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謁見

「顔を上げよ皆の者! 儂はこの国の王であるぞ」

国王様は上機嫌で笑って見せる。

威厳よりも優しさが滲み出ている人の良さそうなお方。

それは国民に対してだけでなく王子にも。

だから王子を甘やかし我がままもそのまま受け入れた。

国王様とは言え失礼ながらまだまだ人間はできてないと見受ける。


「うむ。皆しっかりしたお嬢さんのようだな。これは明日が楽しみだ」

明日改めて王子に相応しい者を選ぶと言ってすぐに退出されてしまった。

王子のことが心配なのでしょう。

自分で選ばせればいいものをでしゃばるからロクなことにならない。

勝手にそう決めつけてるが実際はどうかな?


単なる付き添いだからこんな風だけどコーコはそうはいかないでしょうね。

緊張してるのか表情が硬い。コーコの良さが消えてしまっている。

とてももったいないこと。これではライバルたちを蹴落とせない。

やっぱりコーコには荷が重過ぎたのかな? 私が裏で動くしかなさそう。

相手を蹴落とすのも悪くないですが何の恨みもありませんからね。

ここはコーコが王子に気に入られるようにする方が手っ取り早い。

でも私にその能力があるかと言えば疑問。


初めての場所で王宮の上に国王様との謁見。

緊張しない方がどうかしてる。

私はただの付き添いだから冷静でいられる。

もう少し緊張しても良いのですが婚約破棄された辺りからどうでも良くなった。

国王だろうと王子だろうとまったく動じなくなってしまった。

それがプラスに働けば良いのですが……

もちろんこれでも多少は緊張してるんですよ。

それよりも別の感情が湧いてきてしまう。

傍から見れば似たようなものでしょうが全然違う。


「ああ今夜は休んでくれ。旅の疲れもあるだろうから」

王子が格好をつけて国王の後を引き取る。

全員が王子の虜に。何とも見ていて情けない感じ。

はいはい。格好良いですね。


それにしても宮殿に泊まれるなんて夢のよう。良い思い出になる。

これで土産話もできた。お婆様も満足してくれるでしょう。


夜。

「ちょっと待っててね」

眠れないコーコのために飲み物を用意しようと部屋を出た時だった。

いきなり腕を取られびっくり。

きゃあああ!

思っていた以上に響いた悲鳴。うわ恥ずかしい。

でもいきなりですから叫びたくもなる。

こんな非常識なことをするのは恐らく……


「済まない。強引なことをしてしまったようで。

だがあまり宮殿内をうろつかない方がいい。身のためだ。

特に夜は臭いにつられて寄ってくるものだっているかもしれない」

こんな風に心細い女の子に精神的ダメージを与えようとする王子。

まだ子供のよう。思っていたよりも未熟で精神的に幼い。

これが私と同年代かと思うと情けなく思う。

「お戯れを王子! おやめてください」

主張すべきは主張する。当然でしょう。

無理やり連れて来たくせに何を考えているの?


「あれ君は付き添いの…… 」

どうやら相手を間違えたらしい。

「はい。クレーラです。いい加減にふざけるのはおやめください王子! 」

つい感情的になり意見を言ってしまう。でもこれくらい強く言わないと効果ない。

王子はそうするともう何も言えなくなってしまった。

まったく本当に情けないんだから。


さすがの私だって王子の存在ぐらいは認識していた。

婚約破棄されるまでは立派な屋敷のお嬢様ですからね。

それに私は別としてもお姉様たちは王子を狙っていたらしいですから。

あー嫌だ。権力に群がるのもそうですが幼過ぎる王子を我がものにしようとは。

私はそのような趣味を持ち合わせておりません。

やっぱり年上の包容力のある方がいいに決まってます。

まあお婆様のお考えもあってのことでしょうが。

ですが王子がお相手を選ぶ前に嫁いでしまった。

そこで婚約破棄された私に白羽の矢が立った。


お婆様が言うにはもう王子に気に入られて爵位を取り戻すしかないと。

ですが国王にしろ王子にしろ当てにならない。

一度爵位をはく奪した者や家族に情けを掛けるとは到底思えない。

再考するとはとてもとても。

まるっきり無駄なことをやっているような気がしてなりません。

ここは思い切ってすべてを告白し王子に任せる方がいいのでは?

王子だってそこまで愚かでもないし民のことも考えているはず。


うーん。でもやっぱりダメかな。何と言っても王子はこれだからな。


                  続く

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