第44話 リベンジ
SIGN 二章 - SeVeN's DoA -
第44話 リベンジ
「…
(動きがまるで見えない…。
意識を奪われているのは間違いないわね…)」
「あんたも同じ目に合わせてあげるよ…!」
ドンッ!
「!(迅い…!)」
流華は咄嗟に顔面を腕でガードした。
ドスッ!!
「ぐッ!…」
「ばーか…!」
"同じ目にあわせる"
この一言で流華の頭には顔面への攻撃が予想された。
そのため顔面を咄嗟にガードしたのだが、里子は最初から顔面ではなく、
ガードがガラ空きの腹部への一撃が狙いだったようだ。
ガクッと里子の腕にもたれかかる流華。
相当のダメージのようだ。
「おっと…まだ寝るには早いよ?」
「あぁッ…」
里子は流華の髪を掴んで顔を起こさせた。
「女の子の前歯折るなんて…お前も相当イカれてるよ…。
くく!…喰らえッ!!」
里子が顔面を殴ろうとした瞬間だった。
ドガッ!!
何者かが里子を蹴り飛ばしたのだ!
「…?あなた……」
「大丈夫?」
助けに入ったのは不破彰人だった。
「なんでここに…」
「君の事が気になって様子を見にきたんだ…。
間一髪だったね」
「…別に…あんなの余裕で…」
ズキンッ!
「ぐ…!」
流華は腹部を押さえて座り込んでしまった。
「大丈夫…?無理はしないほうがいいよ」
「へ、平気よ…!ほっといて…!」
「ほっとける訳ないだろッ!!」
「!」
彰人が珍しく声を荒げた。
「君は一人じゃないんだ…。
君が傷つけば悲しむ人間だっているだろう!?」
「…私は…」
「とにかく君はそこで休んでてよ。
あの子は俺が倒す!…とっくに気づいてるんだろ?
そこのツインテールの子!」
「くくく…!感動劇は終わり?」
吹き飛ばした里子が立ち上がった。
何事も無かったように服のホコリをはらっている。
「…あの子の霊気…わかるでしょ…!
あなたが勝てるような相手じゃないのよ!?」
「わかってるよ…
(確かに普通じゃない霊気を感じる…デカさも俺や彼女よりも上だ。
でも、霊気の大きさが勝敗に直結するわけじゃない)」
「クク…!!」
ドンッ!!
先に動いたのは里子だった!
彰人目掛けて一直線に飛び出した!
「消えた!!?」
流華にはそう感じていた。
だが、彰人は違った。
ガシッ!
「く…!
(重い…!女の子のパンチじゃない…ッ!)」
なんと彰人の間合いに入り、かつ左からの拳打を
彰人は難なく片手の掌で受け止めている!
「…なん…だと…!?
(何故だ…意識を奪えなかった…?)」
「女の子相手に手荒な事はしたくなかったけど、ごめんね」
スッ!!
彰人は里子の拳を受け止めたまま蹴りを放った!
ドゴッ!!
「グッ!!」
里子の首筋に見事に蹴りが決まった!
彼女の軽い体は宙を舞ってコンクリート塀へと激突した。
「ふう…」
「あなた…何をしたの!?」
流華が不思議そうな顔で彰人を見ている。
「別に何もしてないよ?
単純に俺には意識を奪う術が効かないだけ。
俺集中力と動体視力だけは並じゃないんだよね」
「集中力で回避できるものなのかしら…
とにもかくにも凄いわ…」
「まぁもちろん…この集中力を持続出来る時間は限られてるからね…。
早いところケリをつけないと…」
ドンッ!!
里子が飛び出した!
「無駄だよ…!俺には止まって見える!」
シュッ!!
顔面目掛けたアッパーも彰人の前ではアッサリとかわされる。
「!…ちぃッ!」
「く…!!
(動きは追えるが、俺自身の体がついてこない…!
次の一撃はかわせないぞ…!)」
ヒュッ!
ジャンプアッパーがかわされ、着地…
そしてすぐ様体を捻り右の拳打を放つ里子。
意識云々ではなく、単純に動作のスピードが速い里子。
攻撃態勢に入った時、彰人の態勢はまだ崩れている!
パシッ!!
「…く…!」
「…ッぶ…ねぇ…!!」
間一髪!
彰人は里子の拳を掌で受け止めた。
もちろん、そのまま拳打をねじ込んだので、直撃ではないにしろ、彰人に衝撃を与えることは出来た。
「…」
里子は一度下がり、彰人と間合いをとった。
「いたた…!なんてパンチ力だよ…。
それにしても判ったことがある…」
「何?」
流華が立ち上がって彰人の隣へやってきた。
「彼女は霊撃を撃ってこない。
常に−の霊気で体を覆っている…これは意識的なものなのか…」
「いえ…単純に使い方を知らないだけでしょ。
それに、人間相手だったら霊撃じゃなくても、あの圧倒的身体能力があれば事足りる…」
「ごもっとも…。
ところで体は大丈夫?」
「ええ…完全回復…とは言えないけど、
あの子を倒すぐらいには回復したわ」
「あ?私を倒す?笑えないわよ…?」
パァッ!
流華の霊気が急激に上昇を始める。
ほとばしる霊気は徐々に淡い赤の光を放ち、髪の毛を赤く彩っていく。
「これは…!」
「補助効果の陣を自分にかけたのよ。
これで彼女と霊気では五分五分でしょ?
もう意識も奪われないし、打ち合いでも負ける気がしないわ」
「ほざけえぇえええッ!!」
激昂した里子は流華目掛けて走り出した。
「毎回毎回…ワンパターンなのよ!
イノシシかっての!!」
流華はタイミングを合わせて前蹴りを放った!
ヒュッ!
「!」
当った感触がない…!
見ると里子の姿はそこには無かった!
「…意識は奪われていないはず…ならば…!」
上空に目をやる流華!
すると目前には彼女の姿というより、彼女の足刀が目に入ってきた。
その距離10cmほどだろうか。
ドガッ!!
「…うわ…!」
彰人は目を覆った。
傍目から見たら、間違いなく顔面にヒットしていた蹴り。
恐る恐る目を開ける彰人。
「え…?」
そこには倒れる里子の姿があった。
予想とは反対の光景だ。
「く…!」
「あんな状態から…カウンターを入れるだけの速さだっていうのか…」
「時間がないから、とっとと終わらせましょう」
流華は霊気を一点に集めだした。
「すごい…!増幅された霊気を一点に集めて…あれは剣…?」
流華の右手には細長い霊気の刃のようなものが出来ていた。
「はぁ…はぁ……」
「鹿子さん…どうしたんだろう?
かなり苦しそうだ…髪の色も徐々に戻り始めてる」
「もう少し…もう少しで"出来る"…」
「…何をしようとしているのか…知らないけど…!
やらせるかよぉおおおッ!!」
ようやく立ち上がった里子はすぐに流華目掛けて駆け出した!
「させないッ!」
すぐに間に入った彰人!
「どけぇええッ!!」
「!!
(見えてる……見えてるのに…!!
これは完全に避けられない………!)」
スローモーションで襲い来る凶器の拳…!
頭では回避信号を出すものの、体がそれを受信してくれない。
徐々に顔面へと迫ってくる拳!
ドゴッ!!
喰らった。
そして彰人の体は宙を舞った。
女子高生が男子高生を殴り飛ばす奇妙な光景。
「…!」
里子の視界から彰人の体が上空へと消えていく。
そして新たに見えてきたものは…
光だった。
ドシュッ!!
「!…か…」
流華の放った光の矢だった。
先ほど霊気を集中させ、作っていたのは剣ではなく、矢だったのだ。
光の矢は里子の体を貫いた。
「はぁ…はぁ……上手くいった…」
「何が上手くいった…だ!
痛くも痒くもないぞ!」
流華は完全に沈静化していた。
全ての霊力を使い果たしたようだ。
髪の色も完全に黒に戻っている。
「くく…終わりだよ…。
あんた、もう何も出来ない」
「?…ほざけええ!!」
里子が駆け出した。
「え…?」
2、3歩だろうか。
里子が走った途端に勢いよく倒れ込んだ。
「な…にこれ…?」
ピクピクッと体中が痙攣している。
「実戦で使うのはこれが初めて…。
土壇場にしては上出来だわ」
ザッ…
顔を抑えて彰人がやってきた。
「いちち…奥歯折れちゃったよ…」
「イケメンが台無しね」
「勝負…ついたんですね」
「ええ。あなたのおかげよ…ありがとう」
初めて素直になった流華だった。
「…」
「な、何よ…!私がお礼を言ったらおかしいの?…フンッ!」
「い、いや…別にそんな。
それより、どうやって倒したんですか?」
「破邪の矢を構築して打ち抜いただけよ」
「破邪の矢?」
「ええ。彼女の中にある怨霊を断ったわけ。
破邪の呪印を矢に組み込んで打ち抜いたの。
彼女の中で発動するようにプログラムしてね。
呪印を彼女に打ち込んでも、彼女の−霊気の前に効果を成さないから、
その壁を打ち抜いて中で作用させる必要があったんだけど…
上手くいってほっとしたわ…ほとんど一か八かだったからね」
「霊気が少しでも劣っていれば、貫通出来ないですからね…。
(簡単に言ってるけど、それって物凄い高度な技術じゃないのか?
矢を形作る・高速で放つ・呪印を組み込む…どれも難易度が高いよ…)」
「今は支えであった霊気を失い、体にガタが来ちゃったのね。
暫くは激痛とのお付き合いね。ご愁傷様」
女は怖い。
改めて感じる彰人だった。
こうして流華は見事リベンジに成功した。
―――
――
その頃…
神谷一騎はとあるビルの屋上にいた。
「うひゃあ…少しは届くかと思ったけど…
8階程度じゃまだまだ遠いなぁ…」
上空の怨霊のうねりを見て呟いた。
「ここから霊気を飛ばしても届かないよねぇ…
どうしたものか…」
第44話 完 NEXT SIGN…