お婆様の思惑
帰宅。
屋敷に見張りはいない。さあお婆様に見つかる前に部屋に戻りましょう。
報告するのが面倒。それに今日は本当にもうすぐにでも眠りたい。
お婆様の小言を聞いてる余裕なんてない。
ワワン!
「ほらパンキー静かに。気づかれてしまうじゃない」
こっちの気も知らないで吠えるんだから。躾がなってませんよ。
誰ですかパンキーを甘やかしたのは?
いくら犬でももう少し上品に振る舞えませんか?
ははは…… 私か。躾って最初が肝心。
私がお世話した時にはもうこんな感じだった。
お姉様が悪いんですよ。私は何一つ悪くない。
人のせいにするのは見苦しいですがこれも仕方ないこと。
うん大丈夫。お婆様の姿はない。
もうお部屋に戻られてるでしょうが念のためにここは慎重に。
ゆっくり。それでいて心は焦っている感じ。
大丈夫。今日は絶対にいません。見れば分かるじゃない。
孫娘の帰宅を迎えずに隠れてるはずありません。
もうお婆様は年ですから長い間待てやしない。
恐らく痺れを切らしてお部屋に。
コーコに付き合って遅くなってしまった。
忍び足で屋敷の中へ。まるで泥棒のようでいけません。
どうにか部屋にたどり着いたその時だった。
「待ちな! 」
お婆様に呼び止められる。
「何をコソコソしてるんだい孫娘や? 」
「あらお婆様。お休みになられたのではないのですか? 」
「寝れるかい! あんたが帰ってこないんだよ。
それでどうだいクレーラ? 爵位の方は? 」
聞くことは常に爵位のこと。それ以外は決して受け付けない。
もう嫌になる。
「ははは…… 」
笑ってごまかそうとするが見逃してくれない。
「ああん? はっきりしな! 」
「それが…… 今回もダメでした」
正直に答えると深くため息を吐く。
これは失望させてしまったみたい。でも責任は私にない。
だってそうでしょう? どこにあるとも知らないただの噂に過ぎない爵位贈呈。
ただの妄想の類でしかない。それでも僅かな可能性に賭けている。
だからため息ではなくもっと温かく迎えてくれたらな。
「はあ…… もういいよ。とっと行きな! 」
お婆様もどうやら本気ではないらしい。ただ焦っているのでしょう。
ただ失望させてしまったのも事実。挽回のチャンスはきっとあるはず。
「待ってくださいお婆様! 実はこれ…… 」
正直に王子様のエスコートの件を報告する。
どんなことでも報告するように言われてましたから。
自己判断せずにまずはお婆様の耳に。
まさか怒り狂ったりしませんよね? 私はただ言いつけを守っただけ。
「あんたまさか…… 」
ダメだやっぱり怒っている。怒りに震えてるよう。
「ご心配なく。きちんとお断りしますから。お父様を陥れた王子は許せません」
さすがにそれくらいの常識はある。
王子さえへそを曲げなければこんな事態にはならなかった。
そうでなくても国王に冷静な判断と温情があればこんな窮状には。
「クレーラ! 出るのです。王子をエスコートしなさい! 」
まるで私に暗示をかけるように何度も何度も訴えかける。
まさか冗談? お婆様は狂ってしまったのかしら?
ワワン!
「ほらパンキーだって言ってるだろう」
大人しくしていたはずのパンキーもお婆様の鋭い視線に踊るしかない。
「ですがお婆様! お忘れかとは思いますが王子はお父様の…… 」
「黙りなさいクレーラ! これも爵位を得るためですよ。
没落する前にどうにか王子に取り入るのです」
どうやらお父様の件を無視して王子を懐柔するよう説得するつもりらしい。
「ですがお婆様! 」
「黙りなさいと言っているでしょう! 口答えは許しませんよ! 」
「はいお婆様…… 」
嫌々承知する。
「いいじゃないか。よし十日後が楽しみだね。引き続き爵位探しは続けるんだよ」
そう言うと行ってしまった。
本当に人使いが荒いんだから。苦労するのはこっちなのに無茶ばかり言う。
それはもちろん没落する前に手を打つのは当然。
ですが王子に取り入れとはもう何を考えてるのか?
私にはお婆様の考えてることがまったく理解できません。
もちろんパンキーの言ってることも理解できませんが。
こうして明日からの爵位探しにも身が入らない事態に。
続く