第6話 アンチペイン
SIGN 二章 - SeVeN's DoA -
第6話 アンチペイン
「…
(さきほどとは打って変わって落ち着き払ってやがる…。
用心したほうがいいな…。先ほどのとび蹴り…速さもそうだが、相当な威力だ。
当たり所が悪きゃ…死ぬ…。そうでなくても、何度も喰らってやれる攻撃じゃない)」
「…」
少年は無言で駆け出した。
「!」
一瞬で須藤との間合いを詰めるものの、須藤はすでに防御の態勢に入っている。
だが少年はお構いなしに蹴りを放った!
ドガッ!
「クッ…!
(重いッ…)」
渾身の蹴りを受けたがなんとか踏みとどまる須藤。
しかし、今の蹴りを防いだ右腕は痺れてしまっていた。
「くく…」
「うおぉおッ!!」
不敵な笑みを浮かべる少年だったが、態勢は崩れている。
その一瞬の隙に合わせるようにカウンターの蹴りを放つ須藤!
ドガッ!
「!?…ッ!!?」
蹴りがまともに入った少年は吹き飛んだ。
そして受身もとらず地面に激突!
しかし、蹴りを放った須藤のほうが、謎の苦痛に顔が歪む。
「…!?
(なんだ…今の全身を駆け巡る痛みは…?)」
「くく…」
様子を物陰から覗く流華もその異変に気づいた。
「あの不良…どうしたのかしら?
蹴りを放った直後、一瞬硬直したように感じたけど…。
それにしてもあの不良も霊気に覚醒してるようね…でもあの程度じゃ…恐らく勝ち目は薄い…。
やはり出て行くべきね」
少年は立ち上がった。
「くく…もう一つ行くよ」
ダッ!
またしても正面から突っ込む少年。
須藤は迎撃態勢で待ち構える。
リーチの差は歴然。
タイミングを合わせて蹴りを放つつもりだ。
「シッ!」
予想通り、須藤は自身の間合いに少年が入った瞬間にするどい蹴りを放つ!
利き腕である右腕は今もまだ痺れている。
となれば、武器はこの蹴りに頼らざるを得ない!
「ひいッ!」
この蹴りをギリギリで上に跳んでかわした少年。
しかし須藤は喧嘩に慣れている。
こんな状況は予想済みだ。
すぐに体を捻り、もう片方の足で回し蹴りを放った。
空中では身動きなど取れない。
この攻撃はまともに少年の腹部を貫いた。
「!!!」
その瞬間倒れ込んだのは少年だけではなかった。
須藤もまた、同様に苦しみ、腹部を抱え…倒れ込んだ。
「が…はッ………
(なん…だ……この痛みは…)」
「くくく…そろそろ気づく頃かな」
少年は再び立ち上がると不敵な笑みを浮かべて須藤を見下ろしている。
「何を…したッ!?」
「あははっは!」
大口を開けて笑い飛ばす少年に、キレた須藤は立ち上がると同時に、痺れた右腕で思い切り顔面を殴った。
バキッ!!!
「………うう…ぐはっ!!」
何故か殴りつけた須藤彰のほうが吐血をした。
少年は今の一撃をまともに喰らいながらも踏みとどまっている。
「…くく…最高だよ…。
相当痛いでしょ…ねぇ?」
「が…が……」
ドサッ!
須藤は膝から崩れ落ちた。
「はは!…は!?」
ドガッ!!!!
強烈なとび蹴りが少年の後頭部に突き刺さる!
鹿子流華の不意をついた強烈な一撃ッ!
少年は宙を舞い、地面に激突!
全身をこすりつけながら数メートルほど吹き飛んだ!
「大丈夫…?」
「あ、あぁ…」
流華はダメージを負った須藤に駆け寄り、手を貸した。
須藤はなんとか立ち上がったものの、両足はガクガクと笑っている。
「待って…すぐに治してあげる」
流華は須藤の体に手を当て、集中を始めた。
「これは…!?」
見る見るうちに須藤の傷が回復していく。
「これでいいはずよ」
「ありがとう…アンタは一体……その制服…うちの生徒か…」
「!…あなたもそうなのね。じゃあ白凪優とはお知り合い?」
「あぁ。良く知ってる…。アンタ…アイツの友達か何かか?」
そうこうしているうちに少年が立ち上がった。
「悠長に話してる場合じゃなさそうだわ。
話はアイツを倒してからにしましょう」
「って…おい!?…アイツって…あのガキと知り合いなのか?」
少年はこちらを振り返った。
顔面は傷だらけになっている。
「何だよ…お前…。
横から何手出ししてんの?…殺すぞ」
ビリッ!ビリッ!!
物凄い威圧感が二人に向けられる。
「知り合いではない…が、アレは敵だ。
あなたと彼のやりとりは少しみていたけれど…なぜ攻撃を加えたあなた自身が苦しんでたの?」
「わからない…。
アイツを殴ったり蹴ったり…とにかく攻撃する度に物凄い激痛が全身に走るんだ」
「…なるほど…それがアイツの能力ってわけか…」
「男は後回しだ…まず女……お前を跪かせてやる…。
泣いても許してやらない…ひひ…」
少年は駆け出した。
「ひゃっはああッ!!おせぇえええ!!」
迅い…ッ!
須藤と戦っていた時の速さを明らかに越えている。
あっという間に流華の間合いに入った。
「!…チッ!!」
流華は苦し紛れの蹴りを放つも、脚が上がりきる前に少年に抑えられてしまった。
「くく…行儀の悪い脚だぜ…」
ペロッ
少年は流華の太ももを舐めた。
ザワッ!
「ハッ!!」
バキッ!!
怒りの鉄拳が少年の顔面をえぐる!
「!!…な…なに!?」
ズキズキと、謎の痛みが流華を襲った。
「ひゃっはっはっはあ!!」
「…そうか…"触られた"だけでダメなのか」
「ふふふ…種明かしといこうか…。
俺の能力…"アンチペイン"……一種の呪いだ。
こいつを触った対象(生物に限る)につけることが出来る。
アンチペインを施した相手からの攻撃…痛みを伴う全ての行為がそいつにそっくりそのまま反される…
ダメージは反せないが…痛みだけはそっくりそのまま反せる!」
「あなたは痛みを感じないわけね…」
「その通りッ!
俺の体は少なくともアンチペインを施した人間からは痛みを感じないッ!
こいつはすげぇんだぜ…単に直の攻撃だけを認識するだけじゃない…。
その攻撃によって生じた痛みもそのまま反せるんだ…。
たとえば蹴りによって受けた痛み…そしてその衝撃で倒れ、地面に顔面を強打したとする…。
その顔面の痛みも含めて反せるってわけだ」
「ふん…偉そうに…。
よくわからんが、反せるのは痛みだけ…ダメージは食らうんだろ?
だったら痛みは我慢して一発で気絶に追いこみゃワケないだろ」
須藤は腕を鳴らして臨戦態勢をとった。
「理屈はそうだね。
でもオタクらにそんな覚悟あるの?
自分達で喰らってみてわかったでしょ…自分が相手に与える"痛み"ってやつを」
「確かに自分で自分に本気で殴りかかることなんて…滅多にあるもんじゃねぇ…。
その点は貴重な体験が出来たぜ…。
だが、ためらいは無いね…全力でぶち抜く!!」
須藤は自信満々に言い放った。
「う、嘘だね…!口じゃ何とでも言えるさ…実際に体は正直だよ…。
絶対に力を抜くはずさ」
「何を怯えているんだ…?
お前の言う事に自信があるなら怯えることはないだろう…。
痛みは感じないんだ。怯えることもないだろ」
須藤が一歩少年に近づくと、合わせて少年も一歩下がる。
明らかに動揺している。
「…ハッタリだ…」
「遠慮せず行くぜ…」
ダッ!
須藤は駆け出した。
少年の服を掴むと、頭突きを一発!
その瞬間、激痛が須藤の体に走る!
が、お構いなしに、そのまま地面に少年を投げて叩き付けた!
先ほど以上の痛みが須藤を襲う!
だが、これにも動じる事無く、少年を立たせると。
下から突き上げる…全ッ力ッッの…アッパーを水月に繰り出した!
「…!!!!!!!!!!!!!!!!」
須藤はその瞬間、少年と同時に倒れ込んだ。
見ると須藤は白目を剥いて気絶している。
少年もまた、ダメージ蓄積が限界を超えたのか、気絶をしている。
「この男…凄まじい精神力の持ち主だな…。
普通の人間なら、痛みを恐れ…無意識にも手加減してしまうものだろうに…。
優の仲間…恐るべきだわ…」
ザワッ…
「…だよね…。本番はこっから…か」
只ならぬ気配が辺りを包み込む。
「…ったく…糞ガキが…」
少年がゆっくりと立ち上がった。
「中の怨霊か…。さっきとはまるで次元の違う威圧感ね…
(ダメだ…私一人で太刀打ち出来る相手じゃない…。
最悪ね…。逃げることも出来るかどうか…)」
流華は気丈に振舞おうとするものの、体は正直だった。
両の足はガタガタと震えている。
「女…貴様、普通の人間ではないな……強力な"気"を感じる…。
そうか…お前が"アイツ"の言っていた敵か…」
「アイツ…?」
意味深な台詞で流華の興味を引いた。
「クク…知りたいか?」
「教えろ…といって、教えてくれるわけでもないのでしょう」
スッ
「その通り」
一瞬!
気づいたら少年の姿は目前に存在していた。
流華の体が動かない。
恐怖に縛られる流華…!
「…!」
バッ!
殺される…そう感じた瞬間、少年は一足飛びで流華の前方に飛んでいった。
"何か"が少年を狙って飛んできたのを、一瞬で感知し、かわしたのだ。
「流華!!」
「ゆ…優…!?」
現れたのは優だった。
すぐに流華の元に近寄る優。
「大丈夫…!?」
「ええ…って…あなた…まさか一人なの!?」
状況が把握できない…。
あの少年は誰…?
てか、なんで須藤先輩がこんなところに!?
き、気絶してるし!
「優…最悪の状況よ…!」
ゾワッ!
「…これって…」
優はそこで初めて気づく。
獅子の檻に無防備で入り込んだことに。
「餌が増えたな…クク……殺してやるぞ…女ッ!」
第6話 完 NEXT SIGN…