊まり会やろうぜ。
冬休みも終わり間近、湊が俺たちを招集した。招集したくせに、集まるのはもちろん俺の家だ。放課後以外で集まるのは実に半年ぶりだった。母は新年会だとかで今夜は帰ってこない。
「ミナ、白菜は二センチ幅だって。ユッチ、ネギに泥付いてるから先に洗えよ」
キッチンで包丁を握る二人に指示を出しつつ、俺は鶏肉でつみれを練っていた。今夜のメニューは悠一郎リクエストの水炊きだ。リビングのコタツにカセットコンロを設置して材料を運ぶ。
「ユッチはどこ受けんの?」
「開明ですけど」
「予想はしてたけど、やっぱりか……タツは?」
「まだ決めてない。瑞原かつばさ北か、その辺りしか無理」
湊が力任せにすりおろした大根おろしは随分と目が粗かった。メガネが曇ったのか、裸眼の悠一郎が片目を瞑って睨むように箸を使っている。悠一郎の右目は生まれつき視力がほとんどない。
「俺、瑞原もヤバイ……マジ行くとこねぇ……」
運動神経は一番の湊が、勉強では最下位になる。変わらず真ん中は俺だ。
「ミナだったら推薦はどうですか?」
「つばさ北の体育科? むりむり。バレー部のレギュラーならともかく、バスケ部弱いもん」
食べる速度に鍋が間に合わず、いっときの小休止と箸を置いた。
「ユッチは塾の時間増える?」
「はい。春から一年間は、遊ぶ暇なさそうです」
「げぇ……俺、無理。ユッチ人間業じゃねぇ……」
「そりゃ、本橋医院の跡取りなんだから医学部目指すしかないだろ」
「そういうのってしんどくねぇの?」
「どうなんでしょう。ずっとこうだし、しんどいとか考えたことはないですけどね」
一年後にはバラバラか。湊がぼそりとつぶやいた。〇歳から一緒にいて十五年、初めて道が分かれることになる。
いや、違う。きっと道はもっと前に分かれていた。ただ、偶然同じ方向に並行して進んでいただけで、悠一郎の道は、悠一郎の部屋にあったゲーム機を悠一郎自らリビングに移動させた小学四年生のときに、分かれていたのだろう。
湊は果たして、まだ自分と同じ道にいるのか不安になった。俺の道は、野原に茂った雑草の隙間程度の心もとないもので、それが道なのかどうかさえ曖昧だ。どこに向かえばいいのかなんてわかるはずもない。
「受験かぁ……」
締めのうどんをすすった湊が眉間に皺を寄せた。苦笑いの悠一郎がカセットコンロの火を止める。
こんなふうに三人でくだらないことをしゃべって、学校に行って、またバカ話で盛り上がって。そんな日がずっとは続かないのだと急に気づいてしまった。
「めんどくさいなぁ」
嫌だなと言いかけて、言葉を変えた。確たる理由もなく嫌だというのは、なんとなく女々しいような気がしたのだ。
大きく何度も頷く湊を笑いながら、悠一郎も確かにそうだと肩をすくめる。受験はゲームで言えば、避けることのできないミッションで、結果がどうあれ必ずやり遂げなければならない。
「あー……嫌んなる……」
俺が下手なプライドから言えなかった単語を、湊がいとも簡単に口にする。それは全然女々しくなくて、俺は大きく頷いた。
これまでと変わらずにいることなんか、もう望んでも仕方がないのだろう。俺も湊も、嫌でも進路を決めてしまわなければならない。どこへ行きたいのかじゃなく、どこなら行けるのか。選択肢の数は、これまでの努力に準じていて、俺の場合はせいぜい片手で数えられる程度だ。その選択肢ですら、自ら選んで進むにはまだ曖昧すぎた。