大当たり
コーコに付き合って行列に並んだまでは良かった。
でもまさかその目的が王子をエスコートすることだなんて。
どうしてこうなったのでしょう? もう最悪。
「どうだい。やめておくかい? 」
焚きつける男。そうなってはコーコも退くに退けない。
ここまで来てやめるなどありえない。
それが行列に並ぶ者の常識。
やめると言うことは並んだ時間を無駄にすること。
そんなことできるはずがない。
「冗談! さあ行くわよ! 」
気合充分のコーコは私を巻き添えにしてくじを引くことに。
興奮している。冷静で大人しいイメージが崩れていく。
やはりコーコもその辺の女の子と変わらない。
王子にお近づきになれると大喜び。私だってお父様の件がなければもしかしたら。
元々そう言うタイプではありませんが喜びを分かち合うことぐらいできる。
事実異国の王子と知り合えたらなと思ってますから。
ですが我が国の王子となればそれは話が別。受け付けません。
一体このくじが当たって何になると言うのでしょう?
王子に会いたいはずがない。姿も見たくない。
異国の王子ならいざ知らず…… 自国の王子など願い下げ。
祈りを込めるコーコ。私は逆に外れるように願う。
コーコには悪いですが当たって良いことは一つもない。
ただ我慢することが増えるだけ。嫌な思いをするだけ。
今コーコと正反対の願いを込めている。
当たれ! 当たれ!
外れろ! 外れろ!
これで当たればコーコは大喜び。
逆に外れれば私が心の中で大喜び。
酷い人間だと思われるかもしれませんがそれほど嫌なのです。
当たるか外れるかの二択。そんなに難しく考える必要はない。
どうせ無理に決まってる。それが現実。そんなに簡単に当たりません。
呪いにも近い祈りを捧げる。
別にコーコだけが選ばれる分には何の問題もないはず。
それなのに私は外れるように願っている。
おかしなもので王子に関することはすべてタブー視している。
それだけ恨みが強い。
「きゃあ! 当たった! 当たった! 」
大喜びのコーコ。これで役目は充分果たしましたよね?
私はこれくらいでお邪魔することにしましょう。
喜んでるところを見てるのも実は辛いんですよ。
他人は他人。私は私。ここで大喜びするのさえ嫌で嫌で堪らない。
「おめでとう。楽しんできてね」
「ほら何をやってるのクレーラ? 確認しなくちゃ」
コーコは上機嫌で迫る。もうお節介なんだから。
言われるまま仕方なくくじを見る。
どうせ私はついてませんから外れてるでしょう。
二人同時に当たることなんて万に一つもない。あり得ないこと。
「ホラ。やっぱり当たってる! 」
コーコは私が恥ずかしがってると思って無理やりひったくり周りに見せつける。
これで証拠が残ってしまった。もう外れたことにはできない。
悔しがって丸めて投げ捨てる演技もできずにただ茫然と佇む。
「はい二名様ご招待! 」
こうして運悪く王子のエスコート役に。うわ最悪だ。
当日は休めないそう。何とも悲惨な目に遭った。
一体私が何をしたと言うんでしょう? ああ神様こんなことで運を使いたくない。
せめてもう少し有意義なものであって欲しかった。
こんなのいらない。
そうだ誰かに代わってもらえばいい。簡単じゃないか。
ダメだ。もう遅い。遅過ぎる。名前をもう告げてしまった。
何と言う失態。だからいつもお婆様から小言を貰うことに。
あーあ付き合いでこんなところに行くんじゃなかった。
後悔しても後悔しきれない。もうどうにでもなれと言う気分。
もう大興奮のコーコが何を話したか覚えてない。
疲れたな。これ以上は無理。
コーコと別れて帰路へ着く。
ワワン!
無邪気に尻尾を振るパンキー。まるで私に良いことがあったよう。
そう見えるんでしょうね?
でも違うんですよパンキー。嬉しいことなんて何一つ。
そんな純粋な目で見ないで。
結局今日も無駄足でした。
手に入ったのは爵位ではなくティッシュと王子のエスコート。
決して悪くはないんですがそれでも求められてるのは爵位のみ。
お母様と二人のお姉様が寝込んでおりお父様も部屋に閉じこもったまま。
元気なのはお婆様と私だけ。
鈍感な二人とも言えなくもない。
まあ婚約破棄ぐらいで動じるクレーラ様ではありませんが。
続く