生きた心地
ついに恐れていた事態に陥るもパンキーのおかげで大惨事は免れた。
お母様を説得しお許しが出れば明日にでも晴れて二人で宮殿へ。
一時間後冷静さを取り戻したお母様が姿を見せる。
「お母様お話が…… 」
「改まってどうしたのクレーラ? 」
「クレーラを行かせてやって欲しい」
お父様が説得にかかる。
「まさか冗談でしょう? 私はまだ王子を許してませんよ! 」
話にならないと興奮するお母様。
「いいじゃないか。行かせておやり。これも我がボスバーチュン家のためさ」
お婆様は完全に王子の側についた。果たして他の者は?
「何を言ってるんですお義母様! クレーラはまだ子供なのですよ? 」
「ははは! 婚約破棄された立派な大人さ。行くのを認めておやり」
この家ではお婆様が絶対権力者。誰も意見など言えない。
こうなってはお母様も何も言い返せない。
「でもクレーラ…… 」
「大丈夫。心配しないでお母様」
「そんな…… 行かないで私のクレーラ…… ねえ? 」
「王子のためにも一族のためにもそれに何よりこの国のため犠牲になる覚悟です。
と言ってももちろん無理はしません。きっと国王様を救ってみせます! 」
もうここで指を咥えて見てる時ではない。
たとえ誰であろうと戦わなければならない時がある。
今こそ立ち上がるべき時。
「ちょっとあなたも何か言ってください! 」
お父様に泣きつく。
「まあまあここはクレーラの好きにさせてやれ。もちろん私も参戦させてもらう」
こうしてお父様の協力を得ることに成功した。
ああお父様は理解してくれている。
確かに宮殿の陰謀に立ち向かうには皆役不足なのは否めない。
だからって立ち向かわなければ一生後悔することになる。
「お父様…… 本当によろしいのですね? 」
もう冗談では済まされない。
「ああ今一度王子を信じようと思う。王子も我々を信じて頂けたらなと」
無言で頷く王子。
これでお母様も少しは安心するでしょう。
「でもよく考えてくれクレーラ。まだあの男を信じられんぞ」
小声で不満を漏らす王子。
ふう危ない。皆に聞かれたらタダでは済まない。
王子も本当に余計なことばかり言うんだから。
これ以上は庇いきれない。どうしてこんな時におかしなことを言うの?
「どうかしたのかい? 」
お婆様が訝しむ。
「大丈夫ですよお婆様。王子は少し疲れているご様子」
「いやいやそんなことは…… 」
「ではお婆様。私たちはこれで」
王子を無理やり引っ張っていく。
王子の不用意な言動で再び絶体絶命のピンチを招くも何とかごまかし乗り切った。
もう生きた心地がしない。まったく少しは大人しくしてなさいよね。
しかもなぜか私が尻拭いを。もうハラハラさせてばかり。
「おいクレーラ。そんなにイライラするなよ」
「あんた何を考えてるの? 」
部屋に戻って二人きりになったところで叱りつける。
まったく何で私がこんな思いをしなければいけないのでしょう?
「清く正しく。そして思ったことを素直に述べるが私の主義だ」
嘘でしょう? 反論するつもりらしい。まったく反省してないな。
時と場所を選ばずに身を危険に晒すなどどうしようもない我がまま王子。
「もういいです。それよりこれからどうすれば? 」
「そうだな。国王は恐らくまだ無事だろう。
私が戻るまでは生かしておくはず。そしてまとめて処分する気だろう。
それが一番早い。国王を先に始末してもメリットはない。
後継者の王子の私が生きていればまったく意味がなくなるからな」
王子は楽観的だ。
「まだゆっくりできると? 」
「いやそうとも限らない。相手は痺れを切らすはず。
持って七日。早ければ三日で決断するだろう。
だから数日は持つがそれが限界。
その間に見つけられないと悟ったら次の手を打ってくるだろう。
即ち強行策に打って出る」
王子の考えは敵の目線に立っているので素人の私からは良く分析されているなと。
「とにかく明日から仲間を集める。
できれば他国の兵力に頼りたいが敵の正体が不明ではそれも難しい。
当てがあればいいんだが。結局前回は援軍は現れなった。
こう言うことは常にあり得る。だからなるべく信用のおける者を味方につける。
もちろん相手も警戒してるだろうから慎重に」
王子の考えも共有しベストを尽くす。
「他には? 」
「そうだな。宮殿にどう近づくか? どう中に入るかがカギだ。
その前に捕まっては元も子もない。
恐らくその頃には謀反を起こした反逆者として追われているはずだ。
だから絶対に気付かれないように内部へ。それがこの作戦を成功させるカギ」
考えに考えも巡らす王子。たまに知的で格好いいところが見られる。
いつもこれくらいだといいんですけどね。
口を開くとトラブルばかりの困った王子。
その尻拭いはいつも私。本当に困った方。
「分かりました。王子はこのままここで大人しくしていてください。
仲間を集めて来ますので」
「ああ頼むぞ! 今が勝負の分かれ目だからな」
こうして王子を残し一人仲間集めに奔走することに。
続く




