早朝の出来事
国王奪還作戦二日目。
朝早くに目が覚める。食事の時間には早いですが起きることに。
「コーコ! ホラ起きてよコーコ! 」
「クレーラ? 早いのね…… 」
「何だか目が覚めちゃった。それで…… 」
ダメだ。寝ぼけたコーコには話が通じず再び夢の世界へと誘われていく。
せっかく朝の散歩に付き合ってもらおうと思ったのに残念。
もう仕方ないな。一人で出かけるか。
ちょっとぐらい構わないでしょう?
私はただの旅行者。親友のコーコと湖を見て回るお気楽旅。
決して宮殿襲撃の一味などではありません。
仮に敵に見つかってもどうにでもごまかせる。
王子との関係さえ疑われなければ問題ない。
そう自分に言い聞かせて一人外へ。
昨夜立てた見張りもすでに戻っているよう。
では散策開始!
こんな素敵な場所を散策しないなんてもったいないですからね。
宿の周りを歩いてみることに。
確か近くにボートが置いてあったはず。
あれ? ここじゃない? もしかして迷った?
でも大丈夫! 何と言っても宿の周りをぐるっと一周しただけだから。
モヤがかかった状態なので視界が悪く迷いやすい。
でもこのまま宿の周りを歩く分には問題ないでしょう。
足音が響く。砂利道だから仕方ないか。
湖まで近づいてみると急に視界が開ける。
さほど深くもなく穏やかで気持ちよさそう。
人が見てない今がチャンス。
もちろん裸で泳ぐ勇気は私にはない。
だから屈んで水を掬ってみる。
うーん気持ちいい。
水は手から溢れて僅かばかりになる。
もう一度掬ってみるが結果は同じ。
試しに飲んでみることに。
冷たくておいしい。でも匂いが強くもう無理。
ではもう一度。飽きるまで何度でも。
きゃあ!
手を伸ばそうとした瞬間濡れた草に滑ったのか足元を取られ湖の中へ。
水しぶきを上げて豪快にドボンと。
ちょっと嘘でしょう? もうびしょ濡れってそんなこと言ってる時じゃない。
急いで助けを呼ばなくちゃ。
誰か! 誰か助けて! お願い私泳げないの!
助けを呼ぶが当然誰もいる訳がない。だから届くはずもなく。
あーあこんなことするんじゃなかった。
大人しく寝ていれば……
気まぐれに散歩なんかしなければこんな目に遭わずに済んだのに。
本当に自分が情けなく思う。あーどうして私っていつもこうなんだろう?
お婆様には絶対に水には近づくなと言われていた。
それなのについ調子に乗って近づいてしまった。
自業自得なのは自分でも自覚してる。でも少しぐらい良いでしょう?
誰に文句言ってるんだか。ふふふ……
嫌! 嫌! このまま寂しく静かに果てるなんて絶対に嫌!
誰か! 誰か! お願い誰か! 早く気づいて! 早く!
このまま溺れて消えてしまうなんてそんなの私らしくない。
誰でもいい。私を助けて! 誰でもいいから助けないさいよ!
きゃああ! 誰か!
とにかく叫ぶ。叫び続ける。
もう恥じらいなど気にしてられない。ここは早く誰かに気付いてもらわなくちゃ。
寒い。沈んでしまう。早く! 早く!
でもこんな時に助けが来るなんてそんな都合が良いこと。
もはや諦めの境地。もういいんだ私なんか……
それでも粘る。
助けて! 誰か助けて!
呑み込まれる前にどうにか助けを求める。
うう苦しい…… もう息もできないほど。
その時だった。叫び駆けてくる者が。
「おい何をしてる! 」
「やった…… 」
粘った甲斐があった。これで助かるでしょう。
「クレーラ。クレーラ! 」
「王子…… 」
「大丈夫かクレーラ? 心配ばかりかけて。勝手なことはするなと言ったろ? 」
王子からお叱りを受ける。でも寒くて眠いのでこれ以上は頭に入って来ない。
何だかよく分かりませんが王子に抱えられ宿までどうにか。
そこで気が抜けたのか意識を失う。
ああ王子。やっぱり私を助けてくれた。湖から救い出したのは王子だった。
「クレーラ! おいクレーラ! クレーラ…… 」
血相を変え心配そうに見つめるコーコとマッギ。
「クレーラ! クレーラ! 」
ああマッギも私のこと…… でもごめんなさい。気持ちには応えられそうにない。
マッギにはもっと素敵な人がいる。コーコは私なんかよりいい。
きっとお似合いだと思う。だからマッギ許して。
もう私のことは忘れて。こっちも辛いの。
「失礼! クレーラの様子はどう? 」
扉が開くと王子が駆け込んできた。
私への強い思いが伝わってくるよう。
続く




