爵位喪失
初めまして皆様。
あれからもう一週間が経ってしまいましたね。
本当にあの時はどうなるのかと心配したもの。
でももう大丈夫。私は困難にもくじけず前向きに日々を過ごしています。
おっと…… 自己紹介がまだでしたね。
私はクレーラ。元良家の令嬢。
今はと言いますと情けないことにただの町娘でしかありません。
あの日…… そうあの日を境に世界は一変してしまったのです。
もちろん私の中の小さな小さな世界ですが。
まだ? まだなの? いつまで待たせるつもり?
つい心の中で悪態をついてしまう。心の中で留まらなかったような……
あれ…… 聞かれてしまった?
ううん大丈夫。これだけ騒がしければかき消されたでしょう。
何と言ってもざわざわしてますからね。
辺りを見回してもこちらに気が付く様子はない。
ただ皆さんおしゃべりに夢中。目があってもごきげんようと返されるだけ。
先ほどから人だかりができていたので並んでみたんですが……
「あんたも順番待ちかい? 」
普通前か後ろの方が反応して話しかけてくれると思うんですけど。
その方は列を抜けて四つも後方から。
「初めましてお嬢さん。私はペロリン。先日夫から離縁されたよ。ははは! 」
見た目はまだ若いのに何だか所帯じみている人の良さそうなお方。
豪快に笑うから驚かれてる。
どうもお話を聞くと性格悪い夫に毎日のように暴言を吐かれ挙句離縁されたそう。
可哀想に。私なんかまだ幸せな方なのかもしれませんね。
「では先にどうぞ」
つい順番を譲ってしまう。
「そんなこと言わないで一緒に並びましょう」
本当に欲がないらしいぺロリン。これは見習わなければいけないですね。
どうしても無心無欲ではいられない。あーあ情けない。
「ちょっとあなたたち! 何をやってるんですか? 」
後ろの方が見かねて注意を重ねる。
「割り込みは禁止だと書いてあるでしょう? そんなことも守れないの? 」
遅々として進まない苛立ちから攻撃的になっている。
目立ってしまったことで八つ当たりにあう。
「何ですって! 」
「駄目だってクレーラ。下手にトラブル起こすと災難が降りかかってくるよ」
必死にペロリンが止めるが相手が引かないのにこっちが引けるはずがない。
ペロリンが順番を守らずに割り込んだと勘違いしてるようだ。
事実ですがちょっと違う気もします。まだ正確には割り込んでいません。
もう少し冷静になってもらいたい。
「では並び直しましょうか」
冷静なペロリンに説得される。
おかしな疑いを掛けられるぐらいなら潔く列を抜けるべきでしょう。
こうして二人仲良く最後尾につける。
「それでこの行列は何でしょうか? 」
恐る恐る前の方に聞いてみる。
振り向いたとてもとても上品で高貴な方が詳しく教えてくれた。
何でも週に一度のパンの無料配布日だそうで鼻息が荒い。
うん? あれ? 思っていたのと違うな。
私は爵位が欲しくて行列に並んでいた訳で……
「もしかしてあなた初めて? 」
高貴な方は丁寧に教えてくれた。
もちろんここに並んでいるのですからただそう見えるだけでしょう。
私を含め行列に並ぶような真似をするのはちっとも高貴などではなく卑しい者。
「はい。実は…… 爵位がどうしても欲しくて」
こんな恥ずかしいこと言えない。でもつい口をついてしまった。
ああ恥ずかしい。恥ずかしい。もう慣れたはずなのにすぐに顔が真っ赤になる。
勘違いしないで欲しい。ただの見栄っ張りでもなければ強欲な訳でもない。
私はそんな人間ではないんですよ。
一週間前まで…… 正確には五日前までは子爵の地位にありました。
もちろん私ではなくお父様がですが。
それがお父様がヘマをして王子の逆鱗に触れてしまい爵位を返納することに。
お父様は本来国王から厚い信頼を得ていた。
ですが王子を溺愛するあまりこのような最悪な事態に。
その話を聞いたお母様はあまりの悲しみに涙が止まらずそのままお伏せに。
二人のお姉様もそれぞれ離縁を言い渡されて戻って来られた。
ショックを受けられているご様子。
お母様たちは立ち直れずに抜け殻のよう。
だからこそ私が何とかしなければならない。
そうは思うのですがやれることと言ったらただ行列に並ぶことぐらい。
あの噂が本当であろうとそうでなかろうとただひたすらチャンスを待つだけ。
続く