ep2-要するに世界は巻き込まれただけ-
まあ、要するに世界は私の盛大な自慰行為に巻き込まれただけってことだ。
流石の私も自分が少しおかしい事は理解している。
私がおかしくなったのは、五歳の時。道端に転がっているカラスの死骸を見た時だった。
一目見て、目が離せなくなった。無残に散った羽根、僅かに見える血の跡。当時は悲鳴を上げているように見えた表情。
なぜかは分からない。なぜかは分からないが、私は興奮した。
傍から見ると、私は死骸を見て目を輝かせる、おかしな幼児だっただろう。
七歳になり、小学校に入った私は、それがおかしい事だと気が付いた。
カラスの死骸も、猫の死骸も、犬の死骸も、どんな動物の死骸も皆一様に気持ち悪いと言うだけだった。
さらに死骸を見たくて動物に石を投げていたことが親に見つかり、動物に石を投げるのはダメなことだと叱られた。その流れで動物を殺していたことがばれて、さらに叱られた。
当時は何故それがダメなのか、分からなかった。
分からないなりに言われたことを考えて、結局私は警察に捕まるからダメなのだと解釈した。
悪いことをすればサンタは来ないが警察は来る。
純粋無垢な幼児だった私はそれだけ理解し、中学生になった。
私が十四歳の時、世界に魔法を扱う少女が現れた。
最初はフェイクだなんだと騒いでいた世界は、各国が正式に動き出した所で次第に魔法を認めていった。
我が国日本でも、「魔法少女」の名称で保護され、色々な検証が行われていたそうだ。それが人権に反しなかったかどうかは不明だが。
噂によれば、どこぞの国では遺伝子実験や交配実験なども行われたらしい。そういう悲劇は大好物なのだが、そのような実験記録などは私が探した限りだと確認できなかった。
私も、十五歳のころに魔法を発現した。
朝起きたら、魔法の使い方や魔力などがわかるのだ。あれは流石に驚いたし、少し吐きそうだった。
幸運だったのは、私の魔法は「認識」を操作する魔法だということだ。
一先ず、別の魔法少女が私の魔力を認識しても魔法少女だと認識しないように魔法をかけ、中学校に通った。
それからは魔法の実験を自分で進めた。
中学校の間に確認できたことはそれほど多くは無かったが、基礎的なことを多く知れた。
大雑把に言えば、私は人の「認識」の大体は操れるということだ。
これが常識という「認識」。
ここに人がいるという「認識」。
何かに触れたという「認識」。
食べたものが辛いという「認識」
人が何かを感じてインプットする内容は変えられないが、インプットしたものをどのように処理するかには干渉できる。
それが私の出した結論だった。
そんな事をしていたからか受験勉強は全くしていなかったが、元々勉強はそこそこできたので事なきを得て、私は高校に進学した。
高校に入ってからは魔力に関する実験した。
その頃には私はほぼ一日中魔法を使い、私が正しく高校生活を送っている認識を人に植え付けて、自由に過ごしていた。
魔力に関する実験と言っても、私自身で分かった事などほとんどない。
せいぜい魔法を使える人は自身で魔力を生成し宿している事。魔力は一定以上には生成されない事。魔法を使えば一時的に魔力が減ること。
高校二年生の時に忍び込んだ魔法少女の保護を行っていた場所に忍び込んで見つけたレポートで分かった事の方が多い。
まず、魔力はどこから生まれるのか。答えは卵巣らしい。どうも卵子を作る機能と引き換えに魔力を生み出しているのだとか。
じゃあ全ての女性が魔力を生み出すのかとか、男は何故魔力を生み出せないんだとか、疑問はあるが、絶賛研究中らしい。
次に、魔力は魔法を使えば使うほど、一度に宿せる魔力が増えるらしい。これもまた詳しい事は研究中らしい。
しかし、私が魔力の実験を進められなかった原因である魔力の可視化装置を、国は完成させたらしい。
大型すぎて持ってくることは叶わなかったが、小型化、軽量化が進んだ暁には、是非ともほしい。
機械が軽いと自分に認識させればいいじゃないかって?
実はそこがこの魔法の使いにくい所なんだよ。生物以外の物体が絡むと途端に使えなくなる。
自分が運べない物を運べると認識したところで物が実際に運べるまで軽くなるわけではないし、自分に疲れていないと認識させたところで実際に疲労は溜まる。それをしたところで急に倒れるだけだ。
まあ、機械を通して私を見たとしても、そこに私はいないと認識させることはできる。警報は鳴るが、監視員は私を見つけることができない。
まあ、熱源感知で自動照準される防衛機構とかはどうしようもない。
それに、魔力が増えるということは出来る事の規模が増えるということだ。
今は出来なくても、いずれ出来るようになるかもしれない。
なにせ、十四歳のころには自分にしか魔法をかけられなかったのに、今じゃ世界中の人間に魔法をかけることが出来るからな。
まあ、私がこんなに必死になって魔法を伸ばしたのも、すべては私の欲望のためだ。
つまり、人を殺したいという欲望のため。
記念すべきその最初の一人は高校のクラスメイトだった。