迷い
宮殿。
王子の紹介でリョウガ王国のタルシム王子と出会う。
その場で突如求婚される思ってもみない展開。
あまりに拙速な気もしますがこれも何かの縁。運命でしょうか?
積極的なタルシム王子に迫られ自分の気持ちが整理できずにいる。
「まあいいや。二人ともゆっくりして行くといい」
「悪いなタルシム。私は陰謀を阻止しなければならない。
だから明日には戻ろうと思う」
そう言うと王子は決断を迫る。
「クレーラ。私の進む道は険しい。どうなるかまったく見通しがつかない。
今度の戦いは命がけだ。決して勧めない」
大げさな王子。そう言われても困る。どちらとも言えない。
没落したとはいえ諦めずに粘って掴み取った爵位。
ほぼ役には立たないでしょうがそれでも価値はある。
このまま突き進むべきか?
それとも異国の王子からの求婚を受けるべきか?
私が応じればすぐにでも契りを結ぶと。
お婆様もきっと大喜びされるでしょう。
もう本当に夢のよう。
でもここで判断を誤ってはいけない。
結局は爵位を得て異国の王子をモノにすると言う理想から来る迷い。
どうやら理想に近づいたことで自分を見失ってしまったらしい。
理想は理想と割り切れないからこんな中途半端な気持ちになっている。
「では俺は席を外す。ゆっくりしていって欲しい」
訪問客も珍しいのだとか。
それもそのはず。こんな辺境の小国に興味を抱く者はそうはいない。
私だってタルシム王子から包み隠さずに打ち明けられてすぐには。
何か引っかかる部分がある。
部屋を用意してもらいようやく二人っきりになったところで口を開く。
「どうしよう…… 」
心が揺れ動いて仕方がない。異国の王子で人柄もよくルックスも申し分ない。
王子はどう考えてるのか気になる。
「奴とは幼い頃からなぜかウマがあってね。
君が紹介しろと言うから。これで約束は果たせたと思う。
どうだクレーラ? 気持ちは固まったか? 」
王子には手ごたえがあったらしい。
「それが私にもよく分からなくて…… 」
条件は揃ったのになぜ積極的に動けないのか? 思い悩むのか?
それはもちろん王子だって理解してるはず。
どうして王子は気持ちを伝えてくれないのでしょう?
そんなところに行くな。一緒に居てくれとなぜ言ってくれないの?
目の前で私が求婚されているのになぜ平気で笑っていられるの?
自分勝手なのは分かっている。でも心が揺れ動く。
こんなお父様を追いやった男に淡い恋心を抱いてるなんてどうかしてる。
本当にどうかしてる。
彼はもうただの生意気な王子ではない。
私の中でとても大きな存在になっている。
もしかして王子は本気で私のことを何とも思ってない?
この余裕の笑みがその証拠。
辛くて辛くて苦しい。
結局親子ともどもこの鈍感王子にいい様にやられてしまうのでしょうか?
それが悔しくて悔しくて堪らない。
「どうしたクレーラ? 大丈夫。急がなくていい。タルシムは心の広い奴だから。
人柄は保証する。ルックスは私には劣るがそれでも王子だ。
君の要望には応えられたと思う」
王子は上機嫌でほほ笑む。
ああ何て憎たらしいの? それでいて可愛らしい。
もう私はどうすることもできない。
「クレーラ。もう疲れたと思うからゆっくりしてるといい。
私はタルシムと話があるからさ」
そう言うと一人置いて出て行ってしまった。
本当に勝手なんだから。こんな広い部屋に一人ではどれだけ心細いか。
王子は基本的に私のことを何も理解してない。それはたぶん私もそう。
しかも物凄くタイミングが悪い。
私が思えば彼は無視をする。
彼が思えば私は知らないふりをする。
どっちが悪いかと言ったら私でしょうね。
異国の王子を紹介するように迫ったのがいけなかった。
王子とここまで関係が深まるとは正直思っていませんでしたから。
単に情けない王子を言われたとおり世話してるつもりだった。
でもいつの間にかそれが愛情へと変化していった。
もう爵位も家柄も関係ない。王子を奪い去ってしまいたい。
大体王子が悪いんです。宿を追い出されるから。
必死に考えないようにしたけれど一晩ならいざ知らず二晩も共にした。
確かにそこでは何もなかった。体を重ねる訳でもなく。
でも心はそう言う訳には行かなった。
ああ王子。もうこれ以上は。
一人にされると余計に不安が募ってしまう。
どうやっても気持ちが晴れない。
ただ待っているのも退屈なので見て回るとしましょう。
タルシム王子は確か自室にいると。そうすると王子もそこでしょう。
それにしても警備は手薄だ。
王子が強行突破した時にも感じた脆さ。
私が指摘することもなく異国の軍隊が攻めて来ればひとたまりもない。
もちろんここにどれだけの価値を見出せるかによりますが。
続く




