第41話 真実
SIGN 二章 - SeVeN's DoA -
第41話 真実
「真実を知ったのはつい最近だったよ。
今年に入ってからだ…丁度悩みを抱えてる時期だった…」
―――
――
俺は力を認められ、親や祖父から蔑まれることはなくなっていた。
誰かのために…
そう心に誓ったあの日から、俺は疑うこともなく、幾人も助けてきた。
だがいつからだろう。
俺は感謝される事よりも、化物扱いされている事に気づき始めた。
「どうした…?最近顔色が悪いな…京」
「…そうか?…実は最近、あまり眠れないんだ…」
彼は柳祐介…高校時代からの友人で、
卒業してからというものの、親友のような付き合いになっている。
祐介はわずかだが霊能力もあり、俺の数少ない理解者でもあった。
「悪い夢でも見るのか?」
「…どうだろうな…。
あの時の夢を…見るんだ…」
「あの時…?」
「ああ…那由多が殺された…6年前の夢を…」
「…それは辛いな」
「…彼女に会えるのは嬉しい…
だけど、いつも不甲斐ない俺は彼女を救えず…那由多は死んでいくんだ」
「…」
「それだけじゃないんだ…。
俺が今まで救ってきた人間達……彼等の俺を見る目…
まるで化物を見るかのような目で俺を見つめてるんだよ…。
そんな夢を毎晩のように見る…」
「…京。お前疲れてるんだよ…。
少し休めよ。体を壊したら元も子もないぜ?」
「…そうだな…」
「何処か旅にでも行くか?」
「…旅か…それも悪くないかもな」
京は祐介に微笑みかけた。
「ん…なんだよ気色悪い笑みなんか浮かべて」
「いや…。ありがとうな…祐介。
思えば、あの頃塞ぎ込んでいた俺を救ってくれたのはお前だもんな」
「あらたまって言われるとなんだか照れるな。
まぁ…困った時はお互い様じゃん?
俺等…親友だろ?」
「お前…たまにそういう恥ずかしいこと真顔でいうよな。
あはは!」
「う、煩いな!」
「はは…でも、お前にはほんと感謝してるよ…祐介」
心からそう思える人間は那由多以来だった。
――――
―――
ある日…
雨の降る夕暮れ時だった。
俺はファミレスを通りがかった時、珍しい組み合わせの二人を見かけた。
店内で真剣な顔で話し合っている祐介と祖父を。
「…?どんな組み合わせだよ」
祐介は高校を卒業してからも度々家に遊びに来ていた。
だからお互いが知らない顔ではない。
だが、明らかにあの組み合わせは異様だった。
俺は気づかれないようにフードを被り、店内に入った。
そして声が聞こえるように近くの席に座った。
「…彼が、いつか気づくんじゃないか…
最近夢を見ている彼を見ていると不安で」
「いや…たとえ気づいたとしても、君への接点はないんじゃ。
安心したまえ」
「…そう…ですよね…」
気づく…?接点…?
夢の話が出たから…俺の話だよ…な?
「とにかく、心配するな…。
6年だ…もうそれだけの時間を誤魔化せてきたんだ。
今後も何もないさ」
「…だといいんですけど…。
もしバレたら…俺…殺されちゃうかも」
「はは…考えすぎだよ。祐介君。
あ奴は確かに強いが勘はすこぶる鈍い。
安心しなさい」
「…はい…」
…。
一体何を隠しているんだ…?
今の話から察するに…6年前のあの事件の事…だよな?
あの事件に俺の知らない事実があるっていうのかよ…
「それじゃ…俺いきますね…
急に呼び出してしまってすみませんでした」
「構わんよ。まぁそんなに怯えんで、いつも通りの君を演じてれば問題はない」
「はい…それじゃ」
祐介は祖父を残し先に出て行った。
俺は祐介に話を聞くためにあとを追った。
トンネルに入った時、俺は意を決して祐介に声をかけた。
「祐介!」
「!…」
ビクっと反応する祐介。
恐る恐る振り返った。
「な、なんだ…京か…。
どうしたんだよ、こんな雨の中、傘もささないで…
びしょ濡れじゃないか」
「…祐介…。
お前…俺に何か隠し事してるんじゃないか?」
「!!…な、ななな…何言ってんだよ…。
俺がお前に隠し事…?そんなんあるわけないじゃん…」
「…6年前の秘密…。一体何なんだ?」
「!!……お前…それ何処で…」
「…やっぱり何か知ってるんだな?
教えろ祐介!!」
京はズカズカと祐介の元に歩み寄った。
「…俺は…俺は知らない!
お前の祖父ちゃんに…祖父ちゃんに直接聞いてくれ…」
「なんでお前の口から言えない!?
言うんだ…!!祐介!!」
京は祐介の胸倉を掴むと、そのまま壁に押し付けた。
祐介の体は僅かに浮かんでいる。
「く、苦しい……!きょ…京…!」
「言うんだ!!」
「し…死ぬぅ…ッ!!」
ハッ!
京は我に返って、手を放した。
ドサッ!
「ゴホッ…ゲホッ…!!
はぁ…はぁ…ッ……殺す気かッ!!」
「ち…違うんだ……俺は…」
「お前は…お前はやっぱ…化物だよ!!」
「!!」
「もう…俺に近づくな…ッ…いいな…」
そう言い残すと彼は一人で去っていった。
俺は…それ以上祐介を追求出来なかった。
"化物"
親友と信じてた男からのその一言が、酷く胸に突き刺さった。
そして、あの怯えるような目…。
いつも夢で見ていた目だった…。
「化物…俺は化物か………。
くくく…あーっはっはっはっはっは!!!!」
俺は雨の降る天を仰ぎながら狂ったように笑った。
涙も全て洗い流してくれる雨が…その時は心地よかった。
―――
――
「お祖父様…よろしいですか?」
「ん?京か…?」
「入ります」
ガラッ!
襖を開けると、腰掛ける祖父と目が逢った。
まるで化物を見るかのように怯えた表情をしている。
それもそのはず…その時の京はまさに鬼気迫るような表情をしていたのだ。
ゴロゴロッ!!
稲光が走ったかと思うと、すぐに轟音が鳴り響く。
「ど、どうしたのじゃ…その恰好は…」
「そんな事より…。
私に何か言わねばならない事があるのではないですか?」
「!?…まさか…気づいたのか…」
「…やはり何か隠してるようですね…。
洗いざらい話してもらいましょう…」
「…く!」
「嘘は…通じませんから……
そのつもりで話してください…。
私はあなたの思っているよりずっと勘が効きますから」
「…わかった……。
話そう…6年前のあの夜の真実を…」
あれはお前の友人…柳祐介君からの提案じゃった。
―――
――
「お祖父さん…彼の力を上手く引き出す方法…
一つあるんですけど」
「?…なんじゃと?」
「彼は優しい性格だから、きっと何に対しても遠慮がちというか…
手を抜いて考えてしまうんですよ。
相手のことを思って、知らず知らずに力をセーブしている」
「なぜそんなことが言える?」
「大分前に、俺が霊に襲われて、ほんとに命が危ない時があったんです。
その時、普段とは比べ物にならない力を発揮したんですよ…
まるで化物みたいな」
「ほう!…それが本当であれば…
そこに力を引き出す鍵があるという事じゃな」
「ずばり、"怒り"…彼を怒らせるのがいいかもしれないなぁ」
「しかし…怒らせるといっても…どうすれば…」
「同じですよ。
俺と同じ状況を作ってやればいい…。
もっともっと大切な人を相手にね…!」
「大切な人か…。
あいつにそのような人間がいるのか?」
「いますよ……。
あいつには好きな女の子がいるんです。
桂木那由多…幼馴染のね」
「なるほど…!その娘を襲わせれば、あるいは…!」
「きっと目覚めるんじゃないんですかね?
彼の中の化物が」
ニッと笑う祐介。
「わかった…手はずは全てこちらで行う。
ありがとう祐介君」
「いえいえ…」
―――
――
「それで…そんな事のために……那由多をダシに使ったというのか…!!!」
「わ、ワシは別にあの子を殺すつもりじゃなかったんじゃ!!
嘘じゃないぞ!わ、ワシは無実じゃ!!」
「ふざけるな……ふざけるなよ………
そんな…そんな理由で……那由多は…那由多は死んだっていうのかよ……」
泣き崩れる京。
「ま、まぁよかったじゃないか!
あの小娘一人の命でお前は見事に力を得た!!
そしてその力で今まで何十、何百と救ってきたじゃろ?
あの娘も本望じゃろて!」
「…まれ…」
「へ?」
ガシッ!!
京は祖父の口を右手で握り、塞いだ。
「黙れと言っている…ッ!!!」
ビキビキッ!!
「ハフーッ!!フーーッ!!」
「まさか…身内の仕業だったとはな…。
俺はとんだ間抜けだよ…。
考えてみれば…そうだよな…。
あんな場所に自然に妖魔がいるのがそもそも不自然なんだよな…。
馬鹿だ俺は……」
「フーーーッ!!」
「祖父様…あなたには裁きをくだす…」
バキッ!!
京は祖父の首の骨を力任せに砕いた。
ドサッ!!
「貴様の死で彼女が浮かばれることはないが…
生き恥を晒すよりは、死が似合うだろ……下衆め」
―――
――
プルルル
祐介の携帯に着信がある。
「…京からか…!」
ガチャ
「もしもし?」
『俺だよ…祐介』
「ああ。なんだよ?」
『謝りたいんだ…さっきのこと』
「……いや、俺も言いすぎた。
悪かったな…ちょっと気が立っちまって…」
『どうだ?これから飲みにでもいかないか?』
「…ああ。いいぜ。付き合うよ」
俺と祐介はそれから会い、2時間ほど酒を酌み交わした。
他愛無い話をして、笑い…いつものように振舞った。
そして帰り道。
「はーいい気持ちだぜえ!」
「…」
「どうしたぁ?暗い顔して」
「なぁ祐介…お前、なんであんなこと祖父に話したんだ?」
「あぁあ?あんなことぉ?」
「桂木那由多を襲わせろ…そう言ったんだろ?」
「…!!」
その瞬間、祐介は完全に酔いからさめた。
「お、お前…なんでそれ……」
「信じたくなかったよ…俺はお前を親友だとずっと思っていたからな…」
「…ば、馬鹿!おまっ!何を聞いたのかしらないけど、
それ作り話だって!俺を信じろよ!
俺は親友だろ?な?」
「…俺は本当にお前を親友だと思ってたよ祐介…」
「な…なに…泣いてんだよ……。
やめろよ…」
「なんでだ……なんでそんな事…言ったんだよ…」
「…はッ!!この鈍感野郎め!!
んなこともわかんねぇからそういう事になんだよ!!」
「祐介…」
「そうだよ!!俺だよ!!俺が指示したんだ!!
お前の祖父さんに言ったのも、綾芽ちゃんに那由多ちゃんを差し向けるように
それとなく指示したのも俺だよ!!」
「…なんでだ…何でお前がそんな」
「俺はッ!!!…俺は…那由多がずっと好きだった…。
高校1年の時からずっと想ってた…。
でも、アイツはお前が好きだった…判りやすいほどに…。
勝ち目なんて全く無い…これ以上無いほどハッキリしてた…。
にも関わらずテメェはその気持ちに応えようともしない!
頭に来るぜ……だからよ…!!
だから…俺の手に入らないんだったら…いっそ死ねばいい!!…そう思ったんだよ」
ニヤッと引きつりながら笑う祐介。
「そうか…」
「ふん!お前のせいだよ!!
全部お前のせいでグチャグチャだ!那由多も死んじまった!!」
「…そうだな…俺のせいだ…。
だけどな……お前は許せないよ…祐介」
ボキッ!!
一閃…
京の凄まじい蹴りが祐介の首の骨を一撃の元に砕いた。
俺は…なんだ?
一体何を信じて生きていけばいい?
助けた人間には疎まれ、家族に…そして親友に一番大切な人を奪われ…。
俺にはもう何も残っちゃいない…。
信じるべきものも…護るべきものも…。
じゃあ何のために生きてるんだ?
俺は何なんだ?
―――
――
「そこからは憎しみの感情しか沸いてこなかった…。
あの時涙を全て出し切り…それ以降涙が頬を伝うことはなくなった。
誰の死を目にしても悲しみの感情も沸かない…俺は完全に壊れた。
だがな、別にそれに対して怨みはない…むしろ感謝している。
いちいち苦しまずに済むからな」
「悲しい人ね…」
優は涙を流した。
「同情か?
ふん!!下らんな!!貴様に何がわかる!?
全てを失った人間の気持ちなどわかるものか!!」
「…そうかもしれない…。
でも勘違いしないで…可哀想なのはアンタじゃないよ…。
那由多さんだよ…」
「!」
「今からでも遅くないよ…やり直そう…。
あなたなら…それが出来るはずだよ」
「…知った風な事を…。
もう後戻りなど出来ないのだ…。
俺にはもう前に進む以外にはな!」
京は霊気を高めて戦闘態勢に入った。
「優…おしゃべりはおしまいじゃ…。
もうこやつは止まらんよ…。
だから私等が止めるしかないんじゃ」
『うん…。彼女の…那由多さんのためにも…
アイツを止めよう…やるわよ莉都!!』
第41話 完 NEXT SIGN…