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震えた魂

ボスバーチュン家。

一か月前までは警備体制も完璧で侵入者は稀だった。

しかし没落したことによって人が減り賊の格好のターゲットに。

それでもお婆様たちの努力でどうにか凌いできた。

それももう限界。代わることに。

ボスバーチュン家の一人としてこの地を最後まで守っていかなければならない。

だからこそお婆様の頼みも聞き入れた。


ああ情けない。没落したものだからこんな事態に。

では王子と二人で見張りでも。


没落したとは言え屋敷にはまだ貴重な品が眠っている。

ある意味お宝と呼べる代物。

特にお父様の秘密の部屋には一体何があるのやら。

いつも鍵が掛かっており小さい頃に何度か入ったがよく覚えていない。

子供の私には興味を引くものが特になかったのでしょう。


鍵が掛かっているものの窓を割れば侵入可能。

一度盗難の被害に遭ったことがあったのでよく覚えている。

それでもお父様が国王様の側で仕えるようになってからは忘れられた存在に。

一体あそこには何が保管されているのでしょうか?

期日が過ぎればその正体も自ずと。


「なあクレーラ。ここでじっとしてるのは正直きつい。見回らないか? 」

体を動かすことで気を紛らわせようとする王子。

一体何を紛らわそうとしてるのでしょう?


寒さ? 震えてますよ。

恐怖? 足まで震えてますよ。

それとも二人っきりでは気まずいのでしょうか?


どれであれ解決する方法がある。

それは抱き合うこと。


「王子…… あまり歩き回れば迷子になりますよ。特にこう暗くては」

迷っていては見張りの役目を果たしてないことになる。

「いいから行こう! こうも暇だと逆に体が疲れる」

「そんなものですかね…… 」

「お前は残ってもいいぞ。私は見回って来る」

「そんな薄情な。これだけお慕い申し上げているのに…… ああ嘆かわしい」

ふざけて王子の反応を見る。

「まったく人を馬鹿にしたその態度。どうにかならんのか? 」

生意気な口を叩く。


「ほら行きましょう」

そうやって無理やり腕を絡める。

さすがに抱き着くのはやり過ぎだと思ったのでこれくらいで。

「おいクレーラ! 何をする? 」

「どうです寒くありませんか? 」

「いやそんなヤワな体ではない! 」

あらあら格好つけて。これだから王子は。


「でしたら震えは止まりましたか? 」

「誰が震えてるものか! からかうのはよせ! 」

強がって本当に仕方がないですね。そう言うことにしておきましょう。


「やっぱり恥ずかしい? 」

「さっきからお前は何を言ってるんだ? 」

どうやら王子は恥ずかしがっていただけらしい。

認めようとしないんだから本当に困った方。


ではここは改めて主従関係をはっきりさせておきますか。

「こらプレーゼ! 親分にその口の利き方は何だ! 」

「へい。申し訳ありません親分」

「それでいいんだ」


「さあプレゼーヌ。女の子同士腕をつなぎましょうね」

「ははは…… 面白い」

「もう王子! 真面目にやってくださいよ」

「クレーラ。私はどうするばいい? 」

そうやって真顔で問われるとどうしたものか?

何も起こらない退屈な警備の暇つぶしをしてるだけ。

だからここから変化も発展もあり得ない。そもそも二人はもう……


「王子…… 」

「静かに! 誰かやって来るぞ! 」

王子は異変を察知したらしい。

「本当ですか? 」

「ああ。ほら大人しく! 静かに! 」

だから静かにするのはあんただって!

 

お婆様から見張りを言い渡されたその日のうちに侵入者。

ついてるんだかついてないんだか。

積極的でプラス思考ならついてる。

消極的でマイナス思考ならついてない。


「どうしよう王子…… 」

まさか本当に来ると思ってなかったので対策は何一つしてない。

そもそも王子がいるので追い返すにもお守りしながらでないとだめだろうな。


ガサガサ

ガサガサ

茂みに身を一旦隠す慎重さを見せる侵入者。

一体何者? ここ最近出没すると噂の凶悪犯?

だが侵入者は辺りを彷徨うだけで決して屋敷の中に入ろうとしない。

これはますます怪しい。相当警戒しているな?


その後ろで元気なお友だちが。

ぎゃああ!

奇声を上げてやって来たのは夜行性の大型肉食獣。

さあどうなる?


足音が近づいてくる。彼が最近出没していると噂の困った人?

「うわああ! 助けてください! 」

こちらに気づき助けを求める情けない盗賊?

あれこの人どこかで見たことあるような。

王子に尋ねるがただ固まる。どう言うこと?


「まずいって王子。あの人食べられますよ。放っておいていいんですか? 」

まあそれも仕方ないのか。

意外にもあっさり納得してしまう。

もしかして私って冷徹?


                 続く

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