第9話 決着
SIGN 二章 - SeVeN's DoA -
第9話 決着
私の中で、何かが変わるのを感じた。
だから出来るはずよ…私。
自分を信じて…きっと大丈夫。
そういえばアンチペインによる痛み…
我を忘れていたのか…理由はわからないが痛みの記憶がない。
いけるッ!
「はぁああぁぁああああッ!!!!」
優の気合を込めた声が響く。
すると組んでいた手から、漆黒に揺らめく刃のようなものが現れた。
闇をも飲み込む漆黒の刃…これこそ霊王眼に秘められし第三の能力。
「出た…!」
…霊を封印する霊気の刃を操る能力…。
私ではこの能力は本来の能力の三割程度しか扱えない。
その三割の能力限定は威力…?
封印できる限界?
わからない…。
でも、きっと今の弱りきってるあいつなら…倒せる!
シュッ!
小守が動き出した。
先ほどとは打って変わって動きに精彩さがない。
どうやら確実に弱っているようだ。
「行くわよ…!」
優は両手で漆黒の刃を手に駆け出した。
「アアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
「終わりよ…!」
二人は勢い良く交差する!
そしてそれぞれ勢いを落としつつ…静止…。
両者ともが動きを止める。
ドサッ
小守は倒れた。
「……封印…完了」
優はすれ違い様にその漆黒の刃で小守を一刀両断していた。
肉体を斬らず…魂を斬る剣…。
優は倒れる小守に歩み寄った。
そして脈を確認する。
トクン…トクン……
「よかった…生きてる」
でも重症には違いない。
流華も傷は塞がったとはいえ、血は流れている。
このまま放っておけば危険かも知れない。
ウーーーー…!
「!…ええ!?」
パトカーが公園の前に止まった。
流石にこのドタバタが五月蝿かったのか、通報されたようだ。
「やばっ…!どうしよ!どうしよ!」
慌てふためく優。
しかし時はすでに遅し。
警察はこちらにやってきている。
「!…あれ?……あの人」
見たことのある刑事が一人…。
「ん…?君は!」
「お久しぶりです八坂警部!」
朝霞警察署刑事課の警部、八坂真だ。
「この状況……厄介事…かな?」
あはは…。
八坂警部は私の母、雪と昔からの馴染みで…霊がらみの…
いわゆる一般的じゃない事件に対しても多々経験があるらしい。
だから彼には全てを話せる。
優は霊王眼については伏せたが、
親戚の能力者がこの久木を滅ぼそうと目論んでいる点を上手くまとめて話した。
―――
――
「信じがたいが…恐らく事実なんだろうな…。
しかし…相手がそのような連中では、我々は余りに無力…」
「…シン警部…」
程なくして救急車が到着。
忘れられていた須藤彰と流華、小守の三人は運ばれていった。
「優さん…もしその男の計画が実行されたらどうなります?」
「悪霊を放たれれば、取り憑かれる人間は多いでしょうね…。
それだけじゃなく、邪悪な霊気にあてられて…今まで大人しかった霊まで狂気化する恐れがあります」
「そして、人間同士の争いに発展…その負の感情が再び狂気を生む…。
悪循環…か」
「その通りです…。だから何としても計画を阻止しなければ…」
大変なことになる…!
「優さん、私等は戦えない…が、協力はおしまんつもりだ。
その男の顔写真、特徴などを教えてくれれば捜査する」
でも…いいのだろうか。
彼等を巻き込んだら、恐らく死人が出る。
優は俯いた。
「優さん…あなたの気持ちはなんとなくわかりますよ…。
我々の事を思ってくれているのでしょう?」
「…はい…。相手は常識を超えた化け物です…。
もし遭遇したら…正直警察でどうにかできるとは…」
「ありがとう…。
でもね…私等は霊が相手じゃなくても、死は常に隣り合わせなんですわ…
皆それを何処かしらで覚悟している…だから心配せんでください」
そう言ってシン警部はニコッと笑いかけた。
「シンさん…」
「私の部下で鈴木ってのがいるんですがね…先日何者かに襲われ、重症を負いました」
「え!?」
「恐らくは…。
だからこれは奴の弔い合戦でもあるんですわ…」
…。
「わかりました…お教えしますので、後日家に来てください」
「ありがとう…優君」
そういうしかなかった…。
シンさんの目を見たら……。
そうよね…私だって仲間がやられたなら…きっとシンさんと同じ気持ちになる。
例えそれが危険だとしても…人には引けない時があるのよね…。
優はシンさんに送ってあげようとの誘いを受け、パトカーで帰宅した。
―――
――
「ただいま」
「優!!こんな時間まで何処で何をしておった!!!」
玄関の扉を開けるや否や祖母・茜の怒号が飛んできた。
「あれほど出かけるなと言っておったの…に!?」
油は茜に飛びついた。
「優…?どうしたんじゃ」
「…うう…」
優は茜の胸の中で涙をこぼした。
流華の事…シン警部のこと……無力な自分のこと…。
色んな気持ちが一気にあふれ出した。
―――
――
「…」
「…なるほどの…そんな事があったのか…」
優は事の経緯等を話して聞かせた。
「…どうしよう…また人を巻き込んでしまう…」
「優…それほどに落ち込むでない…。
お前はよくやったよ…」
「でも!…流華を危険に晒しちゃったし…警察まで巻き込もうとしてるのよ!?」
「彼等には彼等の覚悟と正義の使命感がある…。
それを否定してはいけないよ」
だからって……。
ああもう…!
シンさんの気持ちもわかるし…でも危険に晒したくない気持ちもあるし…。
「私が一緒に動く…それでよいじゃろ?」
「え?」
「私はシン殿とも面識があるし、彼等警察と動けば万が一の時も私がなんとか出来る」
「確かに…でもお祖母ちゃん一人で大丈夫なの?」
ゴツン!
茜の鉄拳が優の頭上に落ちた。
「いったっぁああ!何するのよ!」
「たわけッ!私を誰と思っておる!
いっぱしな事を言うには100年早いわっ!」
はは…
まぁこの元気があればきっと大丈夫ね…。
「まぁ相手がそれほどの実力となれば、用心に越したことはないがの…」
「うん…。
今までにないタイプの敵だったわ…アンチペインなんて…そんな能力受けたことがない」
「妖魔に近いかもしれんな…能力的には…じゃが」
「妖魔ってそんな特殊な攻撃をするの?」
「うむ…。属性を操ったり…独自の特殊能力を持っておることが多い。
恐らく怨霊の合成なんかで、そういった突然変異を起こしておるのかもしれんな」
そうなんだ…。
気づけばPM11:20。
優は風呂に入ってそのまま倒れ込むように眠りについた。
―――
――
その頃…
「"復讐者(Avenger/アヴェンジャー)"が倒されました…」
「そう…。
思った以上に強いようだな…奴等」
暗く冷たい地下室で緋土京と超越は会話していた。
「彼をどうしますか?」
「小守大成か?…放っておけ」
「消さなくても…?」
「敗れはしたが、奴が人間に協力的に働きかけるはずはないさ…
それよりもパーティまで時間もあまりない…皆に伝令頼むよ」
「はい…お任せを」
そう言って超越は部屋をあとにした。
ガンッ!!
緋土は机の上にあったペン立て等をなぎ払った。
「く…!!奴等めッ…!!」
激昂する緋土京。
残るSeVeN's DoAは6人…。
―――
――
翌朝…
9月5日(土) AM9:30―――
――
「ふにゃ…」
うぅ…よく寝た…。
ビシッ!
「痛ッ…!!」
嘘…全身筋肉痛!?
「はは…無理もないわね…」
昨日は無茶したからね…。
今日が休みでよかったぁ…。
優はガクガクと、まるで老人のように立ち上がった。
そのままリビングへ。
「お、おはよう…」
「遅かったわね優」
「あはは…ごめんね…。
あれ?お祖母ちゃんはいないの?」
「うん。朝早く警察へ行くって出て行ったわよ」
あ、シン警部の所にいったんだ。
わざわざこっちから出向くなんてお祖母ちゃんらしいわね。
「お姉ちゃん昨日は遅かったの?」
「うん。お祖母ちゃんを先に帰して、私は街を見て回ってたの。
はい」
優に朝ご飯のカツ丼が出された。
「うわぁぁ!お姉ちゃん特性カツ丼じゃん!」
「くす…。
相変わらず朝からよく食べれるわね…呆れちゃうわ」
ガツガツと駆け込む優。
「だってお腹すいてるんだもん!てか美味しいし!」
「はは!それはなによりでございます」
―――
――
朝霞警察署―――
――
「いやはや、わざわざご足労願いまして恐縮です」
「いえいえ。毎度孫がお世話になって、これ和菓子です。
つまらないものですが、皆さんで召し上がってください」
茜はシン警部に手土産の和菓子を渡した。
「緋土京…24歳……これが顔写真ですか」
「はい。身長は170前後らしいです。
私も直に会った事はないので詳細は不明ですな」
茜はメールにて緋土京の写真を送ってもらっていた。
「他の情報は…」
「すみませんな…これ以上は下手に危険に晒すことになるゆえ…。
協力はここまでしか出来ません…身勝手な話で申し訳ない」
茜は頭を下げた。
「いえいえ、十分です!頭を上げてください!」
「…私が同行しますが、くれぐれも気をつけて行動してください…。
相手は常識外ですからの」
「心得ています…こちらも、内容が内容なだけに大っぴらな動きは取れないうえに、
少人数の行動になります」
「むしろ少人数のほうがいいですな…。
下手に群がるとかえって的になりますからな」
「では…早速聞き込みに行きますか」
「ですな…」
茜と警察のタッグが動き出した。
第9話 完 NEXT SIGN…