甘えん坊
お父様失踪。
屋敷内に動揺が広がる。
まだお婆様はいい。心配しながらも気丈に振る舞っている。
問題はお母様たち。お父様を案じて再び寝込んでしまった。
メイドたちも不安な表情を浮かべている。
お父様がまだ帰って来ない。
一体どこに行ったのでしょう?
王子の言うように船に乗ったのだとしたらどんな目的で?
まったく訳が分からない。
まだ国王暗殺の疑いは掛けられたまま。
潔白を主張するにも本人がいなければ空しいだけ。
「あの…… 朝早くに仲間と出掛けたところを目撃しました」
王子…… ではなくプレゼーヌが隠すこともなく詳細に。
これ以上波風を立てたくないのにプレゼーヌは馬鹿正直に答えるものだから。
正体に気付かれてはいけないって本当に分かってるの?
王子って大胆なんだかバカなんだかよく分からない。
「大丈夫ですわお婆様。心配しなくてもきっと明日には帰って来ますよ」
うーん。お婆様には悪いですが恐らく戻って来ないでしょうね。
明日も帰ってこないようなら次の手を打つ必要がある。
お婆様をどうにか落ち着かせてようやく二人きりに。
「ふう疲れた。王子どうしましょう? 」
「それを今考えてるんじゃないか! 」
疲れからどうも二人の関係がギクシャクする。
このままでは二人の間に決定的な溝ができるでしょう。
その前に何とか改善しないといけないんだけど……
何だか今日は本当におかしい。
あの癇爵とか言う爵位を授かってから調子が狂っている。
「まずは異国の王子に会うこと。それが先決では」
「ははは…… 覚えていたんだな」
「その時はぜひ素敵な異国の王子をご紹介願います」
「ああ分かったよ」
これでいい。自分の幸せのために動いてる。それは王子も同じ。
何と言っても時間がない。より良い未来のために全力を尽くす。
「ではそろそろ…… 」
「ああ今日は私も疲れた。できればゆっくり眠りたい」
ちょうど部屋が空いた。少なくても一人分はある。
もう一緒に寝る理由もない。
王子が離れたいのであれば仕方がありませんね。
「あの…… 」
「クレーラ。手をつないでくれないか」
突然の王子の気の変わりようと言ったらない。
笑えばいいのか? からかえばいいのか?
まさか私を気遣ってのこと?
「もう王子ったら。プレゼーヌとしてならいいですよ」
「ああそれで構わない。さあ一緒に寝よう」
王子が本音をぶつけるなら私だって今の思いを伝えたい。
でも思うようにはいかない。それが辛くて辛くて。
「おやすみ王子」
こうして二人はより一層仲を深めていく。
王子にとって私は掛け替えのない存在になってる。きっとそうでしょう。
でも今の私には王子の思いを受け止めることができない。
残念ですがこのまま時の流れに身を任せるしかない。
翌朝。
「今日も行くのかい? 」
日課となってる爵位詣。私だってこんな時に本当は行きたくない。
でも家のため一族のために何とか爵位をと思って一人奮闘してる。
それが私の役割だと信じて。
お父様の手掛かりがない以上捜索は不可能。自分のやれることをやるしかない。
あーあでも面倒臭いな。ロクな爵位を貰った試しがないからな。
「早く帰って来な! もう皆田舎に行く準備を済ませてるからね」
お婆様は良かれと思って言ってるのだろうな。
でも私にはどんどんプレッシャーになる。
ほぼ諦めたと言っていい態度。
今まではお婆様の厳しさがあったおかげでどうにか粘れた。
そのお婆様も諦めたならもういよいよ。
それでも諦めずに噂される爵位を求めて行列に並ぶ。
今日は特別。
「なあ本当にいいんだな? もうどうなっても知らないからな」
王子はどうやら異国の王子に会わせたくないらしい。
どうにか説得しようと必死。
まさか嫉妬してるのではありませんよね?
いや嫉妬しない方がどうかしてる。
問題ない。王子が求めるなら応える用意はある。
「大丈夫です。王子には迷惑は掛けませんので」
「いやそう言うことではなく…… まあいいか」
「ホラ行きましょう王子」
「もう後悔しても知らないからな」
こうして王子とともに異国の王子訪問旅に出かける。
リョウガ大国へ足を踏み入れた。
続く




