第28話 潜入
SIGN 二章 - SeVeN's DoA -
第28話 潜入
聖ヶ丘高校・1-B―――
――
ガラッ!
優は落ち込んだ面持ちで教室に入った。
「優さん!」
天城勇と鹿子流華が優の席に駆け寄ってきた。
「どうしたんですか?一限目休んで…
何かあったんですか?」
「うん…色々あってね。
学校が終わったら一度皆で集まりたいわね。
そこで現状を全て話すわ」
そこでは何も語らず、話は終えた。
そして時間は経ち…放課後。
―――
――
白凪家・客間―――
――
「皆良く集まってくれたわね」
天城勇、鹿子流華、片桐亮、須藤彰、
夕見司、瀬那稔、日下部新二、岡島大樹、椎名一、
シロにポチ…11人が優の元に集まった。
彼等は一緒に修行を潜り抜けてきた大切な仲間たち。
「連日のニュースで被害地域が近づいてる…。
優の言っていた敵の仕業なんでしょ?」
司が質問した。
「ええ。そして…その敵の居場所がわかったわ」
『!!』
全員驚きの表情をした。
「だったらすぐに戦いに行きましょう!
これ以上街を破壊されちゃ敵わないです!」
「落ち着け勇…もう対処に動いているんだろ?」
片桐は勇を静止させ、優に質問を投げかけた。
「ええ。お祖母ちゃんやお姉ちゃん…和馬たちが敵の本拠地へ出発したわ。
今朝早く…」
「なるほど。姿が見えなかったのはそういうことか。
片桐、察しがいいじゃねえか」
「別に驚く話じゃないさ。んで、もう夕方なわけだが連絡は何かあったのか?」
片桐が質問した。
「ううん。携帯のメールも電話も連絡がないわ。
今どうしているのか、全然掴めない」
「…心配なのね?」
流華が言った。
「…うん。敵は相当な力を持っているようなの。
私じゃ足手まといとも言われたわ…」
「優…」
「でもどうして敵の本拠地が判ったんだ?」
瀬那稔が聞いた。
「敵の一人が私の家にやってきて、話してくれたのよ」
「!…それって信用できる話なのか?
罠って可能性もあるんじゃ…」
「瀬那先輩の言う通り、私もそう言ったんだけどね。
お祖母ちゃんは少しの可能性でも今は賭けるべきだって…」
「…連絡がないってのも気になるぜ…。
罠にはまって捕まったとか…」
「瀬那!縁起でもない事を言うなよ!」
優は俯いてしまった。
「わ、悪い…俺はそんなつもりじゃなかったんスよ…。
優さん、元気出してください」
「うん…。せめて私も場所が判れば確かめにいけるんだけど」
「聞いてないってわけね…。
まぁ落ち込んでいてもしょうがないですわ。
私達はお祖母様の無事を願って待つ以外にないのですから」
司は気丈に振舞った。
「万が一の事があったとき…私達にこの地を守ってくれと…
そう託されたわ」
「おいおい、お前もそんな悪い方に考えるなよ…優」
「ううん。そうじゃないの須藤先輩。
託された以上…私はこの地を守るわ。
命を賭けてね…!皆は…一緒に戦ってくれる?」
「愚問だな。ここは俺達の住む街だぜ?
よそ者に好き勝手やられてたまるかっての!」
「だな!こういう時のために修行したんだし…な!」
須藤と片桐は握りこぶしをコツッと当てて言った。
「須藤先輩、片桐先輩…」
「僕は元より優さんを全力で守るために強くなったんです!
優さんも守るし、この街も守って見せます!」
「まぁ…私を戦力から除外したのがすんごく納得いかないけど…
今更グチグチ言ってても始まらないわね。
降りかかる火の粉は全力で振り払ってやるわ!」
「勇君…流華…」
「私もやらない理由はないですし、力を貸してあげてもよくってよ?」
「ふん。相変わらず素直じゃないのう司は。
わらわはそなたについていく他ないでな…ま、その身の一つや二つ守ってやるわ。
なぁ犬っころ」
「ふわもこのお前が言うなぁ!僕は司ちゃんのサポートぐらいしか出来ないけど…
頑張るよ!」
「司…シロ……ポチ…」
「もちろん俺達も部長を守る使命があるからな」
「おうよ!俺達じゃ心もとないかもしれないけどさ、
ちったぁ役に立てるように努力してきたつもりだもんな!新二!」
「あぁ!俺達もやるときゃやるって皆に見せてやろうぜ大樹!
お前もその気なんだろ!?一!」
「僕は別にそんな暑苦しい気持ちなんてないし…
しんどいのも痛いのも嫌だよ………まぁどうしてもっていうなら力かしてやらんでもないけどね」
「瀬那先輩…日下部先輩、岡島先輩…それに一まで…
みんなありがとう…私皆と出会えてよかった…」
優の瞳に涙が浮かんだ。
「まぁそんなわけだ。肩の力抜こうぜ?
一人でなんでも解決しようって思わないでさ」
「そうそう!僕らの力をもっと頼ってくださいね!優さん!」
須藤と勇が言った。
「うん!」
―――
――
時は遡ること4時間ほど前…
9月9日(水) 12時25分…
白凪茜一行は、敵であった一条岳に連れられ聖ヶ丘の最南に位置する音羽町に来ていた。
「あそこに見えるビルがあるだろう?
一階に隠し部屋があり…地下に進む階段がある。
地下は三階まであって…恐らくボスは三階にいる」
「あの廃ビルに居やがるのか…!
とっとと乗り込もうぜ!」
バコンッ!
茜の鉄拳が和馬に落ちた。
「落ち着け!たわけ者め!
一条…これが最後の質問じゃ…信じてもいいんじゃな?」
茜は真っ直ぐ一条の眼を見た。
「…ああ。嘘じゃないさ」
「よし…じゃあ乗り込むかの」
茜たちは古びた4階建てのビルへ向かった。
人通りも少なく、寂れた感じがする通り道だ。
「俺はここまでだ。隠し部屋に関してはこのメモに書いてあるから
あとは好きにしてくれ」
茜はメモを受け取った。
「これからどうするんじゃ?」
「俺は社会からして見たら、悪党も悪党…クズと言ってもいい存在さ。
この手は血で染まりすぎた…だからといって縄につく気はない。
俺はまだ遣り残した事があるからな…。
それが終われば…自らの幕は自らで下ろすさ」
一条は皆に背を向けて去ろうとした。
その時だった。
「おい!」
和馬が彼を呼んだ。
「…死ぬなよ…」
「…ふッ」
和馬のその言葉に、一条岳の背中は
"あばよ"
…と、無言の挨拶を感じさせるものだった。
罪を背負い、歩む男の背中に一同は複雑な思いを感じていた。
人を殺すという行為は何物にも変えがたい罪だ。
それが例え、どんな悪であっても…
人が人の命を奪っていい事にはならない。
何をしようとも、その罪は消えることはなく、一生背負っていくもの…。
あとは自分自身が、どのようにその罪と向き合い…これから償っていくか。
罪の重みに耐えかね死を選べば…それは逃げになるのだろう。
彼がどの道を行くのか…それは彼にしかわからない。
「さぁ…行くぞ!」
茜たちはビルに入った。
1階に人気はなく、掃除もしていないホコリまみれの机が並んでいる。
「こっちじゃな…」
見ると新しい感じがするパーテーションがある。
横にスライドすると、人一人程度歩けるスペースで10mほどの通路が現れた。
「ふむ…私が先頭きって行くわ」
茜はスペースの最後まで行くと、足元を見る。
すると小さな扉がある。
茜はそれを開けてみた。
なんと地下に通じる梯子が現れた。
「どうやら一条の言ってた事は本当らしいのう…」
茜はゆっくりと降りた。
不意打ちがないか、非常に用心深く、慎重に降りる。
顔を出せる部分までくると、降りる前に顔を出して地下室の状態を確認した。
「…これは…」
茜が見たのは一人の男だった。
状況を把握した上で茜は一気に地下に下りた。
地下の状況は何もない無機質な明るい部屋。
広さは何もないこともありかなりのスペースに感じた。
学校の教室か、それ以上に感じた。
そこにスーツに身を固め、中心でイスに座って、こちらを見ている男が一人。
「おい、どうした…!?バァさん」
「お出迎えがいるようじゃ」
茜の誘導の元、他の4人…石動和馬、九鬼葵、神楽由良葉、白凪亜子も地下室に降り立った。
「ようこそ。皆さん」
「あの野郎…やっぱハメやがったな!」
「そこのボウズ君…それは違うよ。
君たちは気づかなかったかもしれないが、監視ビデオが1階に忍ばせてあってね。
おまけにここに通じるパーテーションね。あれ開ければ防犯ブザーが鳴る仕組みなんだ」
「…ち。教えるならそこんとこまで教えとけってんだ…!」
「はは。それにしても、まさか裏切り者が出るとは思わなかったな。
一体誰だろうねぇ」
「それにしても…お前さんとこうしてまた会えるとはね…」
「バァさん、あいつ知ってるのか!?」
「あぁ…以前やりあった相手じゃ…。
確か"解剖(Dissection/ディセクション)"と言ったかな…」
「覚えていてくれて光栄だよ。今度こそ切り刻んでやるさ…!!」
男はイスから立ち上がると、イスを蹴飛ばして構えた。
「やれやれ…やる気満々か…」
「バァさん、こいつ強いのか?」
「弱いな…。
私から見れば十分に強い部類じゃが、奴等4人の中じゃ下っ端程度の実力じゃろ。
ここは私に任せておぬし等は下に行け」
「弱い…という言葉は聞き捨てならないが…
先に行ってくれるのはありがたいね…」
「!…意外だな。普通先に行かせないために、待ち構えてるもんだけどな」
「ボウズ君。僕はその御婆さんを切り刻めればいいんだよ…ひっひ」
「…。なるほど…ド変態ってわけか…。
んじゃバァさん…任せても大丈夫なんだな?」
「誰に物を言うとるんじゃ!私の心配をしとる暇があったら、さっさと倒して連れて来い!」
「だな!…お前ら先に行くぞ!」
和馬と3人は更に地下に降りる梯子へ向かって走った。
解剖はそれを見向きもせず、茜を見ている。
和馬は3人を先に降りさせると最後に降り始めた。
「バァさん…死ぬなよ!」
「さっさと行きな!」
茜が叫ぶと和馬は降りていった。
「さぁ…二人きりだよ。切り刻んでやる…」
「はぁ……最低な気分だよ。とっとと終わらせるぞ」
第28話 完 NEXT SIGN…