新たな決意
屋敷を離れる日が二日後に迫った午後。
いつものように行列に。恐らくこれが最後でしょう。
明日は一日準備に。明後日の昼には屋敷を出て行く。
この短い間に何も進展がなければそう言うことになる。
「痛えよ。何するんだよ! 」
怪我明けのマッギを無理やり引っ張って一緒に列に並ぶ。
もうほぼ治ったらしい。
家でじっとしてれば体がなまるからと連れ出したがさっきから文句ばかり。
一体何が不満だと言う訳?
「ほらマッギ。他の人の迷惑になるってば」
世話を焼くコーコ。
甘やかすと付け上るんだから放っておけばいいのに。
「この女人使いが荒いからよ。俺はまだ病人だぜ」
「何ですってマッギ! 」
「お前のせいで怪我したんだぞ? 少しは大人しく見守ってくれよ」
マッギはなぜか強気に出る。
いつの間にか一番弟子のコントロールを失う。
やっぱり私が甘やかすからこんな風に生意気になってしまったのでしょうね。
もっと厳しく躾けておくべきだった。
「悪いなマッギ。付き合わせてしまって」
「いえ王子の命であるならばこのマッギどこまでもお供させて頂きます! 」
らしくなく格好をつけるマッギ。
「違うって。私の命令! 」
「うるさい! 俺は王子と話してるんだ」
「生意気! もういつからそんな口を利くようになった訳?
それから王子は禁句だって言ったでしょう? もう頭悪いんだから」
至らない一番弟子を叱責するのも私の役割。
「うるさい! 放っておけっての」
「まあまあ。マッギもクレーラもケンカしないの」
コーコに止められる始末。
「それでお前。爵位は貰えたのか? 」
「まあ一応ね。でもロクな爵位がなくて正直困ってる」
「それでここって訳か。今日も期待できないぞきっと」
マッギは冷静だ。実は私もそう思っている。
無駄なんだろうなと。でも無駄でも最後まで並ぶのが私にできる唯一のこと。
列には百人近くが並んでいる。
今日は思い切って隣の隣の国まで足を延ばしている。
マッギのことも考えて馬車で。
もうあと二日。ここでケチって目当てのものが手に入らなければ後悔することに。
ただ今日も期待が薄いのは確か。
情報は特になし。ただ行列があるとつい並びたくなる。癖みたいなもの。
「それで王子の方は? 」
さすがにマッギも声を落とす。誰も聞いてないでしょうけど。
「その話はあまりしたくないんだが協力してくれるなら話してもいいが」
王子が改めてマッギに協力を要請する。
「それはもちろん構いませんぜ。それでどうです? 」
王子は躊躇するもマッギを信じることに。
「もう国王は囚われているだろう。陰謀の首謀者は恐らく…… 」
こちらを見る王子。当然お父様が疑わしい。
失踪してそのまま。消息不明。
ただまだ確実に陰謀に加担してるとは言えない。まだ信じてる。
でも王子には無理でしょうね。
「クレーラの父が関わってるのは事実。ただまだ何とも……
それで明日にでも宮殿に戻りこの陰謀を食い止めようと思う。
現在僅かとは言え賛同者を呼び寄せているところ。
負け戦には決してしない。無駄死させるつもりもない。
それだけは約束する。今は一人でも多く集めたい。だから協力してくれ! 」
王子の決意は相当なもの。
「しかし…… 」
王子の一言で全員が言葉を失う。
いつかは陰謀に立ち向かわなければならない。
その時が少し早まったに過ぎない。王子の決断を尊重すべきでしょうね。
「改めてお願いするよマッギ」
「分かりましたぜ。俺も一肌脱ぎますよ」
こうしてマッギをお供に。
「だったら私の指示に従う! 分かったわねマッギ? 」
「はあ? 俺は王子と約束したんだ。お前は関係ない! 」
憎まれ口を叩いてもう本当に生意気なんだから。
「済まないが従ってくれ。歯向かうと怖いぞ。ははは! 」
王子が笑うとマッギにコーコまで。もう王子ったら冗談ばかり。
「マッギ! 順番が来たらきちんと知らせるのよ。私たちは離れるから」
後をマッギに任せて私たちはゆっくりお茶でも。
「おいふざけるな! それはないだろ? 」
「そこ静かに! 」
マッギが騒ぐから全員怒られてしまう。
「あのまだ? 」
「ハイもう間もなくですよ」
さあ今度はどんな爵位でしょうか?
「次の方どうぞ」
ようやく順番が回ってきた。
約二時間。これだけ人気があるならもしかしたらあり得るかもしれない。
価値ある爵位を授与するのが趣味の物好きで慈悲深い者に出会えたらな。
続く




