第34話 百紙
SIGN 二章 - SeVeN's DoA -
第34話 百紙
「私を倒す?…笑えない冗談だな」
「別に冗談じゃないわ。大マジよ。
正直そんな事してる暇はないんだけど、このまま野放しにもできないからね…」
超越(Transcendence/トランセンデンス)と対峙する緋土綾芽。
「君はボスによく似ているな…まさか血縁者か?」
「認めたくない事実だけど、その通りよ」
フッ!!
「消えた!?」
「馬鹿後ろだッ!!避けろ女ッ!!!」
和馬の掛け声に素早く反応した綾芽だったが、まともに蹴りを食らってしまった!
吹き飛ばされる綾芽!
「く…ッ!何今の…!初動すら捉えれなかった…」
「奴はおかしな術を使う!
速さで移動しているんじゃない!空間で移動しているんだ!」
「なにそれ…そんなデタラメな能力が存在するっていうの?」
「雷撃銃!」
綾芽が動揺しているところを狙い、貫通力の高い電撃銃を放つ超越!
「っぶなッ!!」
ギリギリでかわす綾芽。
瓦礫を軽々と貫通している。
「くく…素早いな」
ブンッ!
「だがこれで避けれまい」
超越は綾芽の背後に瞬間移動した!
同時に電撃銃を首筋に狙い定めている。
パンッ!
「ぐはっ!?」
綾芽は背後も確認せずに裏拳を放った!
拳は見事に超越の鼻筋にヒットした!
顔面を押さえ、後ずさりする超越。
「瞬間移動が怖いのは、こちらの攻撃がかわされる時よ。
攻撃で間合いに入ってくるなら、あんたの性格上後ろからってのはなんとなくわかった。
もちろんそれ以外だった場合の対応も頭に入れながらの一発よ。
残念でした」
「…まぐれ当りでいい気になるなよッ!!」
「別にいい気になんてなってないわ」
「フンッ!!」
超越は綾芽に向けて手をかざすと得意の衝撃波を放った!
「!」
予備知識がない、綾芽はもろにその攻撃を受け吹き飛ばされた!
そして、そのまま壁に激突した!
「生意気な女だ…すぐに殺してやる…」
「なによ…これ…!体がいうことを利かない…ッ!」
凄まじい圧力で壁に押し付けられるかのように、綾芽は壁際に張り付いたまま、
身動きが取れないでいる。
「これで好きに撃ち放題だな」
超越は電撃銃の構えを取った。
パシュッ!!
「うあぁあッ…!」
身動きのとれない綾芽の左ももを電撃銃が貫いた。
「くくく!次は何処がいい?」
バシュッ!
答えを待つ事もなく再び放つ超越!
「あぁあッ…く…」
次は左腕を電撃銃が貫通した!
「…悪かったな。
聞く前に撃ってしまって」
「…百紙出ろッ!」
綾芽がそう叫ぶと、胸元から人型の紙が飛び出した!
そしてヒラヒラと舞い落ちながら数が1枚から2枚…2枚から3枚と無数に舞いだした。
「なんだ…?」
「百紙まで使う羽目になるとはね…。
出来れば力は極力温存しておきたかったんだけどね…」
人型の紙は綾芽の前方に静止している。
もちろん綾芽の視界は塞がずにだ。
数にして百の人型。
内、二枚ほどは貫かれた腕と足に巻きついている。
どうやら回復効果と包帯の役割を担っているようだ。
「何かしらんが、その様な薄っぺらい紙に何が防げるんだ?」
バシュバシュッ!!
超越は雷撃銃を乱射した。
綾芽に向かって凄まじい速さで跳ぶ雷撃の矢!
しかし、雷撃が間合いに入るや否や、百紙が盾になり、雷撃銃を無効化した!
「何…?無効化した…だと?」
「ご馳走様」
「馬鹿な…コンクリートをも貫通する電撃銃だぞ…?
そのような紙を貫けぬはずがない!!」
再び電撃銃を乱射するも、結果は同じだ。
「馬鹿な…!」
「馬鹿はあんたよ。
あんたのその変な能力…恐らく妖魔によるものだと思うけど、
霊気に違いはないでしょ?
この子達は霊撃を無効化するだけでなく、吸収することも、反射することも出来る。
ちなみにご馳走様って言ったのは吸収させてもらった事を意味してる。
この子達が吸収して得た霊力は、もちろん術者である私に還元される仕組み。
素晴しいでしょ」
「ならばこれならどうだ?」
超越は両手をかざし、霊気を高め始めた!
すると巨大な炎の玉が姿を現した。
「あのねー一言忠告してあげる。
紙だから燃えるって発想だと思うけど、それも元は霊気によるもの。
どんな属性能力でも、この子達の前では無効化されるから。
そのつもりで撃ってねー」
「なめやがって…!!そんなハッタリ誰が信じるか!!
死んで後悔しろッ!!食らえッ!!灼熱の火玉!!」
ドゥッ!!
巨大な炎は綾芽に向けて放たれた!
勢いは先ほどの雷撃に比べ劣るが、巨大さはまるで違う!
綾芽の体など、ひと飲みするほどの大きさだ。
「四方より集いて、盾となれ」
綾芽がそういうと、無駄な範囲に散らばっていた百紙を中央に集め、
巨大な盾と変化させた。
ドッガーーーンッ!!
「…はは…やった!!」
黒い煙があたりを包む。
そして徐々に煙が消え…現れたのは…
「!…ば、馬鹿な!!」
「だから言ったじゃん」
無傷の緋土綾芽の姿だった。
「私の百紙は半端な攻撃じゃ破れないわよ?
ちなみにもう一つ教えてあげる。
百紙は単なる防御術じゃない…攻撃手段でもあるってことをね」
「何…!?」
「ふふ。百紙よ…その身を刃と成して敵を撃て…。
敵は……あいつだ!」
綾芽がそういうと半分ほどの人型の紙がその姿をナイフのように形造り、超越に向かって飛び出していった!
「ちぃッ!!そのようなこけおどし!!」
超越は飛んで来る百紙に向けて衝撃波を放った!
勢いに負け、押し戻される百紙たち!
「あっはっはっは!やはり紙だな!
無力無力!」
「お、体楽になった!」
綾芽を縛る金縛りが解かれた!
「しまった…術が解けてしまったか!」
「百紙よ!敵を包み込め!」
刃の形状から、正方形のただの紙へと姿を変えると、一斉に超越に向けて飛んでいく!
「だから、何度やっても無駄だと…言っている!!」
再び襲い掛かる百紙に衝撃波を放つ超越!
その瞬間綾芽は叫んだ!
「散ッ!」
すると一斉に百紙は左右へと散開した!
そしてそのままサイドから超越に襲い掛かる!
「ちぃッ!!」
ブンッ!
流石の超越も咄嗟のことに対応出来なかったのか瞬間移動でその場を脱した。
「ラッキーーーッ!!」
「何!?」
ドガッ!!
綾芽の強力な膝蹴りが超越の顔面に突き刺さる!
どうやら瞬間移動で逃げることを予め予想していたようだ。
綾芽は"散ッ"と叫んだ時にはすでに動き出していた。
ただ、何処に逃げるかまではわからない。
ヤマをはったに過ぎなかったが、運良く狙った場所に現れたというわけだ。
「ぐはっ…!」
「まだまだいくぞ!はぁッ!」
ふらつく超越に対して上段蹴りを放つ綾芽!
ガシッ!
「調子に乗るな!!」
超越は綾芽の蹴りを片手でガッチリとガードすると、そのまま足を掴み、
地面へ勢い良く叩き付けた!
「くはッ…!」
「はぁ…はぁ…!殺すッ!」
ドガッ!!
倒れる綾芽の顔面を全力で踏み潰そうとする超越。
それをギリギリでかわす綾芽。
「ち…!ちょっと舐めすぎてたか…。
危うく死ぬとこだった…」
「くく…お前を殺す方法がわかった!」
「!…
(まずいわね…気づかれたか…。
今のやりとりで接近戦がこちらに分がないことに…!
私自身…霊気ですでに強化している…。
にも拘らず、蹴りに反応し、軽々防がれた…。
つまり単純な肉弾戦では勝機はないということだ。
さらにまずい事がある…霊力が残り少なくなってきたということだ。
先の戦いに加え、百紙のコントロール…いくら奴の霊力を吸収したとはいえ、
発動している限り、常に消耗しているわけだからね…。
このままチマチマやっててもラチがあかない…どうする…)」
「いくぞ!!」
「!
(来た…!考えてる場合じゃない。
使わせてもらうわよ…!!)」
ドガンッ!!
「グハアアッ!!」
襲い掛かった超越が逆に吹き飛ばされた。
「残念…でした!」
「な、何故だ…?何処に…こんな力が……はっ!?」
超越は何かに気づいた。
「じゃんじゃじゃーん…これなぁんだ?」
綾芽が見せたのは左手だった。
薬指と人差し指には指輪がはまっている。
先ほど亜子と戦っていた暴君から回収したものだ。
「これで勝負は見えたわね。百紙!戻れ!」
綾芽がそういうと綾芽の元に向かいながら、無数の百紙が重なりながら一つになっていく。
手元に戻るとそれを胸元にしまった。
「…く…!」
「あなたもわかるでしょ?もう何をやっても無駄ってこと」
「はぁッ!!」
超越は衝撃波を放った!
が、1mmも吹き飛ぶ気配がない。
「くぅ…!!ならばああッ!!」
「なにか?」
涼しい顔で笑みを浮かべる綾芽。
金縛りもなんのその、一歩、また一歩と超越に近づいていく。
「く、くそったれ…」
「もう終わりだ」
ドスッ!!
強烈な拳打が超越の水月に突き刺さった。
拳打であると同時に渾身の霊撃。
すでに消耗していた、超越にはかなり堪える一撃だ。
「ぐ…」
「まだ意識があるのか…」
地に蹲る超越は綾芽の足をつかまんと、手を伸ばす。
そして手が足に届きそうになった瞬間。
綾芽は足を上げ、そして勢い良く踏み込んだ!
バキッ!!
「ぎゃあああッ!!!」
超越の左手は骨折したようだ。
そして綾芽は左手を踏んだまま、ゆっくりとかがむと、超越の左手の指輪を外した。
そして、自身の二つの指輪も外した。
「はぁ……疲れた…
(マジでやばい代物ね…こんなん10分もつけてらんないわ)」
「か、かえせ……それを…」
「あなたはもう終わりと言ったはずよ…
眠りなさい!!」
ドガッ!!
背中に放たれた強烈な掌底突き!
「…」
今度こそ本当に沈黙したようだ。
「終わった…」
「女…さっさと指輪を渡せッ…!!」
和馬が立ち上がり、歩み寄ってきた。
「あなた…やれるの?」
「あぁ!?何がだ!」
「あんたじゃない!!……"あなた"に聞いているのよ…ボウズ君」
「何を意味のわからない事を言ってやがる!!さっさとよこせ!!」
綾芽は無言で和馬の指輪を渡した。
「くくく!素直じゃないか。それでいいんだ!!」
和馬は葵の指輪を外すと、受け取った指輪をはめた。
「これで俺は自由だ!!」
「根性見せなさい!!ボウズ君!!」
「だから、さっきから何を……!?……なんだ…これは…」
ガタガタと震えだす和馬。
「お、俺は……ボウズ……君じゃ……ねぇ…ッ!!」
「…」
「俺は…違うッ!!貴様は死ね…!!俺に体をよこ…せ…ぐう…!
うあぁあ…俺は…俺は和馬だ……こんな雑魚に…誰が……体をくれてやる…か…!!」
「負けるな和馬!男だろ!」
「るっせえええええええッ!!!!俺は俺だあぁあああああッ!!」
その瞬間物凄い光と波動が辺りを包み込んだ。
第34話 完 NEXT SIGN…