第52話 衝撃の結末
SIGN 二章 - SeVeN's DoA -
第52話 衝撃の結末
「…そ…そんな…!」
「馬鹿はあんただよ…緋土京。
この霊気を感じれば解るでしょ?
もうあなたは敵じゃない」
優に直撃したはずの冥王波。
しかしかすり傷一つ負ってなどいない。
「…く…!!馬鹿な…!
こんな異常な霊気……存在するはずが…!」
「最後通告だ…負けを認め…
罪を償うと誓うんだ!そうすれば、これ以上あんたを攻撃しない」
「例え…勝ち目がなかろうと…!
俺は俺の選んだ道に後悔などないッ!!
殺すなら殺せッ!!」
「馬鹿…ッ!!なんで解らないのよッ!!
はぁああああぁああッ!!」
優の掌から物凄い波動が放たれた!
大人一人を丸々飲み込むほどの波動!
避ける間もない!
「…俺は…!」
ドッガーーーーーーーーン!!!
辺り一面が光に包まれた。
「はぁ…はぁ……!
終わった……今度こそ本当に終わった」
優の変化が解けている。
全ての霊気・霊力を使っての一撃だったのだろう。
凄まじい一撃だった。
辺り一面が吹き飛んでいる。
市街地から離れていたのがせめてもの救いか。
「…あっちね」
優は吹き飛ばした京の元へと急いだ。
―――
――
京は地面を抉りながら巨木のふもとまで飛ばされていた。
地に腰をすえる形で止まっている。
「…ゴホッ……はぁ…はぁ……。
まさか…この俺があんな小娘に…ボロボロにされるとはな……。
こんなはずじゃなかったんだ…」
ザッ!
「はぁ…はぁ……。
よかった…生きてる……」
「お前の勝ちだ…白凪優……。
俺の全てを滅ぼすという邪悪な心は…
お前の皆を守るという強い気持ちには勝てなかった」
「…緋土京…もっと別のやり方はなかったの…?
こんな悲しいやり方……やっぱり駄目だよ」
「…わかっていたさ…。
俺がこんな事をしても那由多は生き返らないし…
過ぎ去った過去は変え様がない…でも仕方なかったんだ…
俺にはもう…冷静な判断力よりも…
人間に対する怒り…憎しみ…それしか出てこなかった……」
優の目から一滴の涙が毀れた。
「…」
「泣いているのか……。
一体なんの涙だ………下手な同情はいらない…。
…殺せ……俺は罪もない人間を沢山殺した…………!
もはや償いきれる罪ではない……」
「だからといって…私にあなたの命を奪う権利はないわ。
それに…たとえ権利があったとしても、あなたを殺すつもりはないわ……
それじゃ私に力をくれた人を裏切ることになる…。
第一私は普通の高校生よ…?人殺しなんて…そんなこと出来るわけないじゃない」
「…そうか…ならば俺自ら…
幕を降ろすとするか…」
そう言って京が立ち上がろうとした…
その時だった。
「その必要はない」
『!!』
突然の声に優は振り返った。
目の前には見た事のない男女が立っている。
「…誰!?」
「さぁ…誰だろうな?
今は貴様に用はない…後ろの男に用がある」
「緋土ちゃん負けちゃったみたいねぇー!だっさぁ」
「く……俺を始末しに来たというわけか…!」
「当初の予定とは随分狂いが出たようだな…京。
もっとも…それはこちらも同じだ。
"王"の復活のためにも貴様は生かしておくつもりだったが…
もうその必要が無くなった」
王の復活…?
こいつ等一体…何者なの?
特に普通の人間と大差ない…霊気もほとんど感じないし…。
でも…威圧感だけは感じる。
危なさも…。
「俺が必要なくなった…だと?」
「あぁ。この女が変わりに封印を解いてくれそうだからなぁ」
私!?
封印って何のことなのよ…!
「その女では無理さ…くく!
確かに恐るべき力があるのは認める…!
しかし、その女は貴様たちに協力するはずがない!」
「うむ。そうだろうな…まぁ問題はないだろう?
力は足りているのだから。
協力する、しない…やる、やらない等と…この女の意思などどうでもいいのだ。
"やらせるからな"」
ゾッ!!
優に鳥肌が立った。
凄まじいまでの殺気…!
「とりあえずだ…俺たちがここに来たのは、貴様の始末ともう一つある」
その瞬間だった!
ドンッ!!
優が男に飛び掛った!
バシンッ!!
「!…く」
死角からの優の拳は男の人差し指一本で止められた。
しかも視線は京を向いたままだ。
「女…お前は大切な"鍵"の一つだ。
自分の力は十分に引き出せるようにしておけ」
男は指で優のがら空きの懐をちょいっと押した。
その瞬間優の体が勢いよく吹き飛ばされた!!
ドッガーーーッ!!
木を二、三本へし折りながら、ようやく勢いが殺され、地面に倒れた。
「弱すぎ!何あれ!」
「そう言うな亞砂。
力を全て使い切っているようだからな。
さてと…遅くなったが死ぬ覚悟は出来たか…京」
「…俺が死ぬ事は構わない…!
しかし…俺が死ぬ事で…白凪優が背負わずにすんだ運命を…背負わせるわけにいかん!!」
京は立ち上がった。
しかし、足元はふらふらだ。
「無理をするな…貴様程度が俺たちに勝てるわけがないだろう?」
「そうそう。京ちゃんは雑魚なんだからさ。
死ぬときはアッサリ死にましょ?ね?」
「あいつは…あの女はこんな風になった俺のために泣いてくれた…唯一の女だ…!
俺に全ての罪を償えるとは思っていない…!しかし…せめてもの罪滅ぼしだ…!
貴様らを殺すッ!!」
京の霊気が上がっていく!
―――
――
「きょ……京…!だめ…ッ…!
逃げてぇええッ!!」
遠くから叫ぶ優の声は京の耳には届かなかった。
「や…やらせるもんかぁあああッ!!!!!」
その瞬間優の霊気が異常なまでに膨れ上がった。
先ほどの変身を遂げた優は男目掛けて駆け出した。
「!…ほう…!
間近で見れば…確かに大した力だ。
だがやはり未完成だ。亞砂!」
「あいよ…!さっきのアンタの言葉…!
私があいつと同等っての…改めて訂正させてやるさ!」
亞砂が飛び出した!
「うあぁあぁああああぁあッ!」
「きゃはっ!少しは楽しませてよ!」
ドッガーーン!!
二人が衝突した瞬間、凄まじい光が辺りを包み込んだ!
ポタ…ポタ……
「…ちぃ…!!…危なかったじゃないの…!」
「あ…あぁ………」
亞砂の右腕が優の腹を貫いている。
逆に優の拳は亞砂の頬を掠める程度だ。
「馬鹿者め…下手をすれば死んでいたぞ…亞砂」
「るせぇよ!これが結果でしょ!!
私がこんなションベン娘に負けるかよ」
ズブッ!
優の腹から腕を抜く亞砂。
その拍子に優が倒れた。
変身も解けている。
「…で、どうしよう?
このままにしてたら、この子死んじゃうんじゃない?」
「そうだな。
お前が負傷させたのだ…責任を持って治療しろ。
この女が"鍵"の第一候補である以上…死なせれば……わかるな?」
「へいへいー」
「いや…待て。どうやら、こいつ等の仲間がそこまで来ているようだな。
俺たちはさっさと、アイツを始末して引き上げよう。
丁度彼も来たようだしね」
ザッ…
突如倒れる優の前に姿を現した男がいた。
「…」
「…ゆ…勇君…!
無事だったのね…!」
天城勇だ。
「…酷い傷だね…
少し待っててください。あいつ等を片付けますから」
優の傷口を見て言うと、男たちの方へと歩みを進めた。
「だ…駄目ッ!…ゲホッゲホッ…はぁ……はぁ…逃げて…!
あなたじゃ勝ち目は…うぅ…」
体が動かない…ッ!
「心配ないですよ…"俺"は強いですからね」
男たちに向かって駆ける勇!
ドスッ!!
「え…?」
勇が自らの手刀で突き刺したのは…
目の前の男…天牙でもなく…亞砂でもなかった。
「が…がふっ…!!」
心臓を貫かれて吐血する京。
「これで…よかったんですよね?天牙さん?」
「上出来だ」
「ど…どうして……どうして!!」
優が倒れながら吼えた。
「どうして…?何を言ってるんです?
彼は元々俺たちの敵でしょ?」
「あなた…一体誰…!?
勇君…じゃない……!」
「…その体で…あまり無理をすると死んじゃいますよ?
優さん?」
笑顔で返す勇。
「ふ…ふざけないで…!
あなたは一体…!」
「俺は…琉屍…勇君じゃないんだ。
ごめんね…くっく!あーっはっはっは!!」
「一体何を…言っているの…?」
「鈍いね君も…。
俺は天城勇じゃねぇっつってんだよ!」
!!
「そ…そんな…!」
「俺は、邪悪で呪われし者…人間でも妖魔でもない…。
そんな俺は一度死に…その魂だけを"あるお方"に救われた。
そしてこの男の…天城勇の体を巣として俺自身の成長・回復と…この器自身の成長を待ったってわけだ」
「…いつ…いつから…そんな…」
「てめぇら…数ヶ月前にここ…緒斗の森へやってきただろ?
その直前さ…くく!
それにしてもついていたぜ…神谷だったか?
奴のおかしな術で…守護霊の霊気をモノに出来ただけじゃなく、
器の…天城勇の魂までも始末できたんだからな!」
「そ…そんな……勇君は……もう…いないの……?」
「あぁ。綺麗さっぱり…消えちまったぜ!
ひゃああっはっはっは!!」
「う…嘘……」
「絶望しろ…いい顔だ。
っと…長居が過ぎちまったみたいだな」
ザザザッ!!
現れたのは白凪茜、緋土綾芽の二名だ。
「こ…これは……一体…どういう状況じゃ…!」
「…!!兄貴…!」
綾芽はすぐに倒れている京に気づいた。
「…どうする?天牙さん。
全員殺しますか?」
「いや。奴らはまだ利用価値がある。
今失うにはおしいな。引き上げるぞ」
「んふ!またいずれ会う日まで人生桜花しなさいね!
んじゃねぇっ!」
そう亞砂が言い放つと、天牙、琉屍の三人は姿を消した。
「…そんな………勇君が……」
勇の目から光が消えていった。
第52話 完 NEXT SIGN…