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寄り道 溢れる涙

お父様の尽力で屋敷の明け渡しが延びた。

一週間ほどの猶予を与えられ随分と余裕もできた。

とは言えやれることは特になくただ行列に並ぶぐらい。

だから王子の意思を尊重しようかと。

王子に同行することに。


早朝。

「どうしましたか王子? 」

「いや何でもない。宮殿に向かう前に寄り道をしたい。

どうだ付き合ってくれるかクレーラ? 」

気合が入っている。当然ですね。

国王が囚われては居ても立っても居られないのでしょう。

私たちもどうにかお手伝い差し上げたいところですが力も金もない。

残念ですが気持ちだけでも王子に寄り添ってあげられればな。


ついに王子は決断された。

私たちもついていくことに。ですが果たして何が待っているやら。


「王子。何を迷うことがありますか? さあ出発です! 」

取りあえずできるだけの準備をした。でも不安は尽きない。

負け戦にはしないと王子は言ったが信用していいやら。

相手の戦力も読み切れずに戦いを挑むのは無謀以外の何物でもない。

まさか正面から突っ込むつもりでは…… この王子ならあり得るからな。

戦術等の基本ができてない気がする。

本当に大丈夫かな……


マッギとコーコを加え四人で旅立つ。

もう戻ることのない果てない旅。

それくらいの覚悟が必要。

王子は秘密主義なのか詳しい話をしたがらない。はぐらかすばかり。

まあ好きにすればいいでしょう。私はただ信じてついていく。もうそれしかない。


馬車が速度を落とす。

ここは…… 急に涙が。懐かしさが込み上げる。もう決して戻れない場所。

そうそう。あの日もこんな風に馬車で乗り付けたっけ。

今でも昨日のことのように覚えている。


あれからどれぐらい経ったのでしょう?

もう二度と訪れることはないと思っていたのに。


ここは封印すべき過去。それが溢れ出てとても耐えられない。

「王子! 一体何の冗談ですか? ふざけないで! 」

あまりにも酷過ぎる。せっかくお助けしようとついて来たのに。

それはないですよ王子。私の思いを踏みにじる最低な行為。

「済まない。クレーラには悪いと思ってるよ。

でも我慢してくれ。これも通らなければならない道なんだ」

王子はすべてご存じらしい。

それに比べてコーコたちは右往左往するばかり。

一体ここが何だと言うの? 私を追い詰めてどうしようと言うのでしょう?


「では降りようか」

そう言って手を取る。何て紳士的なのでしょう?

でもだからこそ余計に王子の無神経が頭にくる。

もちろん怒っていません。でも不思議で仕方がない。


ついに本格的に行動開始。

すべてを失った者の復讐が始まる。

ちょっと待って。コーコは元から違うだろうしマッギもただ協力してくれるだけ。


馬車は一軒の家でストップ。

「どうだ懐かしいか? 見覚えがあるだろう? 」

私を困らせてどうしようと言うのでしょう?

笑みを隠しきれずにいる。もし分かってやっているなら何て残酷な仕打ち?

いえ分かってないはずがないのです。

とても耐えきれない。

「何も君を傷つけるつもりはなかったんだクレーラ。

でも一つ確認しておきたいことがある」

そう言うと屋敷の中へ許可もなくズカズカと入って行く。

誰も咎める者はいない。だって王子ですから。ああ今は失踪王子か。


「何だお前たちは? 」

ついに主人が姿を見せた。

即ち私の義理の父になるはずだった人物。元義父様だ。

見た目は優しそうな老紳士。ですがお酒が入ると豹変する。

それは息子にも受け継がれてしまった。

とは言え今は関係ないこと。


俯いてなるべく気づかれないようにするが無理がある。

プレゼーヌのように変装してる訳ではない。

怪しまれればすぐに感づかれてしまう。

私の美貌はそう簡単に隠せるものではありませんからね。

「こちらが田舎へ越すのでその前にお別れを言いに来たんです」

王子はいい加減なことを言って相手の感情を逆なでにする。

「はあ何を言っている? 付き合いきれんな」

もう見ておれんと冷たく接する。

一体王子はここに何の用があると言うの?


「うん。お前はクレーラ? クレーラじゃないか! 」

ついに気づかれてしまった。

別に私も来たくて来たのではなく王子が勝手に。

王子には本当に困ってるんですよ。


関係が悪化したりはしてない。

取りあえず私がいたことで門前払いされることはなかった。

これでいい? これでいいんですけど何かな……

話し合いの席が用意された。


              続く

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