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悪女

食事を終え二人きりで海沿いをのんびり散歩することに。

「実は君の父上の後を追いかけたらここに。

すぐに仲間と一緒に船で遠くへ行ってしまったよ。

私も追いかけるつもりだったんだが恥ずかしい話お金がなくてな。

売れば充分なものは身に着けてるんだがその店が見当たらなくて断念した」

恥ずかしそうにここまでのことを話してくれた。

王子も苦労したんだ。


「もう勝手に行かないで王子。ただでさえあなたは狙われてるんですから」

王子が王宮を逃れてきたから今こうして行動を共にしてる訳で。

「ははは…… つい後先考えないで行動してしまったかな? 反省してる」

「本当ですか? 」

良かった。ケガもなく無事に見つかって。

私のせいにされかねないですからね。


今日の予定がめちゃくちゃ。仕方なく王子に付き合うことに。

結局お父様は行方不明と言うことになるのかな?

もうこれからどうすればいい? あーあやってられない。

 

「あそこに行列ができてるぞ。行ってみるか? 」

「当たり前でしょう? ホラ早く行く! 」

有無を言わせない。

行列を見つけたらすぐに並ぶ。それが習慣になっている。

行列に体が勝手に反応してしまう。何だかすごく情けない気がする。

元令嬢としてあり得ない行動。

でもいいの。爵位のためならいくらだって並ぶんだから。

爵位さえ授かれば異国の王子との婚姻も夢じゃない。

何と言っても私は可愛くてきれい。それでいて品もある。

王子に相応しいと自負してる。

後はその異国の王子さえ捕まえられれば完璧。

そのためにももっと価値のある爵位を授かりたい。

爵位とともに異国の王子の選定に移るべきでしょうね。


「ねえ王子。私に相応しい異国の王子を探してきてくれませんか」

これが条件で王子を手伝ったのにまったく動く気配がない。

「おい今はそれどころじゃないだろう? 」

「でも紹介していただかなければもう時間がありません」

「それは分かってる。だからこそ今回の陰謀を阻止し平和な国に戻すのが先決だ」

さすがは次期国王だけはある。でもあと数日で果たして何ができるのでしょう?

現実を見てない王子には呆れるばかり。


「ですが私には時間が…… 」

再びお父様に疑惑が掛かった。と言うよりもほぼ確定と言ってもいい。

それでも信じたい。いつも厳しくも愛情を示してくれるお父様を信じたい。

「分かった。明日にでも会いに行くか」

王子が折れた。協力者の機嫌を取るのも大事なこと。


「嬉しいプレゼーヌ! 」

嬉しさのあまりつい抱き着いてしまう。まだ子供ね。お婆様にまた怒られそう。

「クレーラ! 結局君はどっちなんだ? 私を惑わす悪女なのか? 」

「はあ何を言ってるの? あなたは今お友だちのプレゼーヌ。

だからこれは問題ない」


少々都合がいいし自分勝手だって自覚してる。

でもこうやって使い分けることで王子の気持ちを探っている。

要するにどちらでもいいように引き留めているに過ぎない。

自分がものすごく図々しく酷い女だって分かってる。

これがただの駆け引きなら悪女の汚名を着せられても仕方がない。

でも今は私たちにとって没落するか浮上するかの瀬戸際。

少しでもこちらの有利にしようと動くのは自然。

狙われてる王子には悪いですけどこちらの方が切羽詰まってる。

王子だって居所が知られてる訳でもない。

今日など陰謀に加担したと思われた者の後を着ける始末。


とりあえずこの行列が噂の爵位の列だと信じて並ぶしかない。

確かに希爵は噂通りでしたがこれ以上ないほどの優れものでもない。

それに男性限定だったのも違う気がする。

だから本当に噂の出所を見つけて授けてもらえたらな。

慈悲深い者が噂通りに与えてくれることを願う。

そろそろその列に当たっても良いと思うんだけどな。


「そうだ王子。お食事してましたがお金がないとおっしゃってたような」

「ああ船に乗る金がなくても食事する金はある。

それに貴金属を売れば数日分の滞在費にはなる。

心配せずともいい。さあそろそろ順番が回ってくるぞ」


さあ何を頂けるでしょうか? どんな時でも前向きに。

きっと素晴らしい爵位が得られるはず。


                続く

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