お泊り
王子のお泊り。
先日宮殿に招待されたので今回は王子をご招待。
ほほほ…… 没落した我が屋敷にようこそ。
もっと早く交流を深めていれば王子もあのような手段に出なかったでしょう。
爵位剥奪の憂き目にあっていなったかと思うと後悔しても後悔しきれない。
「ああ王子。失礼しました。それではそろそろ寝ましょうか」
「それにしてもおいしそうに食べるな」
関心する王子。何て無邪気なんだろう。
人の話も聞かずにパンキーに夢中。
そこまで食いつかなくても。パンキーのものを狙ってる?
「王子…… 」
「クレーラ。悪いがまだ誰の耳があるとも限らない。プレゼーヌと呼んで欲しい」
ようやくお友だちのプレゼーヌらしくなってきた。
「まさか王子。その格好が気に入ったんですか? 」
「だからプレゼーヌ! そうでしょう大親友のクレーラ? 」
「王子ったらもうおふざけに…… 」
ふざけるのでつい吹いてしまう。
「もう笑わせないでよ! 調子に乗って…… 」
「私のことを思うならプレゼーヌで通してくれ」
意外にも器用にこなすからこっちの調子が狂う。
もう少し王子で遊びたかったのにな。
別に王子のことはどうだっていい。ただそうしないと血が流れるから。
ここに泊めると決めた以上王子を全力でお守りする。
「はいはい。分ったわよ」
相当気に入ったらしい。女装は癖になるそう。
嘘…… ちょっと待って。その姿にときめくのはなぜ?
生意気で頼りない王子には関心ありませんが弱々ししいプレゼーヌには惹かれる。
変? きっとおかしいのでしょうね。
でもまあいいか。プレゼーヌは仮の姿なのだから。
「ではプレゼーヌ。もう寝ましょうか」
「ああそうだな。シャワーでも浴びようか」
「勝手にどうぞ」
先に王子に譲る。それがやさしさと言うものでしょう。
一通り案内したので大丈夫? でも他の者に見られでもしたら厄介。
仕方ない。ここは付き添うとしますか。
「プレゼーヌ。分からないことはある? 」
「いや気持ちいい。それよりも誰か来ないか見張っていてくれ」
中に入ってお世話をしてもよろしいのですが王子が頑なだから。
頼りがいのあるお姉さんに任せればいいのにな。
こうして待つこと三十分。長いシャワータイムを終え戻ってくる。
「もう王子! 裸で出てくるのはマナー違反ですよ」
どうしてこれでいいと思ったのだろう?
プレゼーヌはこんなことしません。
恥ずかしがり屋で可愛らしいプレゼーヌは人前で裸を晒しません。たぶん。
「いや済まない。いつものことだからつい…… 」
気が抜けたと言うよりは端からその気はないのだろう。
甘やかされて育てられたから。
王子は恥じることなく堂々としている。
そこが王子の威厳とも言えるが何とも情けない。
「もう王子ったら」
「ははは! 許せ許せ! 」
すっかり元の我がまま王子に戻っていた。
プレゼーヌを忘れて笑いながらはしゃいでいる。
その時声がした。
「ちょっとクレーラ。誰とお話になってるんですの? 」
二番目の姉が異変に駆け付ける。
「ごめんなさいお姉様。今パンキーを洗ってるところなの」
「本当なの? でも男の人の声が聞こえた気がするんですけどね」
まずい。聞かれていたらしい。
これだから王子には気を付けるように言ったのに。大声で笑って。
「気のせいですわお姉様。ほらパンキーご挨拶なさい」
「ワワンワン! 」
大喜びした時のパンキーは興奮してこんな感じになる。
意外にも王子はパンキーを演じ切れている。
「きちんと毛の始末はするのよ。次の人のことも考えて」
ようやく離縁されたショックから立ち直り元気を取り戻したお姉様。
お母様も随分良くなっている。残すはお父様だけ。
でも当人のショックは計り知れないもの。その元凶の王子が今ここにいる。
正直に家の者に言えば全員から袋叩きになって追い出されるでしょう。
そうなったらそうなったで仕方がないと思っている。
王子には悪いですがその時は私も加勢したい。
待ってよ…… 果たしてそれで済むでしょうか?
王子の命は風前の灯。
何としてもプレゼーヌとして最後までいてもらわなければ困ります。
こうしてどうにか危機を脱す。
続く




