チョコっと救済 約二週間遅れのバロンティアの日
昼過ぎ。
今日はバロンティアの日とあって広場が市民で埋め尽くされている。
行列も一つや二つではない。
昨日リョウガ王国から戻って来たばかりのタイミング。
旅行疲れもあるので今日は遠出を控えお祭りにでも参加しようかな。
そんなこと言ってる時ではないんですけどね。
「クレーラじゃない? 」
コーコがマッギと仲良く行列に。
心配していたマッギの足も良くなったのでしょう。
「うわ…… 疫病神! 」
マッギが心にもないことを喚く。恥ずかしがり屋で本当に困ってしまう。
「こらマッギ! その口の利き方は何? もう生意気なんだから」
注意を与える。当然ですよね。これは本来コーコがすべきことなんだけどな。
「うるせい! おっと…… 王子もご一緒で」
「済まんなマッギ」
「いえあの女が悪いんですよ」
「あんたね…… 怪我人だと思って調子に乗ってんじゃないの! 」
「うるせい! お見舞いは一回きりで今までどこに行ってたんだよ? 」
「だから北の果て。あんたには関係ない」
おっと前が動いた。後に続かなくては。
「はーい皆さん。男の人は左の列に女の人は右の列に並んでね」
きれいで上品な女性が王子を誘惑する。
確かこの方はクーキーさん。町で唯一の焼き菓子屋さん。
何でも一年に一回焼き菓子を無料で配るって話。
それが今日? バロンティアの日らしい。
「何かいい匂いがしてこない? 」
コーコが鼻を利かす。
「うんうん。これが今回の行列の目的かな」
私はつい行列ができると並んでしまう癖がある。
もう体に染みついてると言ってもいいでしょう。
王子にしろコーコにしろ他一名にしろ似たようなもの。
この地域と言うかどこでも頻繁に行列ができている。
そのほとんどがタダなので大助かり。
でも本当の目的は爵位。爵位を頂くのが最終目標。
それも気休め程度のものではなく噂の爵位を頂けたらなと思い並んでいる。
残念ながら今回もどうやら爵位ではなくお菓子のようですが。
匂いから言ってもクーキーさんのバタークッキーでしょうか?
「はい次の人」
紙袋には焼き立てのバタークッキーがどっさり。
これは女性向けらしい。王子たちは?
「やったね! 」
大喜びのマッギの下には紙袋の残骸が。
ボリボリとその場で食い散らかす子供のようなマッギ。
中にはチョコクッキーがどっさりあったみたい。
王子のを見せてもらった。
一個ぐらい交換する?
へへへ……
満足したマッギはとんでもないことを言い出す。
「マッギやめてよ! 恥ずかしい! 」
見かねたコーコが必死に止める。
まったく何を考えてるんだか。
「どうしたの? 」
「マッギがもう一度並ぶって」
焼き立てのクッキーだもんねそれはおいしかったはず。
でも無料のクッキーをもう一度は非常識。他の人が迷惑する。
残りそうになったらやるべきで……
人の迷惑も考えずに何て卑しいのでしょう?
仲間だと思われたくない。
「いいだろ? 俺の勝手だ! 」
マッギは止まらない。さあどうしましょうか?
これではコーコに愛想を尽かれてしまう。
「ほらマッギ! いい加減にしなさい! 」
親分として放っておけない。
辺りを見回してももう一度並ぼうと言う愚か者はいない。
マッギが非常識なのは分かり切っている。
「いいだろ。俺の好きにさせろって! 」
聞き分けの悪いマッギ。
再びクッキーの列に並びだす。
「王子! 」
「ああ…… 行列ならこっちにもあるぞ」
食い意地の張ったマッギはそれでも動こうとしない。
「俺はこっちで…… 」
「ほら行くのマッギ! 子供たちの邪魔でしょう? 」
いつの間にかマッギの後ろには小さな男の子の集団が。大人しく列に並んでいる。
「ううん…… 仕方がねえ。分かったよ…… 」
渋々列を抜け四人で新たな行列へ。
うん…… この匂いはお花? それに混じって甘そうな何か。
果たして行列の正体は?
「はい男性は左に女性は右に…… 」
また別れて並ぶらしい。
「何だろうコーコ? 」
「たぶん…… 」
列の進みが早い。前の方でおばさんが騒いでる。
「これはいいからさあっちに並ばせなさいよ! 」
どうやら文句を言って困らせているみたい。
一体何が不満だと言うんでしょう?
「はい進んでください」
すぐに順番が回って来た。
「はいこれをどうぞ」
深紅のバラとそれにちなんだポエムが渡される。
スラっとしたキザな男性からの贈り物に満更でもない様子のコーコ。
私はと言いますとハイハイと頂けるものは頂くスタイル。
「やったぜ! へへへ…… 」
お隣の列で大騒ぎしてるのは例のごとくマッギ。
恥ずかしくてしょうがない。
「一度食べてみたかったんだよな」
そう言って大喜びのマッギ。
中身はチョコでミルクチョコとなっている。
「もうマッギ…… 」
コーコは堪らず下を向く。
「へえマッギ良かったね。こっちはバラ一本」
「ははは! 今日は最高だぜ! バロンティア万歳! 」
大はしゃぎのマッギは満足した様子。
うん。こういう行列もたまにはいいもの。
「よし次行こうか? 」
「はい! 」
こうしてバロンティアの日はあっという間に過ぎて行った。
続く




