タルシム王子
極寒のリョウガ王国。
王宮内を強行突破。
さすがは王子。肝が据わってる。私などとてもとても。
「どけ! 」
「おやめください! 」
警備も必死。しかし位の高い者。しかも異国の王子と聞かされては強く出れない。
王子もよく分かっているから強引に突破しようと。
「ははは…… 俺はお邪魔のようなのでこれで」
案内役は慌てて逃げ出す。恐らく私たちとの関係を邪推されたくないから。
逃げ足の早い人。私もここは逃げた方がいいのかな?
「騒々しいぞお前たち! 何をしている? 」
騒ぎに駆け付けた男がこちらを睨む。
「申し訳ありません。この者たちが強行突破を! 」
「何をやってるんだお前たちは? 得体のしれない者を中に入れおって! 」
怒り狂う。その後ろに隠れるようにもう一人。
「ああ…… あなたはバロンティア王子ではないか? 」
「早く何とかしてくれタルシムよ」
どうやら彼がこの国の王子らしい。
「よし彼らを通してやってくれ」
「しかし…… 」
「大丈夫。よく見ろ。見覚えがあるだろう? バロンティア王子だ」
「はは! ではお二人はこちらに」
強行突破したのが功を奏し来賓として丁重にもてなされる。
「こちらはクレーラ。ある縁で知り合った多少名の知れた令嬢だ」
王子は爵位を剥奪され没落したことをあえて触れない。
当然ですよね。それは自分の仕出かしたこと。負い目を感じているのでしょう。
「こちらはリョウガ王国第一王子のタルシム王子だ」
この人が異国の王子。うん見た目は怖そうですが慣れれば何とか。
「ははは…… そんなに硬くならないでくれクレーラ。
こいつとは幼い頃によく遊んだ仲なんだ。最近は一年に一度会う程度さ。
それで何かあったのかバロ? 」
バロは王子の愛称。王子がバロならあちらはタル?
「そうだな。はっきり言ってしまえば近々政変が起こるだろう」
王子は包み隠さずにすべてをお話になった。それほど信頼されてるのでしょう。
「そうか。雲行きが怪しいと噂されていたがそんなことが起きていたのか」
「できれば協力して欲しい。兵士と武器が足りなくてな。どうだ? 」
もう交渉を始める。そんなことのために来たのではありませんよ。
「おいおい不用心だぞ。俺が裏切ったらどうする? もっと慎重になるべきだぞ」
「大丈夫。お前は相手にされてない。リョウガ王国は奴らの監視の範囲外だ」
「おいおいその言い方? そんな落ちぶれたリョウガ王国にお前は頼るのか? 」
「ああこれも平和のためだ」
「分かったよバロ。好きにしろ」
「そうか…… だったら一つ頼まれてくれないか」
「無茶な頼みでなければ構わないぞ」
「ではこのクレーラと契りを結んでやってくれないか? 」
いきなり何の前置きもなしに…… 恥ずかしくて堪らない。
「それはもちろん俺は嬉しいが。クレーラの気持ちを聞かなくていいのか? 」
どうやらタルシムは本気らしい。
ルックスは少々強面ですが顔も悪くない。性格も穏やかそうで冗談も言う。
これ以上ないぐらい理想的なお方。そもそも文句言える状況にない。
だけど何か嫌な予感がする。まさかとんでもない何かがあるのでは?
タルシム王子を疑うつもりはありませんがどうもね。
「あの…… お相手はいらっしゃらないんですか? 」
「俺に? ははは! いる訳ないよ。ほぼ冬の極寒地帯に誰が興味を示す?
しかも小国の王子だから相手にもされない。いつ滅ぼされてもおかしくないのさ。
今はそれでも兵士も武器も集まっては来てるが。
嫁ぐはずないだろこんな極寒の辺境の地に? 」
おおらかなタルシム王子。笑ってますがこれはまずいところへ来てしまったかも。
「クレーラみたいなきれいでかわいい子が興味を抱いてくれるなんて嬉しいよ」
大喜びのタルシム王子。大変光栄なのですが……
「あの…… リョウガ国民からお選びにはならないのですか? 」
「それがこの国の決まりでね。異国の地から花嫁を選ぶことになってるんだ。
それでいて多少品位と家柄のある者と条件があるからね」
どおりで難航する訳だ。
タルシム王子は第一王子ではあるものの妹が一人のみで争いが起きることはない。
若干私の条件とは違いますがそれでも許容範囲。
辺境の地で国力も高くなくほぼ一年中寒い悪条件とは言え王子に違いない訳で。
「クレーラ。俺はいつでも大歓迎だ。
君が望むなら明日にでも正式に契りを結ぼうと思う」
まっすぐで朗らか。決して性格も悪くない。
迫られてはうんと言ってしまいそう。
押しの強いタルシム王子。果たしてこのままお受けしてよろしいのでしょうか?
不安が募る。
続く




