危険なお客様
迷い込んだ侵入者と大型肉食獣。
この館には季節ごとにいろいろなお客様がやって参ります。
それは人間も動物も違いはありません。
国王様から領地を任されたとは言えここは宮殿から遠く離れた場所。
恐怖のボスバーチュン家などと地元の者に恐れられ敬われてもいます。
それでも結局は単なる田舎領主でしかありません。
ここよりも栄えたところはいくらでも。元々威張れるような身分ではないのです。
もちろんここよりも田舎な領地もありますがそれは数える程度。
決して他と比べて優れている訳ではない。
町とは言え自然豊かな場所。
だから人間にしろ動物にしろ時期を選ばずに訪れるものが後を絶たない。
今まではメイドや使用人が朝から晩まで目を光られせてましたがそれも今は昔。
爵位を失うと今までよくしてくれた方が離れていってしまった。
それこそ一気に。まるで潮が引くように。
それはメイドや使用人も同様で半分以下に。
今ではその半分にまで減ってしまっている。
残ったのはお父様を慕う者にお婆様のお世話になった者。
今まではお婆様の威厳でどうにか引き留めていた部分が。
その威厳も爵位喪失によって保てなくなってきている。
限られた人材でやりくりしていたが立ち行かなくなるのは必至。
だから屋敷の内外の管理も疎かとなり確実に荒れ果てて行くことに。
もう残り僅かですからね。それはそれで仕方ないことと諦めています。
もし仮にうまく行ってすべて元通りになったら果たして戻って来てくれる?
夜の見張りに割ける人数も僅か。交代制でも追い付かない。
ちょっと前まで当たり前にいた見張りがおらず侵入の脅威にさらされている。
没落を知り嫌がらせで来る者。
荒れ果てて警備が薄いと侵入する泥棒。
我が物顔のように振る舞う動物たち。
その一つに山から下りて来た大型の肉食獣。
家畜狙いの肉食獣。ほら今も目を光らせている。
「王子! 王子! どうしましょう? 」
情けないですがここは王子に頼る。
私ではどうすることもできませんからね。
「いやしかし…… 私は王子であって守られるべき存在。追い払うなど想定外」
追い払うどころか追い回された挙句に餌食となる。
それが今現実となり始めている。それなのに王子は動こうとしない。
「何を言ってるんです? それでは犠牲になるだけですよ」
そう言って王子の後ろに。いつでも逃げられる態勢でいる。せめてもの抵抗。
「それは痛そうだな。うーんどうしようか…… 」
こんな時に何て優柔不断な。迷っている。
しかしもはや選択する余地などない。
逃げられない以上戦うしかない。向かって行くしかないでしょう?
でも武器も何もない捨て身の状態。
せめて火でもあればどうにかなるのでしょうが。
逃げる? やはりここは逃げるべき?
もし背中を見せれば獲物だと認識し襲って来るだろう。
ここは気をしっかり持たないと少しでも弱みを見せたらお終い。
王子とここで果てたらそれも本望……
ううん。もちろん本気じゃない。諦めてどうするの?
「何を悩む必要があるんです王子? ここは思い切った決断を願います」
「しかし…… ここはボスバーチュン家。私が手を出すのは間違っている。
ここは君の方が相応しい。そうは思わないか? 」
「そんな…… 我がままをおっしゃらずに」
「いやそれがこの家のためだ。私が手も口も出すことではない」
逃げの一手を打つ王子。譲らずに頑なだ。
何てことでしょう? 王子はこのか弱いお嬢様に代わりに戦えとおっしゃる。
まったく信じられない。もうこう言う時に人間性が出るんですよね。
王子には失望した。
うぎゃああ!
痺れを切らした肉食獣が威嚇を始める。
もはやいつ飛び掛かって来てもおかしくない。
暗くて全体像ははっきりしないが大型の肉食獣であるのは間違いない。
光る眼がこちらを捉える。
滴る涎に鋭い牙に少しでも引っ掻かれたらお終いの鋭い爪。
ああ…… 何てことでしょう? もう諦めるしかないの?
今まで二人で困難を乗り越えて来たのにこんなことですべて台無しになるなんて。
「ほら掛かって来なさいよ! 私が相手してあげる! 」
王子に裏切られ傷心の中どうにか切り替える。
でもなぜここまではっきり見えるのでしょう? もう闇のはずでは?
その時私を呼ぶ声が。
「お嬢様! お嬢様! 」
「クレーラ! 何をやってるんだい? 早くこっちに来な! 」
お婆様がお供を伴って助けに来た。
これで助かったのかな?
続く




