第4話 カウントダウン
SIGN 二章 - SeVeN's DoA -
第4話 カウントダウン
とある地下室…
「…」
「どうしました…緋土さん」
机に向かい、浮かない顔をする緋土に声をかける謎の青年。
「"超越(Transcendence/トランセンデンス)"か…。
いやね…皆それぞれ楽しんでるなと思ってね」
「皆あなたに頂いた力を試したくて仕方なかったですからね…。
ようやく試せるようになって嬉しいのでしょう」
「そういう君は楽しみにいかないのかい?」
「私は下等な連中の相手より…
力を尽くし得るに相応しい…そういう相手に対して"この力"を試してみたいのです。
雑魚を相手にしてもつまらないでしょう?」
冷徹な笑みを浮かべる超越と呼ばれる青年。
「このデモンストレーションで敵も俺の存在に気づくだろう…。
そろそろ本番に入ってもいいかもしれないな」
「怨霊を解き放つのですね?」
「この怨霊共がさらなる狂気を導き…連鎖反応…止まることの無い負の連鎖ッ!
これでこの街は一気に混沌と化すだろう!」
「…」
緋土京は狂気の笑みを浮かべて封呪の壷を撫でている。
「まぁ…もう暫く奴等の動きを見てからでもいいか…。
パーティは来週の月曜日…9月7日にしよう。
それまではSeVeN's DoAの好きにさせるさ」
―――
――
「ふわぁ…今日も一日ようやく終了ね…」
優たちは授業も終わり、下校の支度をしていた。
「優…天城君も、ちょっといい?」
流華に集合をかけられた二人は彼女の席まで移動した。
「何?…話なら帰りながら聞くわ」
「あなた達、この学校で強い霊気を感じたことはない?」
え?
「私は霊的な感知能力は、さほど高くないのだけど…コレを使ってるの」
流華は人型の紙人形に細い鉄の杭がついた物を取り出した。
「なに…?それ」
「人の形をした…紙ですね」
「人型の裏を見て」
裏?
優は人型を裏返した。
すると呪印が書き込まれている。
「それはある一定以上の霊気を感じると下半身が切れ落ちる仕組みになってるの。
ある一定というのは、それに込められた霊気以上を示すのだけど…この場合は作った私になる」
「ふむふむ。こんな物まで作れるのね」
「で、さっき体育の時間に校庭に仕込んでおいたコレが…見事に真っ二つ」
流華は切れた人型を取り出して見せた。
「私以上に強い霊気を持つ者が、校庭で一瞬にしろ強力な霊気を発した事になる。
校舎にも3階、2階…1階と仕込んでおいたのだけど、2階、3階は異変なし…
でも、1階はこの通り…」
再び流華は切れた人型を取り出して見せた。
「…可能性はないと思って、ほんの試しに設置したのだけど…初日からこの有様よ」
「ちょっと待って!
これでわかるのって…流華より強い霊気を持つ"何者"かが、
ソレ(人型)の感知範囲内で霊気を発したってことぐらいで…
緋土京…もしくはその仲間達だっていう事にはならないでしょ!?」
「確証は持てない…でも、"可能性は十分にある"……でしょ?」
確かに流華の言うとおり…。
でもこの学校内で、少なくとも霊気を扱える人間は私達を除いても7人はいる。
2年の瀬那先輩、岡島先輩…日下部先輩、須藤先輩に片桐先輩。
1年の夕見司…椎名一…。
皆私と一緒に修行して霊能力に覚醒した仲間達だ。
…可能性として高いとすれば司か。
「私の友達に私以上に強い霊気を持つ子がいるわ。
1年生…つまり1階校舎。
その子がやった可能性も十分に在り得るわ」
「そんな友達がいたのね。
でもあなた以上の能力を持ちながら協力を頼まないのはなぜ?
彼…天城君には頼んだのに」
「それは…。
あの子を巻き込むと…同時に巻き込んでしまう人が増えると思ったから」
「ミス研の皆さんですね…確かに皆さん部長である司さんを
心より慕っていますからね…危険な事であるなら、尚の事巻き込んでしまうでしょうね」
「あなたが優にそうするように…その仲間達もその子についてくると言うわけね…。
そして恐らく、その子たちの能力では無駄に危険に陥る…」
流華の読みどおり…司はともかくとして、他の4人はまだ発展途上。
いかに霊気を使えるといっても、まだ自分の身を自分で守ることも出来るかどうか…。
「とにかく、一度司にそれとなく聞いてみるわ」
「私にも紹介して欲しいわ」
「それは…」
「ううん。協力を求めるわけじゃないの…
その子の霊気を直に感じてみたいだけ。心配しないで」
「わかった。
でも…もし仮に司ではなく…別に強い霊気を持つ者がいるとしたら…」
「敵はこの聖ヶ丘高校の生徒にいる可能性が出てくる」
「教員の可能性もあると思います」
可能性を言い出していたらキリがないけど…。
普通に考えて学内関係者であることは間違いない。
部外者がうろついてたら間違いなくわかるもの。
殺人事件があったばかりでピリピリしてる今、それを学校側が見逃すはずもないしね。
「とりあえず、今日のところは帰りましょ」
3人はそのまま下校した。
校門の前には先生が立っていた。
やはり例の事件でピリピリしているのだろう。
もう9月…秋になる。
暗くなるのも早い…。
犯人が捕まっていない以上、不安なのは生徒だけではないだろう。
―――
――
その夜、亜子と茜は9時近くまで帰ってこなかった。
成果は得られなかったようだが、二人が無事に帰って来た事は喜ばしいことだった。
翌日―――
聖ヶ丘高校1年D組――
――
昼休み…優と流華…そして勇は司のクラスを訪れた。
「司ー!」
優の呼びかけにすぐ気づいた司は面倒な表情でやってきた。
「…珍しいわね、あなたがワザワザうちのクラスに出向くなんて。
ん?そちらは?」
「私は2学期からこの学校に転校して来た鹿子流華と言います。
優さんとは同じクラスで、友達になってくださったの」
「そうなんだ。私は夕見司。この子とは小さい頃からの腐れ縁よ。
よろしくね鹿子さん」
流華と司は握手した。
「…」
「…なるほど」
二人は顔を合わせて笑みを浮かべた。
「んー校舎裏で話しましょうか」
司は何かを察したのか、3人と校舎裏へ移動した。
―――
――
「…で、用件はなに?」
「さっきの握手でわかったと思うけど私には霊が見えます。
つまりあなたと同類…という事が一つ」
「ええ。あなたと握手する前から…なぁーんとなくは解ってたけどね。
その霊気も見せ掛けでしょ?
一見覚醒していない…殻を破ってない普通の人間のように見えるけど…何処か不自然さを感じる」
「司さん、すごいわね。
其処まで見抜いてしまうなんて…思った以上だわ」
「で…本題に入りましょ。何かあるのでしょ」
「察しの通りよ。…あなた昨日霊気を異常に高めた事はある?」
優が質問した。
「霊気を?いえ…してないけど。
そんな必要性もないし…普段は霊気は極力抑えているわ」
「だよね…。流華、そういうわけよ。この子は白」
「そう見たいね」
「ごめんね司。お昼休みに」
「それはいいけど、一体何なの?」
当然よね。
いきなりこんな話切り出されて、疑問を持たないわけがない。
「んとね…それは…」
「優…彼女にも打ち明けるべきじゃない?」
「鹿子さん!それは…」
勇が咄嗟に止めに入る。
その静止を振り切り、流華は司に近づいた。
「私は彼女を巻き込もうと言うのではないは。
ただ、事実を話すだけ」
「流華!」
「いいですわ。あなたの事実とやらを聞かせてもらいましょう」
「では…放課後1-Bに来て下さい。
昼休みでは落ち着いて話が出来ないからね」
「わかったわ」
もう…。
なんでこうなるのよ。
司は先に教室に戻っていった。
「ちょっと流華!どういうつもりよ!」
「彼女は優秀よ…出来れば力を借りたい」
「そんな我侭…私達だけにして!…あの子は関係ないの」
「わかっているわ。無理強いをするつもりはないの」
あの子の性格からして…事実を知れば絶対に放っておけない…。
優の予想は的中した。
―――
――
放課後―――
「…」
流華は現状を全て話した。
私の家系の事や緋土京のことを。
「あなたの家の事は、お父さんやお母さんからそれとなくは聞いてたわ。
だから別に驚くこともない…。
それより、今起こっている事態…それをどうにかしないとじゃない!」
「はぁ…そういうと思ったから黙ってたのよ」
「水臭いじゃない!なんで天城君には言えて、私にはいえないの!?
一緒に修行した仲間でしょ!」
「あなたを巻き込めば、あなたを慕っている彼等もきっと巻き込む事になる。
私達はまだいいわよ…自分で自分の身を守れるだけの力はあるもの!
でも…彼等はまだその域じゃない!巻き込めば、必ずタダでは済まない!」
「!…」
「修行の時の覚悟とは違うの…。
本当に死ぬかもしれないの……相手はハッキリ言って強いわ。
誰かを守りながらなんて甘いことは言ってられないの…。
司………お願い。今回は私達に任せてくれないかな…」
司は黙ったまま俯いている。
「…わかった…。
あなたが正しいわ。優…今回はあなた達に任せる」
「ありがとう…司」
「でも、もし…私の力が必要な時はちゃんと言うのよ?」
「うん。わかってる!」
二人は拳を合わせた。
「残念ね…あなたの力…欲しかったわ」
「流華さん…でしたわね。
ごめんなさい…力になれなくて……優をよろしくね」
司は去り際に流華にそっと告げて出て行った。
「ええ。任せて…この子は私が守る」
「んじゃ…今日は帰りますか」
「ですね」
3人も司を追って教室をあとにした。
そんな彼等を見つめる視線が一つ……今は誰もそれに気づいてはいなかった。
第4話 完 NEXT SIGN…