第37話 最終決戦・開幕
SIGN 二章 - SeVeN's DoA -
第37話 最終決戦・開幕
「思ったよりスムーズに契約出来ましたね。
天城君、君のほうもすぐに取り掛かるから、もうしばらく待っててね」
「はい!…優さん、絶対に無理はしないでくださいね。
優さんは一人じゃないんですからね」
「勇君…うん!わかってる」
「それじゃ行きますよ!守護霊…転身ッ!!」
トンッ!
神谷は優の背後から彼女の背中をポンと軽く押した。
「!…動く…。私の意識で体が動く…」
優から莉都へと意識が変わったようだ。
「莉都、霊気や霊力はあなたの力がそのままリンクされています。
ですが、身体能力等は白凪優さん自身のものです。
くれぐれもそこを誤らないでくださいね…」
「リンク…?
ようは霊気や霊力以外はこの娘のままという事でいいのじゃな?
構わんよ、大体の状況はこの娘を通して把握しておるからな。
霊気で圧倒すれば、打ち合う必要もないしな」
『ちょっと莉都!この娘この娘って!
私は優だっての!ゆ・う!!』
頭の中で優が叫んでいる。
「ふん…なるほど、気味が悪いものじゃな」
『とにかく、急いで!』
優にせかされるまま、莉都は御堂をあとにした。
「…大丈夫かな…彼女」
「きっと大丈夫ですよ!それよりも僕のほうもお願いします!
神谷さん!」
焦る様子で、神谷に言う勇。
「そうだね。天城君のほうも始めよう」
―――
――
南に向けて走る須藤たち。
「!…あれは…!?
皆!あれ見ろ!」
先頭を走る須藤が天を指差している。
「なんだ…あの黒い雲…」
「あれは…!
恐らく凄まじいの怨霊だろうな…!白壁の時もそうだった…!」
聖才雅が言った。
「だけど規模は全然違うよ!…あれほど大量じゃなかったもん!」
「彰人の言うとおりね。結構ヤバイかも…!
神谷さんの言う通りにして正解かもしれないわ」
「皆ちょっと止まって!」
流華が皆を止めた。
「どうしたんだ?」
「あれだけの量よ…チームに分けてバラバラに対処しましょう」
「そうだな。その方が合理的だ…
この場合霊撃が出来る面子が一人でもいないとまずいな」
今この場所にいるのは
鹿子流華、夕見司、須藤彰、片桐亮、瀬那稔、日下部新二、岡島大樹、椎名一、
菅谷浩介、聖才雅、不破まりあ、不破彰人、それに加えてシロとポチがいる。
「12人と…2匹か…」
『匹っていうな!』
シロとポチが言った。
「このうち…霊撃が使えないのは…俺、片桐、新二と大樹、それに一もか…
こんな時に力になれない人間がこんなにいるのかよ…」
「須藤、今ここで後悔してる場合じゃないだろ。
今やるべきことを出来る範囲でやろうぜ」
「瀬那…。そうだな…!
それに戦ってる間に何か掴めるかもしれないしな!」
「だな。前向きに考えようぜ!
ネガティブ思考じゃ怨霊に取り憑かれちまうかもしれないしな!」
片桐が冗談めかして言った。
「ともかく、何人にわけるかですわね…。
私はポチとシロと動きますわ。だから他の面子は結構よ」
「俺は新二と大樹と一の4人で動くッス」
司と瀬那が言った。
「瀬那君、君のチームに菅谷さんを入れてください。
これで大分違うはずだ。
まりあ君は昔馴染みということもあるし、須藤君と片桐君と一緒に行動してくれ。
彰人君は鹿子さんと組んでくれ」
「私は一人で大丈夫よ。そこまでヤワじゃないのでね」
「わ!つれないっすね…俺嫌われてるのかな…」
流華の一言にショックを受ける彰人。
「んー…困ったなぁ…出来れば単独行動は控えて欲しいんだけど」
「そういうあなたは一人の計算になってるじゃない?
聖先輩?」
流華がつっこんだ。
「僕かい?僕は大丈夫だから」
「なら私だって大丈夫よ」
モメだす二人。
「あーもう!いいじゃねぇか!
流華は一人でいいって言ってるんだろ!?
任せようぜ先輩!言い合ってる時間がもったいない!」
「…仕方ありませんね…。じゃあ僕と鹿子さんは単独で動きます。
彰人君…君はどうします?」
「ど、どうしますって…俺一人はちょっとキツいんですけど…」
「…私を見ないで。私は一人で十分!」
彰人は見事に見捨てられてしまった。
「彰人君…君も男だ!大丈夫!
一人できっと上手くやれる!」
「ちょ!先輩!?本気で言ってるの!?」
ポンッと肩に手を当てて真顔で言う才雅。
「彰人!あんたも男ならキチっと決めるとこは決めなさい!」
「姉貴まで…!うぅ…いいもん!!やってやるっつーーーの!!」
彰人は開き直ってしまったようだ。
「とにもかくにもこれでチームはバラけたな。
Aチームは司・シロ・ポチ。
Bチームは瀬那・新二・大樹・一・それに菅谷さん。
Cチームは俺・片桐・まりあ。
Dチーム…チームと言っていいかわかんないけど流華の単独チーム。
Eも同じく単独で聖先輩。
最後にFで彰人の単独チーム。
こんな所だな」
「チームは決まったが、バラけかたはどうする?
皆同じ方向に行っても仕方ないだろ?」
瀬那が質問した。
「とりあえず、被害状況を見て判断しよう。
被害が拡大しそうな所から先に潰していく方がいい」
聖才雅の指示に皆頷いた。
「最後に一つ言わせてくれ。
みんな生きてまた会おう。
犠牲の上の勝利は…心から喜べない…。
だから絶対に無理をしないでくれ。
いいね?」
聖の言葉に皆無言で頷いた。
「それじゃあ行こう!」
皆、とりあえず漆黒の雲の中心地へ向かい走り出した。
―――
――
その頃白凪神社では…
「…」
勇は目を閉じ、正座をしている。
「…なかなか問いかけに答えませんね…。
見た感じ、それほど頑固には見えなかったのですが…」
「…ダメなんでしょうか?
僕に問題があるなら言ってください!」
「いえ、大丈夫ですから落ち着いてください…。
(なんだ…?何か違和感を覚える…。
交渉自体がなかなか進まないのは、むしろよくある事。
それよりも気になるのは、初めて彼の守護霊を目にした時、上手くいくように感じたのに
今ではそのような雰囲気がまるでない…。
こんな妙な感覚は今まで感じたことがない…)」
神谷にしか守護霊の表情はつかめない。
神谷の目前にいる霊は酷くもどかしい表情をしている。
「どうしたんです…?何か言いたいのですか?」
「…」
神谷は問いかける。
「何か訴えたい事があるならば、言ってください。
出来る限り力になってみますよ?」
「…我の名は戒」
「!…(しゃべった…)」
「すまない…このような経験がないので…少し戸惑っていた…」
「そう…ですか。
いえ、いいんです。戒…あなたの力を借りたいのです」
「話は大体聞いていた…。大変な事態のようですね…。
我で力になれるならば力をたくしましょう」
「…
(一転して素直な反応だ…。
本当に単に戸惑っていただけだったのか…?)」
「神谷殿…確かそういったかな?」
「はい…神谷です。何か?」
「いや、不穏な気配が濃く感じられておりますので…
出来れば早々に解放願いたい…この地を護るために」
「そうですね。わかりました。
急ぎましょう!それでは一度彼に…天城君に代わってください
(やはり単なる僕の杞憂にすぎないか…)」
「……あれ?意識が…」
「ちゃんと交信出来ましたよ。
君の守護霊…戒といいます」
どうやら会話中の意識が優と違い残っていないようだ。
「戒…それが僕の守護霊…!
で、どうだったんですか!?協力してくれるんですか!?」
「お、落ち着いて!大丈夫!
彼も君に協力的だよ」
「よかった…戒さん…ありがとうございます!」
『…』
「……って、返事がないや…優さんと違って、彼は僕に心を開いていないのかな?」
「彼、すごい照れ屋っぽいから、そのせいかもね。
とりあえず、急いでるんだよね?早速やろう」
「ですね!お願いします!」
勇と神谷は立ち上がり、勇は神谷に背を向けた。
そして、神谷は勇の背にポンと手を当てる。
「いきますよッ!守護霊…!転身ッ!!」
そう言いながらトンっと軽く背を押し出した。
「!……」
戒はおもむろに手を握ったり閉じたりして、感覚を確かめている。
「気分はいかがですか?」
「素晴しい…!」
「優さんを…この地をよろしくお願いします」
「うむ…我に全て任せておけ」
ニヤッと笑う戒。
「一応言っておきますが…」
神谷が喋ろうとした瞬間、戒は神谷の口元に人差し指を持っていった。
『それ以上は言わなくていい』
そういう意味合いだろう。
軽く頷くと、神谷も答えるように頷いた。
そしてそのまま御堂を飛び出していった。
「これで戦力としては五分になったかな…。
僕はどうするか…このまま戦うか…ガラにもなく熱くなってる自分がいるな…。
いつからだろうな…こんな想いを失くしてしまっていたのは…」
―――
――
とある闇医者の病室―――
―――
「ひひ…殺す…!
あいつ等殺してやる…」
病室で目覚める"恐怖(Fear/フィアー)"。
その恨みの念が狂気を呼び覚ます。
そして狂気は膨れ上がり、動かぬ体をも動かそうとしていた。
パリンッ!!
病室の窓を破り、2階から飛び降りた少女・恐怖。
戦闘態勢万全といったところだ。
「ひひ…あっちだ…!
あっちからいい匂いがする…血の匂いだ…!ひひッ!!」
恐怖は駆け出した!
―――
――
その頃優は…
物凄い速さで屋根伝いに走っていた。
「ふむ…かなり濃い瘴気だ。
あれに触れたら、普通の人間など間をおかずして狂気に支配されるだろうな」
『涼しい顔で言ってないで!
元凶を探しなさい!多分あの黒い雲の中心にいるわ!』
「まぁそこから、格段に大きい霊気を感じるから間違いはないじゃろうな」
急いで…!
出来れば被害は出したくない!
お祖母ちゃんたちも気がかりだけど、きっと大丈夫よね…!
第37話 完 NEXT SIGN…




