テレポーテーションチケット
突然の訪問にも笑顔で迎えてくれたタルシム王子。
しかも求婚まで…… 完璧なお方。
これで私の当初の目標も達成される。
すべてうまく行ったはず…… でも何だか気分が乗らない。
ささやかなお食事会。
「おいしい。このフルーツは何ですの? 」
「ああこれは南国で取れたトロピカルフルーツだ。お肌にも良い。ははは! 」
美食家の国王が喜んで教えてくださる。
「ではお一つ…… 」
「どれも甘くてうまいぞ。ほれこれも。遠慮せずに食べるがいい」
「ハイ国王様! 」
当然遠慮はしません。たらふく食べるんだから。
「こちらは? 」
「鳥の丸焼きだ。これはタルシムの好物でな……
おっと気をつけろ! すぐになくなるぞ」
一つを王子と分け合う。
さすがに丸ごとは無理。他が食べられなくなってしまいますからね。
食べ過ぎ? いえいえそんなことありません。
「クレーラ。これもおいしいぞ」
タルシムの勧めでエビとカニのシーフードサラダを頂く。
うん。これは食べやすい。
ついでにエビの姿焼きとカニ蒸しも。
もうお腹いっぱい。これくらいで遠慮しようかな。
だが二人は許してくれない。
「クレーラ。ステーキも食べてくれ」
二人に勧められては断れない。
「はい喜んで」
もう美食家とかではなくただの食い意地の張った困った親子。
これくらい食に拘ると何かと面倒臭そうだと言うのが分かる。
ステーキ皿を取る。
「おおこれは今朝取れたクマの肉。ちょっと獣臭いがそこがまたいいのだ」
どうやら国王のお気に入りのよう。
「父上。こちらのカンガルーのステーキがいいですよ。
女性にはこちらの方があっさりしていて食べやすい」
タルシムはカンガルーの肉を勧める。
お二方ともビーフステーキに飽きてるようですね。
私としてはビーフでなくチキンステーキでもいいんですけどね。
ただ鳥の丸焼きを食べたばかりなのでここはビーフステーキ。
でもないんでしょうね。
「ありがとうございます」
それぞれを一切れずつ頂いて食事を終える。
「はあよく食べたな…… 」
二人は私たちのことを気にせず夢中で食べ続けている。
うわ…… 見てるだけでお腹いっぱい。
「クレーラ。君もよく食べたね。私は付き合いきれないよ」
いつものことだが呆れると率直な感想を述べる王子。
「王子はあまり食べておられませんが」
「私はこれでいい。充分満足した。それよりもデザートはいいのか? 」
気を遣ってくれる意外にも紳士な王子。
「よしそろそろ戻ろうか」
挨拶をするも二人は適当に返事をして続行中。
まったく何て人たちなの? これが毎日なら耐えられそうにない。
美食家もいいですけど限度と言うものがあるでしょう?
部屋に戻る。
王子とは別々に寝ることに。
今まで一緒に寝ていたのにどうして?
そうか…… タルシム王子の手前もありますからね。一緒はまずいのか。
でも一人だと寂しいしすごく心細い。
あーあ王子戻ってきてくれないかな。
寂しい夜を過ごす。
翌朝早くに出発。
「それではタルシム王子。これで…… 」
「また来てくれ…… そうだこれを」
そう言うとチケットを渡す。
「何ですかこれ? お土産? 」
「テレポーテーションチケットだ。ピンチに駆け付ける証みたいなものだ。
そのチケットを肌身離さず持っていてくれ。
助けが必要になったら必ず駆け付けるからな」
予定よりも余計にお邪魔してしまった。
宮廷生活も充分満喫した。
手応えあり。もしどうしても異国の王子を望むとなったらタルシムがいる。
これでもう本当に没落を恐れずに済む。
ボスバーチュン家。
「ただいま帰りました! 」
「こらクレーラ! 何をしてるんだい! 」
勝手に無断外泊したことを咎められる。
咎められること十分。
「ですから何度も言ってる通りプレゼーヌのお友だちの家に招待されたんですわ」
「はああん? そんな話聞いてない! 」
「ですから急に決まったことなので…… 申し訳ありませんお婆様」
取りあえず謝っておくか。でもこれも一族のためなんだけどな。
どうして私ってこう誤解されやすいんだろう?
「本当のことかい? 」
ただ頷くだけ。あまり大きな声を出すと気づかれる恐れがあるので慎重に。
「よし分かったよ。今度だけだからね」
どうにかお婆様の許しを得る。
ふう疲れた。でもこれで随分余裕ができた。
仮に一族が没落したとしても何とかなるでしょう。
もちろん確実ではありませんが。
もう行列に並ぶ必要もないかな。でも念のために最後まで並ぶ。
続く




