王子到着
王子歓迎当日。
かつてないほどの活気に溢れている町。
屋敷からでもひしひしと伝わってくる。
当然ですよね。年に一度の一大行事。
秋に行われるお祭りにも劣らない熱狂ぶり。
町を挙げての大歓迎。
まるで祝福されてるかのように雲のない空。
さすがは王子。天にも恵まれている。
アンギーブン国王の策略に嵌った私を心配したお婆様の処置は強硬なもの。
余計なことをするなと外出を禁止されほぼ軟禁状態。
お婆様の監視の目を搔い潜って出掛けることは不可能。
その気力も体力も消え失せた。
その間お母様が回復されて笑顔を見せるように。
お姉様たちも随分元気に。離縁されたショックから立ち直られているよう。
相変わらずお父様は一人部屋に閉じこもったまま。
お顔を見せればいいのに何をされてるのでしょう?
お付きの者が様子を見ているので心配はありませんが。
今お父様が復活されなくてはどうにもなりません。
ふう…… ため息一つ。
朝から憂鬱だ。空は晴れ渡っているのに私の心は複雑。
それはお婆様だって。
なのにまるで私だけが我がままを言ってるようになっている。
でも違うでしょう? 王子は我が一族の怨敵のはず。
たとえ一族が生き残るためとは言えあまりの変遷ぶりに付いて行けない。
納得できません。
「ふん。これでいいさ。さあ王子に気に入られてくるんだよ」
お婆様の厳しいチェックを受ける。
目立つようにオレンジのドレス着用。
太陽の反射でゴージャスに輝くようにと胸元に派手な装飾を。
私はもっとシンプルなのがいいのだけど受け付けない。
何だかお婆様のセンスは何世代も前の古い感じがして……
まあこれでいいと言うなら何も文句ありませんが。
王子って古風な方なのでしょうか? そうでないと目に留まるとは思えない。
いくら私が魅力的でも埋もれてしまう。そんな気がします。
まあどうせあのろくでなし王子なんだから何だって構わないか。
それにしても私どうしたらいいの?
王子にどのように接すればいいかまだ分からない。
お婆様はこれが最後のチャンスだと取り入れよと言うけれど無理でしょう?
王子だって私の素性を知れば同行を拒否するに決まっている。
でも行かなければお婆様がお怒りになる。冗談じゃないほどお怒りになる。
その怒りを鎮めるのは私には無理。
お父様ぐらいでしょうけど今の状態ではとてもとても。
あーあ行きたくないな。
馬車の乗せられて広場へ到着。
広場には当然多くの女性が集結している。
この子たちの中からもしかしたらお相手が選ばれるかもしれない。
でもそれは私には関係ないこと。
祝福しろと言うなら手を叩くことも厭わない。
王子なんてどうでもいい。
「はい皆さん言われたとおりに並んでくださいね」
「はーい」
皆大騒ぎしながら今か今かと王子の到着を待つ。
その中にコーコの姿もあった。
「お久しぶりクレーラ。あなたもやっぱり来たんですね」
ライバルが一人減れば自分が選ばれるかもと誰もが必死。
それはコーコも例外ではない。
まあ当然でしょうね。王子のお相手に選ばれれば一生安泰ですからね。
それに聞いた話では結構顔は良いって評判。
ろくでなしボンクラ王子でもルックスはどうにでもなるもの。
問題は外見より内面でしょうね。
噂を総合した結果では相当我がままで甘えん坊かと。
果たして実際はどうなのでしょうか?
「お互い頑張りましょう! 」
クレーラは気合が入っている。
服装は前回と同じ。他の方と比べても地味に映る。
「はいはい。興味ないけどね」
「だったら何でここへ? ぜひ参加したいと言う方はいくらでもいるのに」
コーコはまだ事情を知らないらしい。話してないから当然よね。
でも今更つまらない話をする必要もないでしょう。ただ家の恥を晒すだけ。
「お婆様からの命令で仕方なくね」
「そう…… それはお可哀想に」
ちっともそうは見えない。どちらかと言えば笑いを堪えてるように見える。
ライバルはライバルだから仕方ないか。
それから一時間。もう到着の時刻はとっくに過ぎているのに姿を見せない。
どうやら何かあったらしい。
「到着! 王子がお越しになられました! 」
様子を見に行っていた者が吠える。
ようやく王子のお目見えらしい。まったく人をどれだけ待たせる気よ?
冗談じゃない。私にとっては憎むべき相手。間違っても好意などありはしない。
大勢の護衛に囲まれて王子らしき人物が姿を見せた。
続く




