付き添い
「いいぞ! いいぞ! 」
鳴りやまない王子コール。どうやら民衆には人気がおありのよう。
次期国王に相応しい熱狂ぶり。
「皆さん。ありがとう。また会えることを信じて」
格好つけるだけ格好つけて去っていく。
さあこれでようやく帰れる。
コーコにも付き合えたしお婆様との約束も果たした。
もう充分。急いで帰るとしましょう。
ここにいると気分が悪くなる。
王子を見ると益々気分が悪くなっていく。
どうやら本格的に毛嫌いしてるらしい。
でも王子がどのようなものか知れたのは収穫だったかな。
次の機会には必ず復讐を遂げて見せる。
昨年はお父様の付き添いで。
うるさくて激しいので近寄ることさえできなかった。
だから声も聞こえずお顔も一瞬だけ。
一昨年は楽しみにしていたのに熱を出してお婆様とお留守番。
その代わりにメイドが群衆に紛れた。
今年こそはと思っていたらエスコート側ですからやっぱり楽しめない。
まあ私は上品ですからあの熱気には相応しくない。
来年はどうなることか。
「おいそこの者! 」
コーコが王子の護衛の一人に呼び止められる。
あらあらどうやら王子はコーコを気に入ったらしい。
無理もないか。コーコは東洋の美女。あの黒髪に惹かれたらしい。
お友だちが選ばれるのはたとえ最低な王子だとしても鼻が高い。
何だか自分まで褒められたような認められたようなそんな気分。
「でも私…… 」
どうやらコーコは迷ってるらしい。ここまで来て迷うことないのに。
自分の思い通りなって怖くなったのかもしれませんね。
うまく行き過ぎて怖いってとこかしら。私もそんな風になってみたい。
これは嫌味などではなくただ純粋にそう思う。
コーコだって随分苦労してるんだから報われるべきでしょう。
「お願い! クレーラも着いてきて! 」
うわ…… 面倒臭い。丁重にお断りしたいがそうもいかないか。
ライバルの件はどうしたのだろう? それとも相手にならないと?
考え過ぎか。
「私はちょっと…… 」
嘘でしょう? もう帰るところなんだけどな。
断る口実が見つからず言い訳もできないままズルズルと流されていく。
「お願いクレーラ! 私たち親友でしょう? 」
「そうだけど…… 」
コーコに無理やり頼み込まれ仕方なく付き合うことに。
確かにコーコをこのまま放っておく訳にも行きませんからね。
うーん。王子とご対面か。嫌な予感しかしない。
感情に身を任せて暴走すれば取り返しのつかないことになる。
それだけは何としても避けなければならない。
王子にしろコーコにしろ罪深い。
復讐の気持ちを無理やり抑え込もうとするのは間違っている。
いいんですね? 私が本当に行っても?
「ではお付きの者もどうぞお乗りください」
「でも…… 」
無駄と分かっているが最後の抵抗を見せる。
できるなら宮殿には行きたくない。
王子に会うのも躊躇われる。
ここまで頑なに拒否すれば誰かの印象に残るはず。
そうすれば充分な言い訳になる。
このまま宮殿へ向かうとのこと。
急ぎ過ぎでしょう? こっちの都合も考えないで本当に強引なんだから。
「ちょっとお待ちください! まだ準備もままなりません。どうかご猶予を! 」
ここですぐに乗っては軽い女だと思われる。
少しでも抵抗を見せるべきでしょうね。でもそれはコーコがすべきこと。
実際私は関係ありませんし。
でも付き添いである以上意見ぐらいは言わせてもらいます。
「申し訳ありません。ご無理は承知の上でどうかすぐにお越しください」
有無を言わせない。ここでごねても無駄らしい。潔く従うしかない。
「分かりました。では着替えを…… 」
最後の抵抗を見せる。
「お召し物はこちらでご用意しますのでどうかお急ぎください」
王子が待っているそう。まったくこっちは迷惑を被ってるのに一体何様のつもり?
ああそうか王子様か? この国で恐らく二番目に偉いお方。
一国民である私たちは意見など言ってはならずただ従えと言うことらしい。
本当にどうしようもない王子。
王子が王子なら国王も国王だし。手下も手下なのでしょうね。
少しぐらいは話の通じる相手はいないの? 何だか心配なってきてしまう。
こうしてついに故郷を離れ宮殿へ向かうことに。
続く




