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06 探索者ギルド

「う~~ん、午前中のピークは終わったぁ」


 腕を組み背伸びをした。

 私の名前は、シヴァ。

 王都アヴァニス探索者ギルドの受付嬢をしている。

 朝からの依頼受注作業が終わった昼間が、ゆっくりできる合間で、ご飯など取るために交代で休憩へと入る。

 15時ぐらいから、依頼を終えた探索者たちが帰ってきてまた忙しくなっていく。


「……嫌味ッスか。センパイ」


「何が?」


 背伸びをしていただけで後輩のイリナが睨みながら言ってきた。

 今年入ったばかりの新人だけど、きちんと丁寧に仕事をすることで、ギルド内や探索者の評価もいい感じの女性である。


「何がじゃねーですよ。そんなに腕を組んで、背伸びしたら、センパイのっ、その凶暴で豊満な胸が強調されるじゃあないッスか。私の、私達に対する嫌味ッスよね!!」


「イリナ。私達を巻き込まないでくれる?」


「ルーは羨ましくないッスか。あの、暴力的なっ、胸っ!!」


「――……まあ、ちょっとは、ね?」


 イリナと同期であるルーも、私の胸の部分を見ながらそう言った。

 私はため息を吐いて言う。


「イリナ。胸が大きくても良いことなんてないの。肩は凝るし、下着もデザインがイマイチの物が多いし大きい分高いし、男性はもとより女性の視線も胸に来るし、書類とかも胸が邪魔で机において下まで見るのが大変なんだからね」


「あ゛あ゛あ゛。なんッスか。自慢ッスか。巨乳自慢ッスかぁあああ」


「イリナ。落ち着きなさい」


 イリナの貧乳コンプレックスは理解しているけど、背伸びしただけで、こういう絡まれ方するのは、もう何度目かだ。

 両手を上げると私(の胸に)に襲いかかろうとしてくる。

 深い溜息を吐き、いつものように捌こうとしたけど、イリナが襲いかかってくる事は無かった。

 イリナは立ち止まり、顔に大量の汗を浮かべて震えている。

 ……イリナだけじゃあない。

 ルーや他のギルド職員、ギルド内に居た探索者たちも似た感じで、酷いのは膝を床についたり、倒れかけたりしていた。


「こんにちは。王都の探索者ギルドへ移転処理して欲しいのだけど、此処で大丈夫?」


 ……人生最悪のアンラッキーデイ。

 弐代目「拳聖」ヴァサラとの出会いを現す適切な表現は、それに尽きた。





……

…………

……………………





 王都アヴァニスの見学を行いながら、探索者ギルドへとやって来た。


 探索者ギルドに来る前に、商業地で開かれている市場があり、旦那様に放置されていた5日間で消費した食料品を買ってトランクへと詰め込んだりした。

 このトランクは、巨大な倉庫の入口となっている。

 どれぐらい広いかは知らない。

 私の感知範囲では倉庫全体を把握できなかったからだ。

 倉庫の中に入って行えばまた違ってくるのだろうけど、お祖父様が若い頃に中に入って、空間拡張された倉庫は時間が止まっているため、入った後に何かの拍子でトランクが閉じてしまい、一通り整理して出たときには、国が一度滅んでいたと笑いながら言っていた。

 ――全く笑いごとじゃあない気がするのは私だけだろうか。

 その話を聞いてからは、中には入らないようにしている。

 中の物に関しては、精霊のような存在がいて持ってきてくれる仕組みになっていた。

 一応、この倉庫に入れるトランクは3個あって、お祖父様、お母さん、私が所持。

 万が一、誰かが何処かで亡くなったとしても、誰かが倉庫の中身を引き継げる仕組みになっている。


「ここが王都の探索者ギルド。なんというかキレイだなー」


 魔大陸のアレクサンダラにある探索者ギルドは、お世辞にも綺麗とは言えなかった。

 まあ、向こうの探索者ギルドは、ギルド内で喧嘩が頻繁に起こっているので、修理もあくまで応急処置的なもので終わっている。

 きちんと修理しても、どうせまたすぐに壊れるからね。


 探索者ギルドへ入ると、受注のピークが過ぎている事もあって、人は疎らであった。

 なんか賑やかな受付嬢たちがいる所までいく。


「こんにちは。王都の探索者ギルドへ移転処理して欲しいのだけど、此処で大丈夫?」


「……覇気を薄めてください。後輩が動けなくなっています」


「ああ、ごめんごめん。つい癖で」


 覇気の強さを0まで落とした。

 アレクサンダラの探索者ギルドだと、強さのピンキリで闘いを挑まれたり襲われたりが日常だったので、覇気を出して分別するようにしていた。

 流石にフルで覇気を出すと、ギルド職員が動けなくなるので、耐えられるギリギリで出すようにはしていた。

 因みに、アレクサンダラの探索者ギルドのギルド職員はそれなりの実力者が多い。

 そうでないと、私のような大人しい常識的な探索者は少なく、常識がない荒くれ者の探索者が多いギルドで職員が務まらないからだ。


「……王都アヴァニスへようこそ。移転処理との事ですが、以前所属していた所のギルドカードはお持ちでしょうか」


「はい。どうぞ」


 トランクケースからギルド証を取り出す。

 たぶんEランクからの開始だろうなぁ。

 オーティスが王都の探索者ギルドでAランクを取っていたようだけど、アレクサンダラではランク1からとなったとボヤいていた。


 王都の探索者ギルドのランクは、最下位のE・D・C・B・A・Sの六段階制

 魔大陸の探索者ギルドのランクは、ランク1から上がっていく形式。

 探索者ギルドは国々の独自機関なので、国によってランクのやり方は少し変わってくる。


「はっ? ランク……666? もしかして、深淵を越えた人外?」


 私の覇気に動じていなかったし、深淵を越えたとの発言をいう辺り、ただの受付嬢じゃあなさそうだ。


「――ギルドマスターに確認をして来ますので、少しだけお待ち下さいませ」


 営業スマイルを向けて立ち上がると、奥の部屋へと向かっていった。

 奥の部屋は、窓ガラス越しにコチラを伺う事ができるようなになっていて、男性一人が私を見ていた。

 パッと見た感じ戦闘力は高くなく、どちらかと言うと闘いよりも政治に強い感じがある。

 王都となれば、そちら方面が強さよりも重要になってくるだろう。

 因みにアレクサンダラの探索者ギルドマスターになる条件として最低深層はソロで活動可能な実力が求められる。

 どんな会話がされるのか、気になり、聴力を強化して聞き耳を立ててみた。


『ギルドマスター。失礼します』


『シヴァちゃん。なにあのバケモノ。え。もしかして他所の国のギルドからの殴り込み?』


『いえ。移転処理ということでしたので、活動拠点をアヴァニスへ移したいのでしょう。で、問題は彼女のギルドカードです』


『――…………は? ランク666。ありえないでしょ。魔大陸での上限はランク99のハズ。ギルド証の偽造?』


『ギルドマスターも噂には聞いたことがあるでしょう。『深淵の奥深くの先に、次元が違う別世界がある』と』


『それは、まあ、ね。でも、深淵の最奥にいける探索者なんていないに等しいし、それってよくある魔大陸の眉唾物の噂――もしかして、ある?』


『あります。魔大陸のギルド証がランク99を超える条件。それは深淵最奥にあるボスを斃し、更にその先に進む事。だけです。その先の世界は、噂通りに次元が違う別世界が広がっています』


 そう。ほとんど知られていないが、魔大陸自体がチュートリアルという意味合いが強く、あの大陸が出来た理由は深淵の最奥にいる門番を斃し、その先へ行くほどの実力者を作り出すことだと、お祖父様は以前に語っていた。

 受付嬢――シヴァがいう通り、扉の先は次元が違う世界が広がっている。

 正直言って、此方側とは比べ物にならないほどに、向こう側に存在している者々が圧倒的に強い。

 昔、深淵のモンスター相手に楽勝だった私が、向こうに行って初めて出会ったモンスター、ゴブリンにヴァサラ流の全てを出してもどうする事もできずに、なすすべもなくボコられて死にかけた。

 そのゴブリン自体は、ユニークでもなんでもなく、ただ普通にいるだけの雑魚だったのだから、向こう側の存在の強さが分かるだろう。


『ランク99を超えるということは、人の域を越えて枠組みを外れた者。つまり人外です。それで、ギルドマスター。どうします?』


『どうするって?』


『移転話です。ギルドマスター、断りましょう。ランク666とか、人外を越えた頭のおかしい相手です。王都の全勢力が一致団結して立ち向かっても、成すすべもなく返り討ちに遭う理不尽な存在なんです。何かあってもどうする事もできませんよ』


『…………いや、移転したいというのなら、受け入れよう』


『はあ。正気ですか、ギルドマスター。私のさっきの話を聞いてました!?』


『もしも断って暴れられた場合、とてもじゃあないがギルドでは抑える事ができないだろう。私のような只人に出来ることがあるとすれば、自然災害のように大人しく過ぎ去る事を願うだけだ。そういう意味では、人害指定されている伝説の漢を想起させる』


『――ああ。『拳聖』ヴァサラですか。ゴエティア王国を合わせた周辺の国々で唯一の人害指定された怪物。あまりのアレだった為、やることなすことで被害が大きく災害指定されたという…………。

 ――――ヴァサラ? あのギルドマスター。このギルド証に、弐代目『拳聖』ヴァサラって公式記入されていますが』


『…………………シヴァちゃん。キミにSランク探索者専属を命じる』


『はぁぁああああ。この流れって、もしかしなくても、私が、ヴァサラを担当するんですか!!』


『うん』


『いやです。そうだ。私には優秀な後輩2人がいます。高ランク探索者との関わりは、これからの彼女たちの成長に大きな糧となる筈です。』


『まあ、一理はあるだろうけど、高ランク過ぎる。まだ優秀とは今年入ったばかりの新人に相手はさせられないよ』


『私もギルドに入って2年目のニューフェイスですが!?』


『大丈夫。深淵の奥深くの事について確信を持って知っているキミならば、なんとか出来ると信じているよ。もちろんSランク専属という事で、給与も大幅アップを約束しよう』


『……そうだ、活動拠点を移す際は、最低ランクからにするというのがルールのはず。Eランクで受け入れましょう』


『却下。ランク666を相手にEランクにして暴れられたらどうする。ギルドマスターの権限を持って彼女をSランクに指定する。私はこの事を国王陛下に伝えなければいけないから、後の事は任せたよ、シヴァちゃん』


『あ、ちょっと。ギルドマスターっ。逃げるなぁぁぁあああ』


 しばらくしてシヴァは、奥の部屋から出て来る。

 私の前に来ると、再び営業スマイルでこう言ってきた。

 ――おお。さっきの話の流れで、きちんと営業スマイルが出来るなんて、さすがプロ。


「ヴァサラさま。本来であればEランクからのところですが、ギルドマスターの特例でSランクとなりました。また、Aランク以上には専属ギルド職員が付く決まりとなっていることから、私が専属となる事が決まりました。

 私の名前は、シヴァ。ただの探索者ギルド職員です。

 …………以後、よろしくお願いします」


「あ、うん、よろしくお願いします」


 まあ、こうして私は、特にトラブルもなく王都の探索者ギルドへ登録することが出来た。





読んでいただきありがとうございます。


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