暑い?
王子の紹介で異国の王子を求めてリョウガ王国へ。
歩いているといつの間にか体に異変を来す。
極寒の大地で洗礼を受けることに。
「さあ王子お脱ぎになってください」
「何を言うんだクレーラ。おかしいぞお前」
暑そうにされているから気を遣って勧めたのにその態度。
まさか私がおかしい? 私の感覚を疑ってる?
「おかしいのは王子ではありませんか? 我慢せずにお脱ぎください」
「まさかお前は暑いと言うのか? 」
「はい。暑いではありませんか」
「いや思い違いだよ。今はどちらかと言えば寒い…… ではなく物凄く寒いだ」
「王子! 恥ずかしがらずにほら早く! 」
もう有無を言わせずに強制的に服を引っ張る。
「馬鹿を抜かせ! こんなに寒いのに脱ぐ奴があるか」
王子は言うことを聞かない。我がままで甘やかされたから。
こんな時に駄々をこねるなんて。私は王子のお世話を任されたんですからね。
従ってもらいます。
「言うことを聞きなさいプレーゼ! 私の手を煩わせないの! 」
下っ端の新入りとして扱う。
「だから私はおかしくない。おかしいとすれば暑いなどと思って服を脱ぐ方だ。
ここは雪深い危険な場所。精神に異常を来し暑いと感じるようになってはお終い。
お願いだクレーラ。正気に戻ってくれ! 」
そう言われるとどちらが正しいのか途端に分からなくなる。
「いいか君が間違ってるんだ。暑くないぞ」
「いいえ。私が間違うことなどありません! 私は常に正しいのです」
もう引き下がれない。仮に私が間違っていたとして押し通すしかない。
「いい加減にするんだクレーラ! 」
「王子…… あなたこそ間違ってます! 」
「とにかく服はそのままでいい。余計なことはするな! 」
「ですからそれではダメなんです! 風邪を引きます! 」
嫌がる王子の服を引っ張る。
「おい伸びるだろうが! いい加減にしろ! 」
我慢できない子供みたいな王子。
「本当に我がままなんだから大人しくしなさい! 」
「止めろ! 」
「もう王子! 」
服を着脱で揉めに揉める。
どうしてこう王子は頑固なのでしょう?
それではいつしか民からの信用を失う。
その時私はどうしてあげることもできない。
「王子! ほら従ってください」
「近づくな! それ以上近づくな! 」
「駄目です王子! 」
「我慢してくれ! 」
王子は抵抗して逃げ回るのに飽きたのか振り向く。
そして強く抱きしめようとする。
「ちょっと何を…… 」
「ホラ寒いだろ? よく感じ取れ! 」
王子に抱きしめられドンドン体温が上昇する。
でも確かに王子は酷く凍えてるようで白い息を吐いている。
そう言えば私も同じように……
吐息がこんなに冷え冷えとしてるのは体が凍えてる証拠。
てっきり暑さによるものだと思っていたのに…… どうやら違うらしい。
「どうだ寒いだろ? 」
「いえすごく暑いんです。とてもとても」
「お前おかしいぞ。私にはどうしてやることもできない」
弱音を吐く王子。自分が誘ったばかりにこんな極寒の大地にと嘆く。
極寒の大地?
そうだ。こんな暖かいはずはありません。
「いえいいんです。そのまま抱きしめていてくれればそれで構いませんよ」
「ではもう暑くはないんだな? 」
「いえ異常に熱いです」
「もうどっちだ? 」
混乱する王子。私までおかしくなっていく。
これがリョウガ王国の洗礼なのでしょうか?
人々を迷わす何か。それが行く者の進路を塞ぐ。
王子もこのような事態に陥ったのは初めてなのでしょう。
ハアハア
ハアハア
どうやら王子も動き回ったのか熱くなったらしい。
「熱いのは確かに熱い。だがこれは一時的だ。すぐに体温が奪われる」
「そうですね。王子のおっしゃる通り。私が間違っていたみたい」
「だったら早く服を着ろ! 風邪を引くぞ」
「いえこのままでお願いします」
寒くて寒くて今にも凍えそう。
一度体感した暖かさを奪われたくない。だからそのまま抱き合ったまま一緒に。
「勝手にしろ! 」
暖かくなったり寒くなったりと目まぐるしく変わる私の体。
王子の熱に守られて気持ちいい。
「うわ…… どうしよう」
王子の情けない囁きが耳に。
「今度は何? 」
今回の騒動を王子のせいにして話を聞く。
少々酷いでしょうかね? でもこれも生き残る術ですから。
「お前が騒ぐものだから道が分からなくなった。どうしよう? 」
吹雪いてる影響で視界が最悪。そんな中で異国の地を歩き回るのがいかに大変か。
これからどうすればいい?
続く




