表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/100

第74話 封じられた右眼の探偵(芽吹月十九日・午前/姫様視点)

 「この人……やっぱり、変わってるわね」


 政務室の応接間に、妙な空気が流れていた。  正面に座るのは、黒い眼帯をした女性──カティア・グランディール。  影紋課所属という、王城でもとくに内密な調査部署の人間だ。


 「あいかわらず、目立たない服が苦手なのね」


 「ええ。地味な服は、精神がすり減るので」


 笑顔なのに目がまったく笑っていない。  アイリス曰く、かつて“とんでもなく理屈っぽくて、ひとを信用しない人”だったらしい。  今は──少しだけ話しやすくなった、気もする。



 「セディル・ヴァレンス補佐官代理については、監察対象として過去にも記録があります」


 「やっぱり」


 「正確には、“不自然な帳簿修正の多さ”と、“再契約を通した複数の業者が後に不正を起こした”ことが主な理由です」


 カティアが資料を差し出す。整った文字の中に、不穏な文字列がいくつも並んでいた。


 「この“オルグ・トゥリム商会”もそうね」


 「はい。特にこの納品記録。毒物取り扱いに関する許可証の記載が、別業者名義と一致していました」


 「つまり、偽装?」


 「そう解釈できます。名義の使い回しで、毒を合法的に流し込む仕組みが成立していたと」


 私は椅子に背を預け、ため息をひとつ吐く。


 「思ってたよりも、根が深いかもしれないわね……」



 午後。  カティアとの話を終えて部屋に戻ると、アイリスが報告のまとめを進めていた。


 「カティアさん、変わってませんでしたか?」


 「ええ。変わってたけど……やっぱり変わってる」


 「よく言われます、って本人が言いそうですね」


 ふたりで小さく笑い合ったあと、私は真顔に戻る。


 「でも、頼れる。すごく。私たちだけじゃ限界だった」


 「……はい。ようやく“反撃”の形が見えました」


 「まずは、セディルの帳簿。次に、オルグ商会との接点。あと……」


 「“あの場所”ですね」


 アイリスが小さく言ったその言葉に、私はわずかに頷いた。


 「カティアさんが提示してくれた“空白記録のあった区画”──王都南部の旧第三区画」


 「……はい。そこ、記録が断絶していると聞いて……思い出しました。昔、あの街区で見た荷車の印……オルグのものに似ています。子どもの頃、何度も目にしました」


 彼女の声は低く、どこか震えていた。


 「そのときは、何の意味も感じていませんでした。でも、今こうして見ると──全部、そこから始まっていたのかもしれないと思ったんです」


 私はそっと目を見開いた。


 「……だから、確かめに行くのね」


 「はい」


 私の付き人は、何も語らない過去を持っている。  けれどそのすべてが、今このときの強さに繋がっているのだと──  私はようやく、少しだけ理解できた気がしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ