隠れ橋
雑草に囲まれた通称・隠れ橋。
「ほら橋があるでしょう? 」
「おいまさかここを抜けるのかよ? 」
マッギは怖気づく。もう情けないんだから。
できるなら私が代わってあげたい。でもマッギのせっかくの見せ場だし。
「それでは説明をお願いします」
ここは詳しい王子に任せるとしましょう。
「実は…… ここには橋があるんだ。
生い茂るこの雑草が視界を奪うから安心して進んでくれ」
この一角だけ不自然なほど伸び放題なのもこの橋を隠すため。
もしもの時のための脱出路だそう。
「そんなこと言っても王子。渡った瞬間に取っ捕まったらどうするんで? 」
マッギは慎重と言うか臆病。大胆さに欠ける。
王宮を突破しようと言う時にそんな情けなくてどうするの?
今は戦いの真っ最中で王宮の警備も手薄になっているはず。
本来見逃すはずないことも前方に注意が行けば気づかれない可能性が高い。
もちろん絶対と言う保証はない。
ただ幸いなことに橋は今のところ限られた者のみにしか知られてない。
王子によれば前国王も現国王も何度かお使いになられた逃走路。
それを今逆走してることになる。何でも歴代の庭師が守って来たとか。
「なあ聞いてるのかよクレーラ? 捕まっちまうって」
「それを確かめるためにあなたがいるんでしょう? さあ早く渡りなさいよ! 」
マッギを囮に相手の動きを見る。それも戦略の一つ。
この隠れ橋は当然僅かな者にしかその存在を知られていない。
その一人が王子。ただ気になることが。
王子に成り代わった影の王子が脱出の際に使用したこと。
国王奪還作戦には影の王子の存在が大きい。
王子の身代わりに陰謀渦巻く王宮で最後まで役目を果たした。
その後に国王が囚われたと報告も。
彼こそがあの晩にボスバーチュン家にやって来た者の正体。
王子のところまでどうにか戻って来れたのに危うく肉食獣の餌食に。
今は王子に成り代わって偽王子として乗馬部隊を指揮している。
その偽王子の失態。
よく確認せずにこの橋を使ったために気づかれてる恐れもある。
王子によればもうすでにこの橋の存在は知られてるのではないかと。
だから侵入路にここを選ぶことも想定しているかもしれないと弱気。
しかしそれはいくら何でも考え過ぎですと励ます。
「ほら早くマッギ! 」
「押すんじゃねえ! 行ってやるから見てろ! 」
ついに覚悟を決めたマッギ。何て頼もしいのでしょう。
「いいマッギ? もし捕まったら大声を出すのよ」
すぐに知らせるのが重要。そうすれば他の者は回避できる。
マッギには悪いけどここは囮になってもらう。
王子やお父様がいるとは言えやはりここはマッギが適任。
二人とも顔が知られている。ごまかしようがない。
マッギならただの迷い人として丁重に扱ってくれる可能性もゼロじゃない。
まずあり得ませんが。それでもマッギが適任なのは変わらない。
「まったく酷え女だ! 化けて出てやるからな! 」
こうして自らの意思で危険地帯に飛び込んだマッギ隊員の無事を祈る。
彼の功績は我々にとって途轍もなく大きなものとなっている。
五分経過しても静かなまま。これは問題ないでしょう。
さあ隠れ橋を渡りましょう。
王子を先頭にコーコ、お父様、私、その他二名と続く。
緊張するな…… 周りからはただの雑草地帯。
とは言えこちらからは草の陰の隙間から体の一部が見える。
とても生きた心地がしない。ああもうどうすればいいの?
少しでも草を揺らせば怪しまれるから慎重に慎重に。
きゃああ!
コーコが危うく転びそうになり揺れる。
「ちょっとコーコ…… 」
「大丈夫。この辺りはすごく滑りやすくなってるみたい。気をつけて」
どれどれ…… 本当だ。
「クレーラ何をしてる? 早く! 」
恐怖と戦いながらだからつい一歩が短くなってしまう。
そのせいで後ろの者と接触しそうになる。
「おい急げ! それからここは深いし速いから気をつけろ! 」
「ウソ…… 」
王子の一言で余計に遅くなってしまう。
まったくなぜこんな時に落ちた時のことを考えなければいけないの?
こうして雑草に守られた隠れ橋を進む。
ゆっくり十分かけてどうにか終点までやって来た。
敷地内へ侵入成功。
あれマッギは? どこにも見当たらない。それに後ろも。
「二人はどうした? 」
後ろの二人がまだ来ないと王子が救出に向かう。
一番詳しい王子が指揮を執ってもらわないといけないのに……
これでは先に進めない。だから戻って来るまで大人しく待機。
一時休憩と誰もが思っていた。だがそんなところにマッギの姿が。
「マッギ何を…… 」
「ううう…… 誰か…… うぐぐぐ…… 」
太くて大きな手で塞がれ息もままならないマッギ。
これは一体どういうこと?
どうやら完全に動きを読まれていたみたい。
極秘作戦は失敗に終わる?
続く




