第5話 "正義"と"復讐者"
SIGN 二章 - SeVeN's DoA -
第5話 "正義"と"復讐者"
とある廃墟――
「あっはっはっはっは…!」
闇夜に響く男の笑い声。
警察官に囲まれ…逃げ場はない状況下。
絶望から来る笑いなのか…それとも余裕の笑みか…。
男の足元には何人もの屍が転がっている。
「…お前はもう終わりだ…。
この状況…言い逃れはきかないぞ!」
「あー…そうだな。
こいつ等は俺が殺したんだ…つってもこいつ等は社会のゴミ…。
見てみろ、あんた等も手を焼くヤクザモノだ。
感謝して欲しいところだぜ」
男は足元の死体を足蹴にして言った。
「ふざけるなッ!…どんな人間だろうと…殺していい理由にはならないッ!」
「ヒュー♪…あんた警察官の鑑だね。
でも本当にそうか?…この世にはどうしようもないクズって奴はいるんだよ。
救いようのないクズがなッ!こいつらがそうだ。
弱いモンから、毟りとり…寄生し、死ぬまで貪り喰う。
だが…あんたらからしたら…俺も救いようのない社会のゴミクズか…クク」
男は壁を背にし、余裕を見せる。
前方には銃を突き付ける警察官たち。
この状況下でこの圧倒的余裕…開き直ったのか。
それとも打開策があるのか。
「"俺達"が連日連夜、殺しを重ねるせいで…アンタ等も大変だねえ。
"警察の威信に賭けて殺人を止めろ"……上からも下からも期待され…
あんたのように正義のために、なんとしても止めるんだという…熱い正義感。
胸糞悪い……が、嫌いではない。
俺も自分の正義を貫いているだけだ…。
せっかく与えられたこの"力"…使わないのはもったいない」
「お前と正義感について論ずるつもりはない…ッ!
お前はここで終わるんだッ!!」
「いい覚悟だ。
…俺も俺自身を守らなきゃならんからな…悪いが死んでもらうぞ」
「ふざけるなッ!」
パンッ!!
この場で一番上の立場であろう、刑事の発砲!
「…ばかな……」
男は銃撃をいとも簡単に避けてかわした。
「俺には、いかなる攻撃も効きはしないさ…」
「う、撃てぇぇッ!!」
刑事の一声で全員が一斉に発砲した。
パンパンッ!!!
「…え?」
目の前に確かに居た男の姿が消えていた。
「なるほど…こいつは便利な力だな。
意識を奪う…というより、まるで時間を止めた気分になるな」
「!?」
男は刑事たちの包囲網をくぐりぬけ、背後に立っている。
「最後に教えてやる…俺は"正義(Justice/ジャスティス)"…裁きの雷帝なり」
バリバリッ!!
強力な雷鳴を轟かせ、一瞬に全員を黒焦げにしてしまった。
「…なんという、恐ろしい力だ…。
俺自身怖くなっちまう…」
ピピピ…
携帯の着信音が鳴った。
どうやら男にメールが来たようだ。
「"あまり派手な動きは控えるように"…か。
まぁ確かにこいつぁ…ちと派手だわな」
廃墟の壁には今の雷で穴が開いたり、ヒビが入ったりしている。
ウーゥーー…
遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。
「こいつの弱点は五月蝿いし派手な所か…。とっととズラかりますか」
―――
――
「まったく…"正義"には困ったものだ。助かったよ"超越"」
「いえ…。許して上げて下さい。
彼も自分の能力を直に知っておきたかったのでしょう」
緋土京と"超越"と呼ばれる男は相変わらず、何処かの暗い部屋にいた。
混沌という名のパーティ開催は9月7日(月)…あと3日…。
着々と準備は整っているようだ。
「くくく…思い知らせてやるぞ…」
―――
――
9月4日(金) PM9:20―――
―――
「あれ?…メールだ」
優はお風呂を済ませ、自室に戻ってくると、携帯のメール着信を知らせるLED点灯に気づいた。
「!…流華からだ…」
"敵を発見!至急応援頼む!場所は聖ヶ丘病院!"
「大変ッ…!メールは10分前に来てる!…急がなきゃ!!」
優は急いで祖母・茜の部屋に駆け込んだ。
「お祖母ちゃん!!」
!…いない…!
まだ二人とも帰ってきてない!?
「く…どうする…!
あの子一人じゃ……くッ!」
優は急いで着替えて、家を飛び出した。
「はぁ…はぁッ!…待ってて…流華!」
―――
――
聖ヶ丘病院・裏の公園――
――
「…」
男が散歩している。
見た感じは高校生から大学生くらい…身長は170前後か。
流華はこっそり男をつけていた。
優からの連絡がなく、仕方なしの選択だった。
流華は一瞬強力な霊気を感知…。
この男にヒットしたというわけだ。
強い霊気に…何処か禍々しさを感じたため、怪しいと判断。
霊気を感じた一瞬では相手の力量までは測り切れなかったが、慎重に事を運ぼうと、増援を頼んだ。
「…
(この時間…流石に人気はない…。
やり合うならベストな場所だが…。優はまだか!?
メールに気づいてないのか…こちらに向かっているのか……く…!
どちらにせよ、場所を移動してしまった…ここは私一人でやり合うしかないか)」
「はぁ…さっきから気になってるんですけど」
男が立ち止まって、急に呟いた。
「…!
(バレた…か!)」
ザッ…
「…」
「誰だ…アンタ」
姿を現したのは須藤彰だった。
「いや…なんでもない」
「なんでもない…?
おいおい、ひっそりとあとつけてきて、なんでもないはないっしょ。
アンタでかいね…何?かつあげ?」
「…そんなつもりはない…。
はぁ…なんて言えばいいんだ…」
「あぁ?…男がモジモジ…きめぇんだよ!はっきりしろよ!この木偶のぼう!」
男は須藤を挑発した。
「あ?」
「おー…こえぇ…。
だけどな…俺はもう昔の俺じゃないんだ。
ビビるかよ!」
須藤は飛び掛ろうとした瞬間、何か得体の知れない奇妙な感覚を感じ、踏みとどまった。
「んだよ!?かかってこいよ!この不良がぁッ!!」
「…
(なんだコイツは…やはり最初コイツを見たとき薄っすら見えた黒い陰…
あれが関係しているのか…?
何か嫌な予感がして踏み込めなかった…)」
須藤は、この男から感じた不穏な気配をどうにかできないかと、あとをつけてきただけであった。
だが、須藤はともかく、この男はすでに臨戦態勢。
戦いは避けられない状況…!
「狩ってやる…そうさ…俺は銃を突き付けてきた刑事にも負けはしなかった。
やれる…そうだよ…やれる!」
この男…先日鈴木刑事に致命傷を与えた少年である。
「く…!どうする…。
あの男…このままでは殺されかねないぞ…!
(出て行くしかないか…ッ!)」
「お前がやりたいと言うなら…相手になってやる」
「いいね…やっとその気になったか…」
バッ!!
須藤は一瞬にして前に出たかと思うと、長身を生かした超リーチの前蹴りを放った!
「ぐほっ…!」
少年はまともに喰らって悶絶する。
凄まじい一撃だったのか、その場に座り込んでしまった。
「?…
(弱ぇ…一瞬感じた違和感は気のせいだったのか…?
あの黒い影……多分だけど霊に違いない…。
だとすると霊撃が来るかもしれないからな…十分に用心しなければ…)」
「はぁ…はぁ……いてぇ……いてぇよ…。
あの時と一緒の痛みだ…はは…」
少年はお腹を抑えたまま急に泣き出した。
「な、なんなの…?
一撃でやられちゃったわよ…?
私の勘違いだったのかしら…」
流華も予想が外れたのか困惑している。
「おい…もうわかっただろ…。
これからは喧嘩を売るなら相手を見てからにしろよ…」
「るせぇ…るせぇるせぇるせぇるせぇるせぇるせぇるせぇるせぇるせぇ…るせぇッ!!!」
少年は鬼気迫る表情で立ち上がった。
「…まだやんのか?」
「ったりめぇだろがぁぁあああッ!!このボケがッ!!
蹴り逃げかッ!!このゴミが!!ぶっ殺すッ!!」
ビュッ!!
一足飛びに須藤の懐に飛び込んだ!
「!」
「バカモノヴァァアアァッ!!」
長身の須藤に対しての顔面蹴り!
なんという速さと跳躍!
バキッ!!
「ぐあッ!!」
須藤は吹き飛ばされた。
「はぁ…はぁ…はぁ…!!
死ねッ!!カス!!」
「すごい…今の動き…見えなかった……。
それにしても凄まじい霊気だな…。
今の一撃…激情に任せて撃ったからか、霊撃ではなかったが…
あの異様なまでに禍々しい気はなんなの?
あれだけの怨霊を抱え込んで正気を保っている…?
いや…どうなんだ?って…そんな事考えてる場合じゃないわ!
とにかくこのままではマズイ…!」
須藤はゆっくりと立ち上がった。
しかし額からは血が流れている。
「な…なんで立ってんだよ…なんで死なないんだよ…」
「悪いな…俺は体の頑丈さだけが自慢なんだ。
それによ、悪運も強い」
須藤はニッっと笑ってみせた。
「何笑ってんだ……お前…。
死ぬんだぞ…?えぇ…?…死ぬのわかんないの?」
「ガタガタぬかしてんじゃねぇよ…
喧嘩に言葉はいらねぇんだよ…"こいつ"で語れよッ」
須藤はパシッっと拳を手のひらに当てて言った。
「はぁ…?なんだこいつ……マジ理解不能だって…。
なんで怖がんないの…?馬鹿なのか…?
みんな…皆一発でビビッて逃げ出したじゃん…怖いはずだよ…俺は怖いんだ…。
なんでビビんないんだよ…」
少年は須藤の態度に相当の混乱を余儀なくされた。
バッ!!
須藤はその隙を見逃さず跳びこんだ。
「こいつぁ…おかえしだぜ!」
少年の胸倉を掴んだと同時に!
ドガッ!!
流血する頭による、渾身の頭突き!!
「ぐあぁ…ぁぁああ…頭が…頭がぁッ!!」
「はぁ…はぁ…ざまぁみろ…俺ぁ石頭なんだよッ!」
頭を抑えて転げまわる少年。
「うう…俺は"復讐者(Avenger/アヴェンジャー)"……だ…。
こんな…馬鹿に…またコケにされていいわけ…いいわけねぇだろッ!!」
少年は立ち上がった。
先ほどの動揺も涙も何もない…。
雰囲気が変わったのだ。
ザワッ
「!…」
それを感じ取ったのか須藤も後ろに下がった。
「…遊びはおしまいだよ…」
第5話 完 NEXT SIGN…