追及
お父様が帰って来る。
それは大変喜ばしいことなのですが……
これ以上の混乱はできれば避けたい。
お食事を終え部屋に戻る。
危機を脱した王子をきつく抱きしめる。
「もう危ないんだからプレゼーヌは」
「何をするんだクレーラ? 苦しいよ」
満更でもないのに嫌がる素振りを見せる。まだまだ子供ね。
「大丈夫でしたか王子? もうひと時も離れてはなりません! 」
「ははは! 心配し過ぎだって。皆優しく迎え入れてくれたではないか」
「それはあなたが可愛らしいプレゼーヌだからでしょう? 」
王子だとバレたらと思うと気が気ではない。
「そう言うものかな…… 」
「そう言うものです! もう呑気なんだから」
「うーん。まあいいか」
危機感がまるでない王子。お婆様辺りに追及されたらすべて吐いていたでしょう。
私が目を覚ましていなければ危なかった。少しぐらい感謝して欲しいものです。
とにかくここでは私が上。逆らうことは許されない。
指示に従ってもらう。
「さあ寝ましょうね」
「待ってくれ私は…… 」
有無を言わせずにベッドまで無理やり引っ張っていく。
「ホラ遠慮なさらずに。恥ずかしがってないで一緒に寝ますよ」
「嘘だろ? 私は一人でゆっくり…… 」
「お気持ちは理解します。しかしそれでは危険ですからこうやって一緒に」
「分かった! 分かったよ! クレーラに従うよ」
王子はようやく納得された模様。毎日これだから苦労する。
「ではおやすみなさい」
「ああ」
観念した王子はベッドへ。
こうして再び一緒に寝ることに。
翌朝。
昨日は残念なことに作戦遂行中に突然引き返すことに。
あとちょっと。もう間もなくのところで足踏み。
それが私の身勝手な行動によるもの。
まさかこの私が足を引っ張ることになるなんて思いもしなかった。
今思い出すだけでも恥ずかしくて恥ずかしくて。
ああどうしてこんなことになってしまったのでしょう?
最悪のタイミング。まさか屋敷に戻ることになるとは。
これではとても恥ずかしくて王子に顔向けができません。
王子はもう気にしてないと言うけれどそれでも私はどこかの鈍感女ではない。
謝れるなら謝りたい。足手まといになったことを素直に詫びたい。
でもそんなことできないだろうな。
「お嬢様! クレーラお嬢様! 」
まだ私のことをお嬢様だと慕ってくれるなんて。
とっくの昔にその地位を捨てたはずなんですけどね。
血相を変えて飛び込んできたメイド。
「旦那様が! 旦那様が戻って来られました! 皆に大事な話があると」
これはタイミングがいいのか悪いのか?
一堂に会する。
「遅くなりました」
急いだが結局私たちが最後。王子のお世話で手間取ってしまったから。
目の前にはお父様の姿が。まさしくお父様。
「ああ突然姿を消し心配したと思う。
だがこちらにもどうしても抜けられない事情があってな。
明け渡しが一週間ほど延びた。交渉した甲斐があったと言うもの。
実は仲間と今後のことについて話し合っていた。それでだが…… 」
そこで話を切る。もったいぶって困ったお父様。
「まさか国王様を裏切りるつもりではありませんよね? 」
つい口が滑ってしまう。もっと慎重になるべきところだったのですが。
「こらクレーラ! 」
お婆様からお叱りの言葉。きっとお婆様も内心ではそう思ってるに違いないのに。
「噂になってますよ。お父様が仲間と結託して国王様を…… 」
これ以上はさすがに憚られる。
「こらクレーラ! 余計なことばかり言うんじゃない! 話を聞いてやりな」
「まあまあ母さん。噂か…… おかしな噂を流すものだな」
どうやら身に覚えがないらしい。お父様は本当に潔白なのでしょうか?
それなら何の問題もありません。堂々としていればいいのです。
私だって未だに信じられないんだから。
ですが王子が嘘を吐いてるようにも思えず判断に困る。
「それはあなたが裏で動いてないと受け取ってよろしいのですね? 」
お母様はどうも信用してないのか半信半疑。
今更どんな言い訳しても事実が事実である以上どうにもならない。
そのことを誰よりも実感してる。それだけに辛いのでしょう。
「私たちは今でもお父様を信じています! 」
お姉様方はただ理由もなく追放されただけと信じて疑わない。
私だってそう思いたい。でもそれでは現実を直視してないことになる。
いくら娘でも盲目ではいられない。
さすがに疑惑は完全には払拭できないだろう。
「おお娘たちよ! 心配と迷惑を掛けたと思う。だが今一度信じて欲しい。
少なくても私は陰謀には直接関わっていない。ただ…… 」
潔白を主張するがどうも歯切れが悪い。
我がボスバーチュン家はどうなってしまうのか?
続く




