第35話 勇気
SIGN 二章 - SeVeN's DoA -
第35話 勇気
「…」
「…さて…どっちが勝ったのかしらね」
沈黙したまま立ち尽くす和馬。
それを見守る綾芽。
パキッ!
和馬の指輪が突如割れて、床に落ちた。
「!…やったか!」
「…俺は…一体…」
どうやら正気を取り戻したのは紛れもなく和馬本人のようだ。
「お疲れさん!」
「あ、あんた…!その顔…!」
警戒する和馬。
どうやら記憶が飛んでいるようだ。
「落ち着きなさい。私は京じゃない。
妹の綾芽だ。ボウズ君」
「お、女か…」
和馬の視線が顔から胸に移動する。
ドガッ!!
「ヘブシッ!!」
「胸が小さくて悪かったなクソ坊主!!」
綾芽の蹴りが和馬の顔面に突き刺さった!
「お、俺…こんなんばっか…」
―――
――
「なるほど…状況は飲み込んだぜ…」
綾芽はこれまでの状況を話して聞かせた。
「とりあえず、いつまでもここにいるのはよろしくないわ。
早いところ聖ヶ丘に戻らないと大変な事になる」
「だな。んで、どうやって上に上がるんだ?」
上を見上げる二人。
10mはあるだろうか。
「待たせたの!」
見上げていると、白凪茜が顔を出して言った。
どうやらロープを手に入れてきてくれたようだ。
下まで垂らしてくれている。
「これでなんとかなるな!綾芽だっけか…助けてくれてありがとうな」
「別にあなたのためにやったわけじゃないわ。
まだ何の解決にもなっていないしね…馬鹿兄貴にこれ以上好きにさせるものか!」
「うぅ…」
九鬼葵が目覚めた。
「葵!目が覚めたか!
とりあえず戦いは一区切りだ。これから聖ヶ丘に向かう!」
「何かあったの…?あれ…傷が癒えてる…」
「私が治しておいたわ。葵」
「!…綾芽さん!どうしてここに!?」
「話はあとだ!とにかく上ってくれ!
俺は由良葉を担いで最後に行く!皆は俺たちを待たずに向かってくれ!」
―――
――
その頃…
白凪家では…
「連絡も来ないし…今出来る事って言ったら"神谷"さんに会うことよね。
でも、何処にいるのかわからないし…菅谷さんも戻ってこないのよねー」
その時だった。
ピンポーン!
「!…お祖母ちゃんたちかな!?」
「いや、自宅に帰ってくるのに呼び鈴は鳴らさないだろ?
菅谷って人じゃないか?」
須藤がつっこみんだ。
「とにかく出てみる!」
優は走って玄関にむかった。
ガチャ
「!…菅谷さん!それに聖先輩たちも!」
聖才雅、不破まりあ、彰人、それに加え菅谷浩介に見慣れない人間が一人。
「えっと…そちらは?」
猫背の男は視線を逸らしながら頭をボリボリとかいている。
「彼がかみやん…ほら自己紹介して!」
「えっと…神谷一騎です…25歳無職…引きこもりです…」
えーっと…。
ほんとにこんな人がめちゃくちゃ強いのかしら?
「…ま、まぁ…彼はその人見知りだし、シャイなとこあるから。
女の子は特に苦手なんだ。勘弁してあげてね優ちゃん」
「菅谷っち…なんかムカつく…帰っちゃおうかな…」
子供かッ!
ますます怪しいわね。
「と、とりあえずこんな所で立ち話もあれですから…
中に入ってください」
『おじゃましまーす』
5人は優に連れられ、皆の待つ客間へ向かった。
―――
――
「…」
「なんなのよ!この重苦しい雰囲気は!」
黙りこくる面々に優の苛立ちが爆発した!
「と、とりあえず自己紹介をします。
僕たちは白壁高校の人間で、自分は3年の聖才雅です。
皆さんよろしく」
「私は白壁高校2年、不破まりあです。
で、こっちが弟の彰人」
「白壁校1年!彰人です!姉貴共々よろしく!」
「はは…まさかこんな形で氷女に会うことになるなんてね…」
「それはこっちの台詞よ瀬那。
四天王勢ぞろいなんてね…」
須藤彰、片桐亮、瀬那稔、不破まりあの四人は中学時代地元では有名な不良で、
四天王と呼ばれていた。
「自分は浪人生の菅谷浩介です…一応大学3年生…24歳。
みんなよろしくね」
「神谷一騎です…25歳にもなって職にもつかず引きこもってる…
そんなダメ野郎ですが…できれば仲良くしてください…」
一同思った。
『暗ッ!!』
もちろん心の中でだ。
「かみやん…事情は話した通りだよ。
力を貸して欲しいんだ…!
彼等の町を…白壁と同じ目には合わせたくないんだ…!
この気持ち…わかるだろ?」
「…。
力を貸してあげたいのは山々だけど…僕が直に戦うのは遠慮したいな…。
僕は生まれつき強い霊気を持ってた…でも肉体的にも運動神経的にも並以下だよ。
正直そこまで恐ろしい連中と渡り合えるとは思えない…」
「…なぁアンタ…逃げるのか?」
「逃げる?」
須藤が突っかかった。
「怖いのは皆一緒だ…。
だけど、皆逃げずに立ち向かっているんだ…何故かわかるか?」
「…」
「皆守りたいものがあるんだ…。
大切な家族や友達…家やこの街を…!
力があるのに、何もしないで見てみぬふりをするのは逃げだって言ってんだ!」
「…守りたいものか…。
僕にはないよ…。この街も僕の街じゃない…。
友達も、家族も…ここにはいない」
「かみやん!」
須藤はため息をついた。
「わかった…もういいよ。
あんたの言う事は確かにごもっともだ。
よそ者のために命張るってのは確かに無茶だわな」
「俺達の街だ…俺達でどうにかしよう」
須藤と片桐が言った。
「…じゃあ…」
神谷が立ち上がり部屋を出ようとした。
「かみやん!!待てよ!
悔しくないのかよ!こんな事言われて!」
「悔しさ…か。…どうだろうな…。
僕にはそんな感情…はじめからないのかもしれないな。
それとも何処かで失くしたのか…とにかく、今の僕には何も感情がわかない」
神谷が出て行こうとするのを止めようと、菅谷は立ち上がり、回り込んだ。
「そんな事ないよ!かみやん…!
君は僕らがピンチになったら来てくれたじゃないか!」
「それは…彰人君が絶交なんて言うから…」
「違うね!かみやんは本当にどうにもならない時、
本心で助けたいって思ったはずだ!だから危険なのを承知で来てくれた!」
「…」
神谷は黙って俯いた。
「みんな!かみやんは感情表現が上手くないんだ…。
心の中じゃ、どうにかしたいって思ってるんだよ!」
「菅谷さん…。
私ね、無理やり神谷さんに助けを請うつもりはないんだ。
やっぱり私達の街の事だし、なにより命の危険に晒せないわ」
「優さん…」
優は立ち上がって言った。
「お嬢さん……一つ聞いてもいいかな?」
「…優です。白凪優…」
「ゆ、優…さん。
あなたは、自分が死ぬかもしれないのに…誰かのために…。
守るために命を賭けて戦えるのかい?」
「…私には人より少し、戦える力があります…。
その力で一つでも救えるものがあるなら…たとえ危険だとしても戦います。
大切なものを守りたいから」
真っ直ぐな目で、神谷の目を見て言った。
「怖いと思ったことはないのかい?」
「ありますよ…いつだって戦う時は怖い…。
でも、何もしないで失うのはもっと怖いわ…」
「そうか…。ありがとう…。
!!…なんだ!?」
急に神谷の顔色が変わった。
そして、そのまま部屋を飛び出し、玄関に向かった。
それをみて優たちもそれに続く。
「…」
空を見上げる神谷。
「どうしたんですか?」
「感じるんだ…物凄い邪悪な霊気を…!
こちらに向かってきているようだ…!」
私には何も感じない…。
他の皆もそうだ。
演技や嘘じゃなさそうだ…表情でわかる。
つまり、この人はかなり広範囲にわたって霊気を感じることが出来るんだ。
「優さん…僕は弱いし臆病だ。
危険も嫌だし、痛いのも嫌だ…心も体も弱い。
逃げ癖もついてる…。嫌なことから目を逸らし、逃げっぱなしな人生だった。
こんな僕でも変われるなら変わってみたい…。
そして、今がそのチャンスなのかもしれないね」
「神谷さん…」
「かみやん!それでこそ俺の親友だよ!
俺も全力でサポートするから頑張ろう!」
菅谷が神谷に抱きついて言った。
「ちょ…離れてください!照れるじゃないですか!」
「優さんありがとう。彼を立ち上がらせてくれて」
「聖さん…。ううん、私は何も。
きっとあのまま、ここを去っていっても、いざと言う時は来てくれたと思います。
多分そういう優しい人なんだと思います」
「ええ。でなければ、僕たちは彼と一緒にいませんよ。
いざと言う時には男を見せてくれる…それが彼…神谷一騎なんです」
「それに須藤先輩がたきつけてくれた部分もあると思いますし…ね?
須藤先輩」
「お、俺は別に…」
須藤は照れているのかすぐにそっぽを向いた。
―――
――
神谷は皆を裏庭に集めた。
「これから皆さんを審査します」
「審査…?」
神谷は皆の前に立って言った。
「何者かは判りませんが、こちらに向かってくる邪悪な霊気…
これに対抗し得るか、そしてもう一つ…打開できる可能性を探らせてください」
「基本的にどうすればいいんだ?」
「えっと、須藤君でしたね。
皆さん包み隠さず霊気を全力で発してください」
「それはいいけどよ…どちらにしても戦うつもりだぜ?俺達」
片桐が言った。
「…わかりました。とりあえず霊気を全快にしてください。
時間がありません!どうぞ!」
皆は言われるままに霊気を放出した。
「…ふむ…」
しばらく皆を眺める神谷。
「…!……うーむ!
はい!わかりました!皆さん霊気を抑えてくださって結構です」
皆は霊気を抑えた。
「素晴しい可能性を持つ人が数名います。
残念ながら時間がないので、その中の二名を今回選ばせてもらいます」
「どういう事ですか?可能性とは?」
「ハッキリ言います。
単純に霊気だけ比べて、邪悪な霊気に太刀打ち出来る人は
この中に一人もいません。僕も含めて」
『!!』
全員その一言に驚きを隠せなかった。
第35話 完 NEXT SIGN…