表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/53

第39話 雪月花 前編

SIGN 二章 - SeVeN's DoA -


第39話 雪月花 前編



森が見えている。

緒斗の森だ。


相変わらず人を寄せ付けぬ、ただならない雰囲気をかもし出している。

朔夜がいなくなり、徐々に瘴気は薄まったはずだが、

まだ完全に元の森に戻ったわけではなさそうだ。



「優、奴が降り始めたぞ」


『そうみたいね。あそこでやろうっていうのね…!』



莉都は急いだ。



約5分ほどで森の中に入り、木々から開けた場所に出た。

中央に不敵な笑みで立つ京が見える。



「よくついて来れたね。まずその点は誉めておこう」


「別に大した事ではないじゃろう。

 それにしても、月明かりか。

 森に入ったときは暗中での戦になるかと思ったが」



「俺はどちらでも構わないよ?

 好きに隠れて奇襲するなり、罠を張るなりしても一向に構わない」


「余裕か。

 じゃが、生憎その様な回りくどいやり方は好まん」


『でも、実際問題有利に戦った方がいいんじゃないの?』




「小細工は無駄だろうな…恐らく。

 あの自信はそれに裏づけされておるんじゃろ」


「ずっと違和感を感じていたんだが…。

 君は"君"じゃないな?…別人格のように感じるが…霊でも憑いているのか?」



「まぁそんなとこだよ」


「成る程。これで合点がいったよ。

 急激な霊気の成長はそのせいか…。

 で、今更だが戦うんだね?」



『莉都…ここからは私がこいつと話す。

 だから私の言葉をそのまま伝えて欲しいの』


「わかった」



「あなたとは戦うわ。緋土京」


「そうか。所詮お前も下劣な人間の一人というわけだ。白凪優」



「あなたは一体何の目的で、あんな残忍な事をしでかしたの?

 久木に何の恨みがあるのよ!」


「恨み…?勘違いするな。

 俺はこの地に特別な感情などない。

 俺の目的は全人類を狂気の元、殺し合わせ…そして愚かなる人間という種の血で

 この星を染め上げる…それが全て!

 この地は、その足がかりにすぎない」



「狂ってる…そんな事をして何になるの!?

 あなたはそれで生き残って…一人でこの世界に生きるというの?」


「いや、全てが終わったら、汚らわしい人間の最後の一人として、

 自ら命を絶つつもりさ」



「!…意味がわかんない!

 一体誰がそれで得をするっていうのよ!?」


「少なくともこの星はそれにより救われるだろうな。

 だが、俺は損得など頭にはない。

 この星のために動いているわけでもない。

 俺は人間が嫌いだ。それだけだ。

 そもそも、人間など滅ぶべき呪われた種だと思わないか?」



『なん…ですって?』


「…」


「弱者を虐げ、殺し、喰い。

 自然を壊し…この星をまるで自分の所有物のように好き放題弄くりまわす。

 他の種からみても、人間はさぞ迷惑な存在だろうな」



「それは…」


「それは…何かな?仕方ないと?…くく。

 まぁ…もっとも、先に述べた様な愚行は俺自身もしていることだし、

 そもそも、この世界の勝手なルールを作った先人共の問題であり、

 今を生きる人間にそれをどうこう言うのもおかしな話だ」



「…?結局何が言いたいの?」


「つまり一言で言えば"弱肉強食"ということだ。

 人間という種が余りにも強い…それ故に喰われ様が、壊されようが、

 それが自然の摂理というわけだ。

 ならば…この俺という種が、人間の上に立ち…滅ぼしてやると言っているんだよ。

 この世界のくだらないルールに則ったやり方だろ?

 強者が支配し、弱者は…ただただ強者に付き従うのみ…」



「ふざけるな!」


「誰もふざけてはいないがね。

 まぁ、君が思うとおり…理由なんてどうでもいいんだ。

 先ほど言った事も単なる理由付けにすぎない。

 俺は人間が嫌いだ。だから滅ぼす。

 これが一番シンプルで判りやすい」



「お前の勝手な感情で滅ぼされる側はたまったものじゃない!

 皆、一人一人…生きてるんだよ!

 辛い現実の中でも、ささやかな幸せに縋って、生きてるんだよ!

 お前にその人たちの幸せを…人生を奪う権利なんてあるのか!?」


「ないだろうな。

 だが、そんなもの関係がない。

 俺にとって他人とは家畜同然だ。

 お前は家畜の将来や幸せを考えて生きているのか?」



ダメだ…こいつ。

完全に狂っている。



「どうしても人間を滅ぼす気でいるなら…戦う他ないわね…!」


「元よりそのつもりさ。理解など求めていない。

 君の説得で傾くような人間らしい心は俺にはないんでね」



「戦う前に一つ聞かせてくれない?

 なんであなたはそんな風になったのか…」


「…。

 いいだろう。冥土の土産に聞かせてやるよ」



―――

――



あれは6年前…高校3年の冬だった。



「京くーん!」


「!…那由多か…?走ると滑るぞ」



雪の舞い散る通学路。

白い息を吐きながら彼女は駆けて来た。



「一緒に学校行こっ!」


「…ああ」



桂木那由多…同じ高校に通う幼馴染。

いつも、俺の後ろを追ってくる…そんな娘だった。



「今日も寒いね!」


「雪が降ってるからな」



俺はその頃、家のごたごたでかなり気を病んでいた。

そんな沈んだ心を癒してくれる存在が彼女だった。



「キャッ!」



雪道に足をとられ転ぶ那由多。



「…相変わらずドジな奴だな。

 ホラ…手」


「…ありがとう…」



彼女のこの笑顔が好きだった。



―――

――



ある日…


緋土家―――

――



「実際問題どうなんだ…京の奴は」


「あれはダメですな。才能が全くと言っていいほどない。

 妹の綾芽は打って変わって天才だというのに…」



また聞こえてくる。

無能な俺と、天才の妹…それを天秤にかけ、かわされる会話。



「なんでよりにもよって無能な京に霊王の力が授かってしまったのか…

 他の4家に顔向け出来んよ」


「綾芽に能力が受け継がれればよかったのに」



それは俺もそう思う。

こんな中途半端な俺に、なんでこんな能力を与えたんだ…。


いらない…俺には必要ないんだ…こんな力。



俺は今まで幾度となく自分の力を呪った。

なぜ俺なんだ?


なぜ…綾芽じゃないんだ。



もちろん最初は親や祖父たちのためにも血の滲む努力をした。

だが、圧倒的に才能がない俺は、どんなに努力しても報われる事はなかった。


綾芽がいたことで、それはより一層にそう思うようになった。


俺が血の滲むような努力の果てに習得した力も、妹にとってはあっさりと成しえてしまう。



そして評価されるのはいつだって妹だ。


俺は…

俺は一生この敗北感を味わって生きていかなければならないのか…。



俺は呪った。

何度もこの現実が受け入れられずに逃げた。


家を飛び出しては近くの山の小さな湖で一人…時を過ごした。



音の無い…

この自然が俺の悲しみを紛らわせてくれたから。




走り去る俺をいつも妹は、哀れむような表情で見ていた。



「兄さん…」



去り際にかすかに俺を呼ぶ声…。


妹は悪くないんだ…あいつはいつだって偉ぶったりしないで俺を気遣っていた。


それなのに、俺は…そんなあいつが憎かった。

羨ましくて疎ましくて…。






…あの日も、俺は家が嫌で飛び出していた。


雪が深々と降りつもっている…闇夜を必死に走っていた。



そして気づけば、いつもの湖に来ていた。


夜空には綺麗な三日月と星々が辺りを照らしていた。



「…」



俺は降り積もる雪の中に寝転んで、夜空を眺めていた。

何もかも忘れたかった。


家のことも…妹のことも…。



そんな中、頭に浮かんだのは那由多の顔だった。



すると不思議と、彼女の声が聞こえてくるような気がした。



『京くーん!』



と、いつものように俺の名を呼んで駆けて来る彼女が思い浮かんだ。



「…くーん…!」



「!?」



空耳なんかじゃない。

確かに聞こえる…彼女の声だ。



俺は起き上がると、来た道を振り返った。



「…なんで…」



見ると遠くに彼女の走る姿があった。



「那由多…!走ると…」



転ぶぞ!


そう叫ぼうとした瞬間、彼女はお約束のように転んだ。



「ぷっ…あはははは!」



なんだろう…。

心が暖かい……。



「…!」



俺の頬に涙が伝っていた。

俺はすぐに目をゴシゴシとぬぐった。



人前で涙を流したことなど今までなかった。

だから余計に恥ずかしくて…。



「京くーん!さっき転んだ時笑ってたでしょ!

 まったく!…どうかしたの?」



目をこする俺を心配するように彼女が覗き込んでくる。

俺はすぐに彼女に背を向けた。



「な、なんでもないよ。

 ちょっと…ゴミが入ってさ」


「そう…」



「まったく…お前が笑わせるからだぞ…」


「…」



ギュッ



「…!」



彼女が俺の背を抱いてくれた。



「泣いていいよ…。

 私の前で…強がらなくてもいいんだからね」



その一言で堰を切ったように涙が溢れてきた。



「…ありがとう…。

 ありがとう…那由多……」


「…ううん…」



―――

――



しばらくして、俺は落ち着きを取り戻した。

彼女は湖を見ると言って先に駆け出した。



「綺麗だね京君!見てみて!お月様が湖面に浮かんでるよ!」


「ああ…綺麗だ」



この時間が止まればいいのに…。

そう思った。



二人は湖の前に腰をかけた。



「どうして…ここがわかったんだ?」


「綾芽ちゃんがね…教えてくれたんだ」



「綾芽が…?」


「うん。でもこの事は内緒だよ?

 口止めされてるんだから」



あいつはあいつなりに…心配してくれてたんだな。



「悪かったな…こんな時間に…怒られるんじゃないか?」


「かもね。でもいいんだー。

 こんな綺麗な景色、今しか見れないし…

 それに、京君が元気になったのなら、それでいいよ」



「…那由多…」


「…色々さ、皆…色々抱えて生きてるんだよね…。

 京君も辛いかもしれないけど…綾芽ちゃんも一緒だと思うよ」



…。

そうだよな…。

俺だけが不幸みたいな…そうじゃないんだよな。

多かれ少なかれ…皆背負ってるんだ…。


那由多も…綾芽も……。



「俺…もう少し頑張ってみるよ」


「うん!…愚痴ならいつでも言ってね。

 私の前では素直でいてね」



ありがとう…君は俺にとって…



唯一の救いだ…。



第39話 完   NEXT SIGN…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ