クレーラの気持ち
夜の宮殿をお散歩中。
大きな絵画が目を引く。
何でもこれは歴代国王が愛したと言われている一品。
圧倒される。ですが素敵にはほど遠く狂気を感じさせるものに。
夜中に見るには憚られる。
絵を過ぎたところにタルシム王子のお部屋がある。
ついここまで来てしまった…… うーんどうしよう?
せっかくなのでお邪魔しますか。
うん? ノックをしようとすると突然漏れ聞こえてくる。
ここは王子お得意の盗み聞きと行きますか。
私が入って行けば余計な気を遣わせることにもなるだろうし。
「実は国王の体調が思わしくない」
「そうかお前のところも大変なんだな。こちらも陰謀が渦巻いて苦労するよ。
実は国王はもう捕らえられてるのではと考えている。
政変は間もなく完了。私の存在に関係なく強引にことを進めるだろう。
そうなったら国は持たない。民は飢え再び前の暗黒時代に突入するだろう」
どうもタルシム王子と今後を話しているらしい。
ではもう少し。
「やはり待ったなしだな。分かったよ。助けが必要なら言ってくれ」
「ああ…… ここが平和でうらやましいよ」
「おい本気で言ってるのか? 妃候補が皆逃げちまうこんなところがか? 」
「済まない。嫌味のつもりはないんだ。ただ平和は何物にも代えられない。
いくら辺境の地でも凍てつく世界でもそれでもうらやましいのさ」
どうやらそれは王子の本音らしい。
確かにここは信じられないほど警備が手薄。
危険はないのでしょうね。
「平和ね…… 俺はお前がうらやましいよ」
「ははは…… そうか」
「それで本当に構わないんだな? クレーラはたぶんお前のことを…… 」
「ああ。それが彼女の強い意思だ。私には恩もあれば罪もある。
だから彼女の要望に最大限応えてやりたい。ただそれだけだ」
「変わってるな。それが彼女の幸せになるとはとても思えんがな」
「いいんだ。俺はただ見守るだけでいい」
王子の本心が分かった気がする。
でも本当にこのままでいいの? 私には分からない。
トントン
トントン
「済みません! 迷ってしまって」
いくら平和で夜とは言えメイドの姿さえない。不便で仕方がない。
「おお噂をすれば…… 」
「クレーラ。さあ戻ろう」
王子は何事もなかったかのように微笑む。
翌日。
迷いは消えずにモヤモヤしたままささやかなお食事会へ。
世界各地から珍味を取り寄せた美食家の国王。
王子も国王に負けず劣らずグルメでここにないものはないのではと言われるほど。
謁見。
王子とともにお食事会へ。
「ねえ王子…… これで本当に失礼ではないのでしょうか? 」
没落して王子ともどもロクな格好をしてない。
揃えるにしてもお金がなければ不可能。恥ずかしい思いをすることになる。
はっきり言ってそこまで気が回らなかった。
「ははは…… 気にすることないさ。タルシムは気にしてないし国王も無頓着だ。
二人ともお客を無視してご馳走に舌鼓しているところだろうさ。
だから気楽に参加するといい」
王子はそう言うが限度があります。これではあまりにもみっともなく情けない。
「どうぞこちらへ」
会場には食べきれないほどのご馳走が並んでいる。
私も子爵令嬢だったので多少のマナーは。でもそれも無意味。
「国王様。お招きありがとうございます」
「おお久しぶりじゃな王子。ゆっくりして行くがいい」
そう言うともう興味を失ったのか視線はご馳走へ向かう。
挨拶もそこそこにお食事に。
お話通りグルメに目がない国王。
恐らくそれが原因ででっぷり太られている。
腹もはち切れんばかりの勢い。
これ以上国王に食べさせていいのか心配になる。
対してタルシム王子も熱心のお食べになっているがすっきりしておられる。
年齢もあるのでしょうが運動もしているのかすっきり。
お腹周りは怪しいですがそれでもスタイルは保たれている。
「ほれ遠慮せずに食べるがいい」
「もう本当に困った親子だな。それでは民が泣くぞタルシム! 」
「うぐぐ…… 何も言えん」
「まあいいや。ではお言葉に甘えて。なあクレーラ」
「はい。負けずに頑張りましょう」
つい対抗意識を燃やす。
没落してからと言うものすべて離れて行って借金だけが残った。
だからロクに食事をとっていない。
と言っても庶民と比べればそれでも豪勢なお食事だろう。
ただそれに慣れれば慣れるほど借金が膨らみとても手に負えなくなる。
それが分かっていながら散財してしまう。
生活レベルを下げられず苦しむことに。
だから私が食糧を調達することに。並んで三日分の食糧を得たことも。
少々恥ずかしいですが勧めてくれますので遠慮なく食すことに。
続く




