第46話 最悪の対抗手段
SIGN 二章 - SeVeN's DoA -
第46話 最悪の対抗手段
「君の力は人間にしては上位に値するものだとは思うよ?
でもそれじゃ僕の相手は難しいね」
「く…!
(まだか…まだ皆は来ないのか…!
このままでは確実に殺される……!)」
聖才雅と怨霊の集合体…"呪-ノロイ-"。
その実力差は天と地ほどの違いがあるようだ。
遊びにもなっていない現状に飽きを見せ始める呪。
「何か秘策はないのかい?
君も力を出し尽くさずに死ぬのは本望じゃないだろ?
待ってて上げるから力を出し切れよ」
「!…
(待つ…か。これはチャンスかも知れないな…)」
「さぁ…足掻くんだよ。
君は今…命を握られている事を自覚しなよ?
生きるも死ぬも…僕次第…ね?」
「うあああああああああぁああッ!!
(霊気を上げ続けて時間を稼ぐしかない!)」
そうして才雅が霊気を高め初めて5分ほどが経った。
「…。はぁ……どうやら君に期待した僕が馬鹿だったみたいだね。
その程度の力しか引き出せないのなら、先ほどとなんら変わらないじゃないか…。
もう殺しちゃおうか」
ザッ!
「来たッ!!」
足音に振り返る才雅。
そこに現れたのは不破まりあ、須藤彰、片桐亮の三名だった。
「!……仲間か…。
なるほど…これを待つための時間稼ぎだったというわけか…
くっく……あーっはっはっはっは!」
呪は大声で笑った。
「聖先輩…なんなんですか…この異常な状況」
まりあが質問を投げかけた。
当然の反応といえる。才雅にそっくりの人間が才雅と共に目の前にいるのだ。
「話せば長くなる…。かいつまんで言うと、あの男は先ほど上空にあった怨霊の集合体…
名は"呪-ノロイ-"。…訳あってあの姿だ…」
「…一つに纏まって手間が省けた…
そう思いたかったんだが…これはどう見てもヤバイ状況なんだよな…!」
片桐が言った。
「…奴から感じる霊気が今までに感じた事がないくらいデケェ…!
間違いなくヤバイな…」
「片桐君と須藤君の言う通りだよ…。
正直僕らのレベルでどうこう出来る相手じゃないようだ…。
さらに加えて逃げるに逃げれない…最悪の状況と言える…」
「一ついいかな?」
呪が瓦礫に腰をすえて言った。
「君たちの戦力…もちろんここにいない人も含めて…
君たち以上の実力者はいるかい?」
「…?…居る…!だが、それがどうしたというんだ…?」
「僕はまだこの肉体に慣れていない…。
それ故…試運転をするにも、そこそこ強い相手が欲しいんだ。
君たちじゃ僕の試運転の相手にすらならないからね」
「…その人間を渡せと言っているのか?」
「僕と戦って欲しいんだ。
もちろん僕より弱かったら殺すけどね。
ある程度満足させてくれたら、君たち全員助けてやる…どうだい?」
「ふざける…!ッ!!」
ふざけるな!!…そう須藤が怒鳴りつけようとしたのを、才雅が止めた。
「本当なんだろうな…」
「聖さん…本気かよ!!?」
須藤をキッ!と睨みつける才雅。
本気の眼に須藤は口を閉じた。
「くく…君は流石だよ。
生き延びることを最優先に考えている。
それでいいんだよ。命は一つしかないんだ。大切に使わないとね」
「今この場にはいないが…必ずここに来る!
多分…今向かっている途中だ…」
「そうか…いいよ。
その人間が来るまで一時休戦と行こう。
…だけどね、下手な動きを見せたら容赦なく殺すから…そのつもりでね」
ビリビリッ!
凄まじい威圧感をぶつけながら、呪は笑顔で言った。
―――
――
「聖さんよ…。
なんであんな奴の要求を受けたんだよ!」
「やめろ須藤!…先輩の選択は正しいよ。
あのまま全員でかかったところでアイツには勝てない」
「すまない…。
だが…無駄死にだけはさせるわけにはいかないんだ…」
「聖先輩…。
ところで、誰があいつの相手を…?
ちなみに白凪さんと天城君を期待しているなら無理ですよ?
さっき神谷さんに会ったときに聞いたんですけど、
彼等は守護霊転身が成功してすでに動き出してるそうなんで…」
「そうか…二人は上手くいったんだね…。
よかった。でも僕が想定していたのは彼等二人じゃないよ」
「え…?じゃあ一体誰を?」
「僕は神谷さんを想定して話したんだ」
『!』
一同驚いた。
「ん?不思議かい?」
「いや…そうじゃないんだけど…。
俺や片桐は神谷さんの実力をあんまり知らないし…
見た目は凄い大人しそうだからな…。
凄い術はあっても、戦う雰囲気がないっていうか…」
「…正直いけるのか…っていう雰囲気ではあるよな」
「…僕も彼と知り合って間もない頃はそう思っていたよ…。
でも彼はやる時はやる…」
「先輩…神谷さんに"アレ"を…」
ザッ…
まりあが"アレ"と言ったタイミングで、男は到着した。
「来たようだね…彼等の希望とやらが…」
呪はそう言ってニヤリと笑みを浮かべた。
「…どうやら最悪の事態ではなさそうだね…」
皆が生きているのを確認し、そう呟く神谷。
『神谷さん!』
一同が彼の名を呼んだ。
「あれって…才雅君の双子のお兄さんか何か…?」
「いえ…あれは」
「冗談です…怨霊の塊って所でしょうね…。
いやはや…凄い…。
こんな強い霊気、そうそう拝めるものじゃないですからね…」
「か、関心してる場合かよ!
神谷さん…正直どうなんだ?…アイツに勝てそうなのか?」
須藤の質問に神谷は黙って考え始めた。
「…んー…十中八九…勝つのは無理でしょう」
『!』
一同は僅かな希望を断たれた気分で下を向いた。
「…はぁ……。
もう絶対に使いたくないって思ってたんだけどな…」
「!……神谷さん!
ダメですよ…"アレ"だけは…!」
まりあが声を荒げて言った。
「まりあ!さっきから"アレ"ってなんなんだよ!?」
「それは…」
まりあが言葉を詰まらせた時だった。
「"アレ"は…僕の守護霊"灰閻"の事です」
「守護霊…」
「ええ。人の守護霊が見えて話せるんです。
無論自身のそれとも同じ事が出来て当然です…」
「強いのか…?」
「強いです…途轍もなく…。制御出来ない程にね」
「制御出来ないって…。
さっきからまりあが止める辺り…なんか嫌な予感がするんだけど…」
「灰閻は"善"か"悪"かで言えば、恐らく"悪"でしょう。
何より破壊を好み…血に飢えている。
危なさがあるんです…彼にはね」
「…それ以上に神谷さんは使いたくないはずです…
アレのせいで…沢渡さんが…」
「いいんです…。
過去はどう足掻いても変えようがない…。
僕らは未来へ向かって生きているのですから。
生きるために…あの力が必要なら…使うしかないんです」
「…ごめんなさい……私達が弱いばっかりに…」
まりあは涙を流した。
須藤と片桐は事情を全く知らないが、この涙である程度理解した。
「涙を拭いてください…まりあさん。
弱いのは僕も同じだよ…だから自分を責めないでください。
聖君…いいかな?」
「はい…」
まりあを才雅に引き渡した。
「皆さん…出来る限りこの街から離れてください…。
制御してみせる気ではいるんですけど…万が一もありますから」
「それって…どういう…」
「須藤君…頼む……。
ここは神谷さんに任せるんだ…!」
「悪いね…。
もう…自分の手で仲間を傷つけるのは嫌なんだ…。
わがままだけど…聞いて欲しい」
「……神谷さん…死なないでくれよ…?」
「ああ…また会おう」
そう言って、聖達は走って去っていった。
「わざわざ待ってくれてありがとうございます」
「いや、彼等に興味はないんだ。
だからどうでもいいだけだよ」
"よっ"と瓦礫から飛び降りると、神谷の立つ場所へ歩み寄った。
その距離10m…。
「そうですか………
それにしても……お強いですね」
「まぁ君達人間から見ればそうかもしれないね…。
でも君は、この僕と…そこそこはヤレそうだよね…」
「判るんですか?」
「ああ…なにか"質"が違うよ…さっきの子たちとはね」
「一ついいですか?」
「何だい?…この期に及んで"やめましょう"はなしだよ?」
「いえ、僕が強くなるには準備が要るんです。
その間待ってくれますか?」
「うん。そんな事だったら全然構わないよ。
自身の中のベストコンディションを引き出してくれ。
僕はさっきの子のように短気じゃないんだ」
「ありがとう…。
(さて……月が綺麗だな……。
こんな夜に死ねるなら…まぁ悪くないかな…)」
神谷はゆっくりと眼を閉じた。
「…
(…灰閻…聞いていたでしょう…。
あなたの力を借りたい)」
『くくく!!…あれ程俺を憎んでいたというのに…結局また俺を頼るんだな!
一騎よ…!』
「…
(出来れば…こういう状況には、なりたく無かったんですけどね…。
そうも言ってられない…いわば窮地という奴なんです)」
『俺としちゃぁ問題はないぜ…?
久々に血が啜れる!!くくく!』
「!…
(灰閻…残念ながら、そうはいきませんよ…。
あなたの相手は…)」
『わぁあってるよ…ちょっとカラかっただけだ。
俺は憎まれてるけどよ…一応テメェの守護霊なんだ…
たまには信用しろ』
「……そうですね。
じゃあ……行きますよ…灰閻」
『ドンと来いやッ!!』
「守護霊…転身ッ!」
握り拳を自分の胸に打ちながら、神谷は叫んだ。
ザワザワ…
「!……変わった…?」
「くっくっく………久々の外の空気だな…オイ…!」
『灰閻…敵は目の前の男です』
「るせぇえよ!!いちいち説明しなくてもわかんだよ…俺にはよ。
アイツは"美味しい"ですってな」
「口調が変わった…?
目つきも…霊気も…
穏やかな中に力強さを感じていた先ほどとは打って変わって…
なんという刺々しく攻撃的な霊気だ…。
まるで…僕と…」
ドンッ!!
「!?」
「独り言の最中悪いんだけどよ…!!
一発ヤラせてもらうぜッ!!」
一瞬にして呪の隣に姿を現した灰閻!
そのまま細腕から強烈な一打が繰り出される!
ドガンッ!!
強烈な音と共に吹き飛んでいく呪!
「くく…!わるかねぇ…!
久々の上物じゃねぇか…!」
第46話 完 NEXT SIGN…