エピローグ後編
異国の王子を求めて砂漠の王国・ホッテストを目指し彷徨う。
ようやく一休み。
太陽の照り返しによる地獄のような暑さが容赦なく体を襲い水分を奪っていく。
たとえ歩かずとも動かずとも大量の汗が流れて脱水状態。
「もうちょっとだけでも…… 」
「ダメだって。四キロ以上残ってる。もう少し配分を考えないと本当に危険だぞ」
的確なアドバイスが身に染みる。ですがこれはただの王子のお遊び。
なぜ付き合って私まで辛く苦しい思いをしなければならないのでしょう?
私は一応は名家のお嬢様ですよ。耐えられない。耐えられるはずがない。
「そろそろ出発しようか」
返事もする前にもう行ってしまう。自分勝手なんだから。
「待ってくださいよ王子。もういい加減諦めましょう? 五キロも歩けませんよ」
文句などでなく事実を述べてる。五キロどころか一キロも百メートルだって無理。
暑くてもう堪らない。喉はカラカラ。汗が滴り落ちて目に染みる。
歩く気力も体力も残ってない。せめて水さえ自由にあれば。
だが目の前は砂漠。全体を見渡しても砂しかない。
そう簡単にオアシスなどありはしない。
見上げれば青い空と白い雲。そして我々を苦しめる憎たらしい太陽。
もう限界だ。我慢しない。
「王子! もう充分でしょう? 歩くなんて元から無理があったんですよ」
王子の思い付きでラクダも手配しなかった。それが一番の問題点。
「しかしどうしろと? 」
歩く以外方法はないと大げさ。
「このままここでゆっくりしていましょうよ」
「バカな! そんなことをすればどうなることか」
王子はそう言いますがこのまま留まっても問題ない。
なぜなら王子を見守る一団が一キロ後方を歩いている。
それだけでなく前方には王子に危険がないようにと先行部隊が。
足跡が嫌でも目に付く。
「さあお遊びはこれくらいで。そろそろ終わりにしましょう」
「それはないだろう? 異国の王子を紹介しろと言うから連れて来たのに」
律儀な方。約束だからと言いだしたら聞かない。
そこが王子のいいところであり欠点でもある。
私だってできるなら付き合ってあげたい。でも暑くてもう限界。
分かって欲しい。最初から無理だったのです。
「ほらもう四キロも歩けば砂漠の王国・ホッテスト」
「だからもういいですって! 足が痛い」
これ以上進む必要はない。
一人で歩こうと王子の手を借りようと後方の一団に助けてもらおうと。
そもそも誰がホッテストに行きたいのでしょう?
「しかし…… 」
「もう充分です。王子はよくやりました」
面倒臭いので褒めて誤魔化すことに。
「本当にいいんだな? 後悔しても知らないぞ」
私の意思の最終確認をする。慎重な王子。
「ホッテストもその王子もどうでもいいんです。私が望むのは…… 」
どうしてもここで照れてしまう。言えない本当の気持ちを。
言えば王子のせっかくの厚意が無になりかねない。
「はっきりしてくれ! 何が言いたい? 」
王子は鈍感なのかただ焦らしてるのか? でもやはり私から言うのは違うかな。
できるなら王子の方から告白してもらいたい。
もう一緒に異国を旅する仲間。だから信頼関係はできあがってるものだとばかり。
「分かりました! はっきり言います。あのその…… 」
どうしてもここで口ごもってしまう。暑さのせいか顔が火照ってしょうがない。
「どうした問題ないなら続行するぞ」
あくまで王子は紹介するつもりらしい。
「もう! 極寒のリョウガ王国の次は灼熱のホッテスト王国。
どうしてまともなところの王子を紹介できないんです? 」
つい思っていたことが口を吐く。
「ははは…… 紹介できるような者は僅かでな。これでも要望に応えてるつもりだ」
自信を持って紹介できるのが彼らだとはどれだけ情けないんでしょう?
もう少しまともなところを紹介してもらいたいもの。
「もう王子ったら…… 仕方ないんだから」
「そう言うな。クレーラを思ってのことだ」
照れる王子。まっすぐ見つめるものだからつい私まで照れる。
「分かりましたよ。もう王子でいいです」
「はあ? 何を言って…… 」
「ですから王子で妥協すると言ってるんです」
「妥協って…… それはないだろう? 仮にも王子だぞ」
「はい。その王子で我慢します」
「とんでもないな。それでどうしろと? 」
「中止しましょう。もう紹介しなくいいんです」
「でも…… それでは何のためにこんな辛い思いを? 」
勝手にハードな旅にしといてよく言う。
「それは王子が…… 」
「人のせいにするな! 」
「だって…… 」
「仕方ないな。分かったよ。だったら帰ろうかクレーラ」
「はい! 王宮に戻りましょう」
「それは無理だ。王宮は今使えない」
「だったらどこに? 」
「ボスバーチュンに帰るんだよ」
「王子…… 」
「よしでは帰るとしよう」
「はい王子! 」
こうして二人は元来た道を引き返しボスバーチュン家へ。
「王子暑いんですけど? 」
「知るか! いいから行くぞ! 」
「何か迷ったみたい」
「そんなクレーラ」
「冗談ですよ」
王子をからかうのは本当に楽しい。
「では手をつなぎましょうか」
「それはちょっと…… 」
恥ずかしがるので仕方がない。ここはやり方を変える。
「さあプレゼーヌ。手をつなぎましょうね」
「ええ…… 」
「つなぐんだよプレーゼ! 」
「へい親分」
「さあ王子。行きましょうか」
「分かったよ。クレーラ」
こうして二人は手をつなぎ歩き出す。
いつまでもいつまでも。
<完>
この物語はフィクションです。
参考
『シュバリエ』アニメ
『フランス革命』佐藤賢一
後記。
これで十八万字突破。
目標の二十万字には届かなかったけれど長引かせても仕方がないので。
次作以降で取り戻せればなと。
前半は問題なく後半はゆっくりと少しだらけたかな。
どうもやる気が薄れている気が……
<物語>
去年の今頃に。爵位をもらう緩いストーリーにしようかなと。
それだけだと盛り上がらないので家出王子と王家の陰謀を加えロマンチックに。
<当初は>
予定では今年の二作目にと考えていた。
一作目と三作目は決定していて二作目をどうするかで悩んだ結果今作を一作目に。
当初はミステリーを考えていたがどうもあまりしっくりこず。
続いて派手なデスゲーム系を。ただこれも一話目を書いた時点で続かないと判断。
そこでおぼろげに浮かんでいたこの作品を急遽投入。
現在に至る。
<爵位>
行列に並んで爵位を得るのが基本。
色々な爵位があった。
その一つにシュバリエが。
自由同盟から授かったシュバリエ憲章。
何か面白そうで今後の展開に繋がるものはと考えた結果がこのシュバリエ。
参考文献にもあるようにとある有名クリエイターによるオリジナルアニメ。
そこから七変化王子のイメージが。
<次回>
今回の王子が正体を気付かれないように七変化したように次回も華麗なる変身を。
『転生失敗! ボクは勇者で姫で魔王様? 』 ファンタジー 四月初旬予定。
『紅心中』 恋愛 六月下旬予定。
2025年3月31日現在。




