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あるかなの戯言  作者: あるかな


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7/9

ep.7 マイナス10センチメートル


「子供なんだから、もっと柔らかいだろ?」

先生の視線は、凍てつくように冷たい。感情が宿らず、機械的なその言葉が、容赦なくわたしの心を打ち据える。

広い体育館に先生の声が響き渡る。立位体前屈の測定中、私は壇上で晒し者にされていた。


「ほら、ズルしない。定規あてるよ」

平坦な声が響き、膝の裏へ定規を押し当てられる。無理に行う前屈のせいで、勝手に曲がろうとする膝裏が痛い。


気づけば壇上でさらし者にされているのは3人。

今日、体力測定をしているのは全学年の半分ほど。その中でたった3人だ。

お互いまったく知らない3人が、教師たちの叱責を浴び続けている。


立位体前屈——前屈姿勢で体の柔軟性を測る種目だ。

小さな踏み台の上に立ち、前へとかがむ。

踏み台の前にあるプレートを指先で押すことで、どれだけ踏み台の面より下まで指先が届くのかを見る。

その数字が大きいほど、前にペタリと曲げることができているというわけだ。


だが、今壇上にいるわたし達3人は、そのプレートに指先すら触れさせることができない。

「真面目にやっていない」「子供だから体は柔らかいはず」といった言葉を繰り返し、繰り返し言われる。

先生はこれ見よがしに大きな溜息をつき、定規で指先とプレートの間の距離を測った。


「マイナス10センチ......。在り得ないでしょ?」

呆れたような声が、私に突き刺さる。


毎回毎回こうだ。

別にわたしはサボっていない。

真面目にやっている。

もし、手が地面につくなら、心からそうさせてみたい。それこそ、わたし自身がずーーーっと願っていることだ。

膝裏に定規を当てられたところで、痛いだけ。

どんなに頑張って腕を下に下げても、腰と背中に鋼鉄の板でも入っているのか、体はちっとも曲がらない。

真面目にやっているのだから、これ以上どうすればいいというのだ。


他の体育の授業もそうだ。


跳び箱だってそう。

「それだけ身長があるのだから、特に問題なく飛べるわよね?」

手をついて助走し、跳び越えようとするものの、いつも箱の上で止まってしまう。 「なんで出来ないの? たった3段よ!」 問いかけは苛立ち混じりで、私の胸をさらに重く締めつける。


鉄棒だって。

「足を振り上げれば、反動で逆上がりはできるから」

先生は簡単に言うけれど、どれだけ足を振り上げても逆上がりはちっともできない。何度も何度も試すから、手のひらは汗だらけで滑ってしまう。

「なんで、手を離すの! 危ないでしょ!」

その叱責に、確かに危ないのは分かっているけれど、どうしようもなかった。



——



少し前、ネットで「運動が嫌いなのではなく、体育の授業が嫌いだった」「方法を教えてくれれば、また違ったのに」といった話が盛り上がっていたのを記憶している。

そのスレッドやまとめを読んでいて、わたしも深く深く心の中で頷いていた。


子ども時代の体育は「できる子は当たり前、できない子はおかしい」——そんな理不尽な空気に満ちていた。

50メートル走のタイムでも、「速く走れ」と言われたが、どうすれば速く走れるかは聞いた記憶がない。

手の振り、足の運び方、姿勢、といった具体的な理論を教わった記憶はまったくない。


勉強であれば、点数が悪ければ「どこが弱点か」「その弱点を克服する方法は」といったアプローチを先生達はしてくれた。

だが、体育にはそれがなかった。

上達どころか、ただ嫌いになる要素しかない。



——


この話は、わたしの体験を少しアレンジして書いています。

アレンジしてあるとはいえ、基本的にこんな感じでしたが。


おかげで今も体育というか、体を動かすのは苦手なままです......。




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