第43話 再戦
SIGN 二章 - SeVeN's DoA -
第43話 再戦
優たちが京と戦いを繰り広げている頃、街では…。
―――
――
Aチーム―――
――
緋土京がばら撒いた、怨霊たちは人間の負の感情に釣られ、人々にとり憑き、
些細な事がきっかけで暴動が発生。
街は人々の暴動の真っ只中にいた。
そんな中、司とシロとポチのグループは順調に騒ぎを収めていた。
「ふむ…随分と倒してきたが…空を見ると憂鬱な気分になるな…」
人間の姿に変化したシロは上空を見上げて言った。
確かに上空には黒い怨霊の渦が変わらぬ規模で存在している。
「あれを直に祓うのが一番効果的なんでしょうけどね…。
現状でそれが出来る人間はいないわ。高さもあるしね」
「問題は行き場を失った怨霊たちが融合して力をつけることだね…」
ポチが言った。
「どういうこと?」
「怨霊は器に入ってる場合は、例え器が壊れても動かすことは出来るんだ。
でも器が破邪を受け、気を失って動けない状況で新たな霊が憑依することは難しいんだ。
破邪効果が消えるまでは近寄らないはずだよ」
「確かに…そうなれば霊たちの融合が始まるかもね…。
早いとこどうにかしないと…」
―――
――
Bチーム―――
――
「はぁ…はぁ……!ったく…!次から次へと…
これじゃゾンビを相手にしているみたいじゃないか…!」
「悪いな…瀬那…。
お前ばかりに負担をかけちまって…」
新二と大樹が申し訳無さそうに俯く。
「気にすんなよ!まだいけるさ!
それに菅谷さんが頑張ってくれてるからな。
あの人見た目と違って、かなりやってくれる」
「はぁッ!」
菅谷は一人で数人を相手に引けを取らず戦っている。
かなり弱弱しい体つきだが、こと霊撃戦においてそこは問題ではない。
相手がどんな大男であれ、格闘家であれ霊撃を打ち込まれれば終わり。
菅谷はほとんど一撃のもとに襲い来る一般人をなぎ払っている。
時に拳や蹴りをあて、時には霊気を飛ばし…実に戦い慣れている。
「…ふぅ…もうこの辺りは片付きましたね…!
他の騒ぎを鎮めにいきましょうか?…って雰囲気じゃないみたいね」
瀬那をはじめ、新二、大樹、一…Bチームのメンバー全員がかなり消耗しているようだ。
皆息を荒げ、休む者もいる。
「菅谷さん…すみません…。
俺達足手まといッスよね……」
「瀬那君……そんな事ないよ。
君たちはよくやってる」
「菅谷さん…」
「俺も最初はヘナチョコで、よく周りに迷惑かけてたんだ。
まぁ今もそうだけどね…大切なのは諦めない事…。
誰でも最初は上手くいかないさ。ようはそこで諦めるか否か…。
俺は諦めず頑張った…だから今がある」
「…ですよね。
周りはどうでもいいんだ…俺は俺…!
皆凄い奴ばかりだから、何処か焦ってたのかも知れないな…」
「もう一つ大切な事は、仲間を信じることだ。
君とはまだ出会って間もないけど、俺を信じてくれ。
弱いなりに頑張って見せるよ」
笑顔でそう言った。
「…そこの二人!休憩終わり!行くよ!」
さっきまでへばっていた一が大樹、新二と一緒に立ち上がっている。
「ち…ッ!偉そうに…!あはは!」
「よし!もう一踏ん張りだ!」
5人は別の騒ぎへと向かった。
―――
――
Cチーム―――
――
「…シッ!」
片桐の蹴りが男を蹴散らす。
「いい感じじゃない。
この短期間で二人とも大分飲み込めてきたわね」
「…悔しいけど、お前のおかげだよ。まりあ」
不破まりあ、片桐亮、須藤彰の三人は苦戦する事もなく事態を沈静化していた。
霊撃が出来なかった片桐と須藤に対して実戦を通して学ばせた結果、
二人はこの短期間で+属性の霊気を操る事に成功した。
元々−の霊気の操作は出来ていたので、あとはコツを掴むだけだった。
「ま、調子が上がってきたとこ申し訳ないけど、
あなた達もうガス欠みたいね」
まりあは須藤達の後方を指差して言った。
二人はゆっくり振り返ると、先ほど倒したはずの男達が起き上がってきている。
「代わるわ」
二人の肩をポンっと叩いて前に出るまりあ。
ヒュッ!
「…」
男達の間を素早く通り抜けた。
するとどうだ、二人の男がそのまま倒れて動かなくなったではないか。
「早いな…相変わらず…」
「それに加えて馬鹿力だからな…ほんと半端ない女だよ…」
「何か言った…?」
ピキッ!
彼女の笑顔の裏の、鬼の顔が見えた気がした。
『い、いえ…なんでも』
口を揃えて須藤と片桐は言った。
「さて、次の場所へ向かうわよ。
あの渦事態をどうにかできればいいんだけどね…」
「神谷さんに頼んでみればいいんじゃないか?」
「その必要はありません」
「!…神谷さん!」
なんとそこには神谷一騎の姿があった。
「街は酷い有様だね…。
警官までが狂気に当てられてて厄介だったよ。
拳銃とか持ってるからね。
死人は出ていないと信じたいけど、これだけの大規模だと…」
「それより、あの二人は?
守護霊転身はうまくいったんですか?」
「ああ。とっくに出て行ったよ。
会わなかったのかい?」
「ええ…私達は見てないですが…。
とにかく上手くいったならよかった」
「問題はボスだけじゃないようだね…"アレ"も厄介だ」
神谷は空を見上げていった。
「そうなんですよ…かなり祓ったのですが、あれでは焼き石に水…。
憑依前に一気に消し去りたいんですが…神谷さんの力でどうにかなりませんか?」
「…あの規模を一度に消し去るのは無理でしょうね。
でも出来る限りやってみようと思うんです。
僕もいつまでも逃げてられないですからね」
須藤を見て神谷は言った。
「神谷さん変わったわ…。
あなたの一言が大きかったみたいね…彰」
「そ、そうか…?」
須藤は照れ臭そうにしている。
「皆さんは引き続き騒ぎの沈静化をお願いします。
来る途中で見かけたところは潰してきたつもりですが、
他の場所では、まだ被害が出てるところもあると思いますので」
「わかりました!二人とも行くわよ!
神谷さん!期待してますよ!」
「うん!皆も気をつけて」
三人は別の場所へ向かった。
「さて…どうするかな。
やる気は出たものの…あれだけ上空ですと、まず霊気が届かないでしょうからね…。
何処か高いビルに登る必要がありますね…」
―――
――
Dチーム―――
――
「…
(一人一人の実力は大したことがないけど、
こうも数が多いと霊力がヤバクなりそうね…。
札でも持ってきてればよかったわ)」
単独チームの鹿子流華は余裕で怨霊を祓っていた。
緋土京を捕まえるためにこの地へやってきた彼女は、
目的である捕獲作戦のメンバーに入れられなかったことに苛立ちを覚えていた。
変な話、憂さ晴らしにはもってこいの状況だったようだ。
次から次へと沸いてくる怨霊たちをストレス発散に使うように片っ端から祓い続けていた。
「…!?
(強い霊気がこちらに向かってきてる…。
この気配…いいものじゃないわね…。
敵か…!)」
流華は構えた。
まだ姿は見えていないが、警戒に値するレベル。
今まで戦っていたような雑魚とは違う!
ザザザッ!!
「来たか…!」
激しい地を蹴る音と共に敵は姿を現した!
「!…お前は!」
「くっくく!!血を…血をもっと嗅がせろッ!!」
現れたのは以前に戦った事のある少女だった。
秋月里子…SeVeN's DoAの一人で別名・恐怖(Fear/フィアー)。
「コイツ…完全に狂気に飲まれてる…!
目が完全に逝ってるわね…」
「殺す…!!殺すッ!!」
ダッ!!
流華に飛び掛る里子。
まるで猛獣のようだ!
小さい体だが、力強さを兼ねそろえている!
「ハッ!」
飛びついてきたところに容赦のない顔面への掌底突きが放たれた!
「ヘブッ!!」
勢いよく吹き飛ぶ里子。
「…お前には一度いいようにやられたからな…。
女だろうが容赦はしない…!叩き潰す!」
「くくく…!!」
前歯が折れながらも不敵な笑みを浮かべる里子。
スッ!
「!?」
里子は流華の視界から一瞬姿を消した!
戸惑う流華だったが、その僅かに生まれた隙に彼女は容赦ない攻撃を加える!
ドゴッ!!
「グッ!!」
背中への跳び膝蹴りが流華を直撃した!
そのまま前のめりに地面に叩きつけられる流華!
「く…!
いつの間に……ッ…!!はっ…!」
ドゴッ!!
なんと里子は倒れる流華の顔面を踏み潰そうとした!
影にすぐに気づき、なんとか回避に成功した。
「はぁ…はぁ…!
(背中が痛む…!骨にヒビが入ったかも…!
油断したわ…まさかまだ霊気に余裕があったなんて…!
こいつ…狂気に飲まれてるんじゃないの…?)」
最初に流華の目の前に現れた時、里子の霊気は流華を下回っていた。
だが、それは流華を油断させるための罠だった。
流華が彼女の姿を見失ったのは意識を奪われたためだった。
その時の里子の霊気は明らかに流華を上回るものだったのだ。
そして、そんな戦略を狂気に飲まれた人間に出来るのか…?
流華はそこに疑問をもった。
しかし流華の疑問はやがて核心へと変わるのだった。
「…なんだろ…頭がスッキリしてきたな…」
「…!
(不安定だった霊気が徐々に安定を始めた…?
まさか狂気を逆に飲み込もうとしているの…?)」
「…お前かぁ……私の前歯…折ったの」
「ハァッ!!」
流華は霊気弾を里子目掛けて放った!
そして同時に後ろへと跳んで間合いをとった。
ドンッ!
「え?」
何かにぶつかった感触!
流華は後ろを振り返った。
「ニィッ」
ドゴッ!!
なんとそこには里子がいた。
今の今まで目前にいて、流華の一撃を喰らったはずが…
一瞬にして流華の背後まで移動していたのだ。
そして流華が振り返るや否や、強烈な蹴りを放った。
しかし、そこは流華もタダで喰らうほど甘くはなかった。
しっかりと腕で蹴りをガードしていた。
「…く!
(なんて力…!これが狂気化を自分のものにした時の力…!)」
流華のガードした左腕は痺れていた。
「さぁ…もっと楽しませてよ?」
第43話 完 NEXT SIGN…