第50話 二つの扉
SIGN 二章 - SeVeN's DoA -
第50話 二つの扉
…
なんだろう…。
この感覚………
何も見えない。
何も聞こえない。
触感も匂いも…
ありふれた感覚が…何もない…。
あるのは…闇だけだ。
私は死んだのか。
これが死……天国も地獄もないの?
あるのは無…か。
もういいや…何も考えたくない……。
これでよかったのよ…。
―――
――
「さて…街はどうなったかな…。
ん…!?…どういうことだ!?」
京は上空を見上げて何かに気がついた。
「怨霊共の雲が消えている…だと?
あの女の仲間か…ッ!
SeVeN's DoAの連中は何をしているんだッ…!
役立たず共めッ…!
…まぁいい……物足りなかった所だ…。
俺自ら人間共に恐怖と絶望を味あわせてやるか…この紅霙の力を解放してな…!
くくく!」
―――
――
『優……目覚めよ』
声が聞こえる…。
誰の声…だっけ……女の人の声…。
お姉ちゃん…?
お祖母ちゃん……?
……お母さん…?
誰だろう…わからない…。
『お前は霊王の転生体…唯一無二の存在……。
いずれこの地に復活せし終焉の王が齎さんとする世界滅亡を
阻止すべき存在…今死ぬ事は許されぬ』
そんな事言われても…私は何も出来ない…。
それにもう死んじゃったんだから…しょうがないじゃない。
『お前はまだ死んでなどいない』
え…嘘でしょ……?
現に私はもう闇と一体になってる…。
感覚がないもの…。
『確かに今お前は死にかけてはいる…。
だが、今ならまだ助かる事が出来る。
生きる意志があるのであればな』
生きる意志…。
『そうだ…。
お前は死にたくなかったはずだ。
まだ現世に未練もあるだろう?』
…未練…か。
もう…考えるのもしんどいよ…。
『…。
仲間はどうするのだ?
ここでお前が死に絶え…奴を野放しにすれば、
間違いなく仲間は皆殺しになるだろう』
…皆が……殺される…?
『お前は何のために奴と戦ったのだ?
守りたい物があったからじゃないのか?』
守りたいもの……。
そうだ…私は…皆を……そして生まれたこの街を守るために…
『思い出したか…。
ならば、このような場所でいつまでも、もたついている場合ではなかろう』
でも…
私が蘇った所で、あいつには勝てない…。
莉都も力を貸してはくれなかった…。
『莉都はお前に賭けたのよ…。
お前の中に眠る霊王の力に』
無理よ…。
私にはそんな力なんてない…。
あいつは強すぎるわ…勝てっこない。
『…ならばどうする?
やはり仲間を犠牲にするか?』
わからない!
…
…わからないよ…。
私は皆を守りたい…!
街だって救いたい!
あいつだって止めたい…!
でも…でもそれが出来なくて…どうしようもない気持ちで…
苦しくて…!
私にはもう…どうしていいかわからない…。
『優…』
力が欲しい……。
相手を倒す力じゃない…。
大切なものを守る力が欲しい…。
『…心から…そう願うか?』
正直不安でいっぱいだし…迷いもある。
私はとても弱い人間だから…。
でも…私の気持ちに嘘はないわ。
力があれば…守る力さえあれば…!
私はまた立ち上がれる気がする!
『…最初で最後…
お前に力を貸そう…優』
え?
『お前の気持ちに嘘がないのであれば…扉を開くことが出来るかもしれぬ』
扉…?
『そうだ…霊王の力が眠りし二つの扉。
覇刃の扉…それは大いなる破壊の力。
守麗の扉…それは大いなる守護の力。
この二つの扉を開け…二つの力を極めし時…真の霊王としての力を手にする』
ハジンと…シュレイ…。
『今のお前では、どちらの扉を開けることも叶わないだろう。
だが私が力を貸してやる…それで開けるはずだ…。
資格があればな』
資格……?
『先ほどの守りたい気持ち…
自分を犠牲にしてもなお、守りたいという気持ち。
そこに偽りなく…心の底より、それを願うのであれば扉は開く』
もし…なかったら…?
『その時は完全なる"死"が待っている』
死…。
『…故にお前の覚悟を聞いた。
先も話したとおり、お前はまだ死ぬべき時ではないのだ。
私はお前を死なせるわけにはいかない…』
あなたが最初から力を貸す話をしなかったのは…
『そう…中途半端な気持ちのお前に扉を開かせるわけにはいかなかった。
気持ちを聞いて、尚見込みがあると判断したから話したのだ』
…私やる。
まだ肉体も精神も未熟だし…怖い気持ちもある。
でも…失いたくない…!
守りたい!……心の底から願う!
『いいだろう』
ドンッ!
暗闇の中に二つの扉が出現すると共に、自身に感覚が戻った。
『さぁ進め…右の扉が覇刃の扉…左が守麗の扉だ。
間違わぬようにな』
ええ。
そうだ…教えて欲しい事があるの。
『なんだ?』
あなたの名前…なんていうの?
『私の名か…莉那……莉都とは同じ精神を共有している存在さ』
え…?
『莉都と私は同時に存在することは出来ない。
あの子は先の戦いで消耗し…今は眠っている。
だから私がお前を導いた』
そっか…ありがとう莉那。
私皆を守ってみせる。
『その意気だ。
お前ならやれるさ…優』
優は左の守麗の扉に両手を添えて、扉を押し出した。
「きゃっ!」
物凄い光と衝撃が優を包み込んだ!
―――
――
ドゥウウウウウウウウッ!!
「!?…なんだ!?」
京は突如轟いた音に反応して振り返った。
見れば優の体が光の柱の中で浮いている。
「…馬鹿な!
奴の霊気は完全に途絶え、息も止まっていたはずだ!」
…あったかい…。
何だろう…この穏やかな気持ち…。
優はゆっくりと目を開けた。
そして地に降り立った。
優を包み込んでいた光の柱が徐々に優の体に収まっていく。
「…」
「生き返ったとでも言うのか…?
ふざけた真似を…ッ!」
「…」
優は黙ったまま京と目を合わせた。
「傷が癒えている…。
それだけじゃないな…様子が先ほどと違う…!
(なんだ…あいつのあの目の光は…?
霊王眼の力…?馬鹿な…あのような変化など聞いたことがないぞ)」
「緋土京…あなたの過去には同情するわ…。
でもあなたがした事は間違っている!」
「はっ!今更その様な事をお前と論ずるつもりはないと言っただろう!
俺を止めたければ、力で止めてみろッ!」
「…いやだ」
「あぁ!?"嫌だ"じゃねぇだろ!!
出来ないんだよ…!お前程度の力ではなッ!
まったく分を弁えない女だ」
「私のこの力はあなたを倒すための力じゃない…。
皆を守るための力よ…!」
「くくく…!この期に及んで、何を世迷いごとを…!
奇跡で蘇った位で調子に乗るなよ…?」
ドッ!!
京が駆け出した!
「もう一度…あの世に逝けぇええええッ!!!」
シュッ!!
優の首筋に向けて放たれる手刀!
優は反応できていないのか、微動だにしていない!
「終わりだッ!」
スッ
「!!?……何……?」
「…」
完全に首をはねた…京はそう確信していた。
だが、京の手刀は優の片手で止められている。
手刀を包み込むように…掌で。
「馬鹿な…!あそこから手刀を止めたというのか…?
いや…それよりも…!なぜこんな女に…しかも片手で…止めたというのか!?
俺の手刀が…」
シュゥッ
「うッ…!?なんだ……この感覚は…
(力が抜ける…)」
「…もう止めましょう。こんな戦い…何にもならないわ」
バッ!
京は優の手を振り払い、間合いを取った。
「貴様…一体何をした!?」
これが私なの?
あの京の動きが手に取るようにわかった。
だから余裕で手刀も防げた。
それに何だろう…力がどんどん湧き出てくる…。
「私にも判らない…。
でも一つだけ言えることがあるわ。
あなたに私はもう倒せない」
「………くっく……あーーーっはっはっはっはっはっははははは!!」
「…」
「あなたに私はもう倒せない…か!
くくく…本当に笑わせてくれる!
まぐれが続いた程度で……ざけるなよ…ふざけるなッ!!
この俺をコケにするなぁあああッ!!!!」
「…私はもう…こんな馬鹿げた戦いはしたくない。
でも貴方が私の大切なものを壊そうというなら…
私は全力で守るわ!」
「ぶっ壊してやるよ……木っ端微塵になッ!!!」
京は近くに差しておいた刀を手にした。
呪い刀紅霙だ。
「…無駄よ」
「くっく……見ていろ…!
紅霙の本当の力をな……!」
京は鞘から刀身を抜いた。
すると、その瞬間に禍々しい怨霊が姿を現す。
刀身に纏わりつく、それらの怨霊は黒く…歪んだ人の表情をしているようにも見える。
まるで唸りをあげているかのようだ。
「なんて…禍々しい邪悪な気なの…!」
「くくく!…すばらしいだろう…
さぁ紅霙…俺と一つになろう……」
ドスッ!!
「え…?」
なんと京は自分で自分の腹を紅霙で突き刺した。
刀は完全に京の体を貫いている。
「ゴホッ…はは…くっく…!
さぁ…紅霙…俺の血を吸え……美味いだろう…
そのまま俺の体の中に巣食え…そして一つになろう…。
全部だ…全部俺の中に来いッ!!
うははは…!」
「く…!黒い霊気が京の傷口から体内に入り込んでいる…ッ!」
「あ…あぁ………」
ドサッ
京は膝を折って倒れた。
ビクビクッと痙攣している。
「…禍々しい霊気が消えた…」
これって…まさか…死んだの?
第50話 完 NEXT SIGN…