第27話 密告者
SIGN 二章 - SeVeN's DoA -
第27話 密告者
9月9日(水) AM7:12―――
「おはよう…」
優は寝ぼけ眼でリビングへやってきた。
皆目の前のテレビに釘付けになっている。
「酷いわね…」
焼け野原になっている白壁の映像。
地元に住んでいた不破まりあと彰人…そして聖才雅は、
怒りと悲しみに打ち震えて画面を見つめていた。
「僕たちは自分の住む町を守れなかったんだな…」
「先輩…自分を責めないでください。
どうにもならなかったのよ…」
悔やむ才雅を慰めるまりあ。
「申し訳ない…」
そんな二人を見て茜は頭を下げた。
「白凪さん!そんな…頭を上げてください!
あなたのせいではないですよ!」
「しかし…私等と深く関わりのある連中が招いた惨事じゃ…。
こうなる前に止めたかった…。謝って済む問題ではないが…申し訳ない」
「…お願いです頭を…上げてください」
才雅の言葉にゆっくり頭を上げた。
「白壁を潰した今となっては…今度はここが狙われる可能性があります…。
白凪さん。どうか…どうかここを白壁と同じ目には合わせないであげてください…。
こんな悲劇…もう終わらせなければ」
「先輩…」
「聖君の言う通りじゃな…何が何でも敵を潰す…!
これ以上の悲劇は何としても止める!」
そうね…。
そのためにも、問題点は二つ。
敵が何処にいるのか?
そして、圧倒的な強さに対する戦力…。
出来れば敵が動き出す前にこちらから出向き…叩きたい所だ。
だが、それにしても戦力が足りない…。
残る敵の数はわからないけど、圧倒的な力を持つ敵がいることはわかっている。
そういえば…
「まずは、菅谷さんが言っていた神谷さんって人に会わない?
力になってくれるなら心強いし」
「そうだね…。かみやんには事前に電話しておいたんだけど、
予想外に会ってくれるそうなんだ。
俺はこれからかみやんを連れてくるけど…皆はそれぞれ仕事や学校だよね?」
菅谷が応えた。
そうだった。
今日はまだ水曜日。
学校かぁ…。
聖先輩達はどうなるんだろ?
「僕らはしばらく休校だそうだよ」
「先輩…一度白壁に戻ってみませんか?
親や友人等も心配してるだろうし」
「まりあ君の言う通りだな。
ここは一度帰るか…彰人君もそれでいいかい?」
「俺はそれで構わないッスよ!姉貴も帰るんならついていくし…
菅谷さんもこれから神谷さんに会うなら一緒に行きますか」
「そうだね。美味しい朝食ありがとうございました」
4人はお辞儀をした。
「いえいえ。お粗末様です」
エプロン姿の亜子が応えた。
―――
――
4人が家を出ようとした…その時だった。
ピンポーーーン
「白凪さん、お客さんのようだよ?」
「はぁーい!」
優は急いで玄関に向かった。
「多分流華か誰かでしょ」
ガチャッ
「…」
見知らぬ男が無言で立っている。
「…どちら様…ですか?」
「…!!!」
聖才雅と菅谷浩介の表情が変わった。
「優さん離れて!!そいつは敵ですッ!!」
「え!?」
スッ!
男は玄関に上がってきた。
「な、なによアンタ!」
「警戒しなくていい。
俺にはもうお前らと戦う理由もないし…戦う力も残っちゃいないからな」
突如現れた男は"正義(Justice/ジャスティス)"だった。
「…何が目的でここにきた…!返答次第ではタダじゃすまない!」
聖は警戒を解かず、構えたまま叫んだ。
「聖君…構わんよ。話を聞こうかの?」
茜が玄関に赴き、男を招きいれた。
―――
――
客間―――
「まず名を聞こうか?」
「俺は一条 岳…コードネームは"正義(Justice/ジャスティス)"だ」
「コードネーム…」
「そうだ。ボスが俺達7人…SeVeN's DoAに名づけた名前だ」
「ふむ…お主のボスとはこやつか?」
茜は写真を見せた。
「そうだ。コイツが俺達のボスだ」
「…なるほどな。これで戦力は掴めたな。
敵は緋土京を含め8人…そのうち現戦力はいくつになるのじゃ?」
「俺が知ってる情報で言えば、今動ける人間は4人…
ボス、そして片腕である超越(Transcendence/トランセンデンス)。
暴君(Tyrant/タイラント)に解剖(Dissection/ディセクション)だな。
俺と一緒にいた巨漢の男…破壊(Destruction/デストラクション)は倒れ、
復讐者(Avenger/アヴェンジャー)、恐怖(Fear/フィアー)も戦闘不能状態だ」
「暴君…!めちゃくちゃ強かった女男野郎だ…。
あの強さで奴の片腕じゃないのか!?」
和馬が口を挟んだ。
「ボスに代わり…実際動き回っていたのは超越だ。
奴が実質SeVeN's DoAのリーダーってわけだ」
「ってことは…その野郎もあの暴君って奴と同格かそれ以上の力を持ってるってことかよ…ッ!」
「そうなるな。他に質問は?」
「聞きたいことは色々あるが、敵の能力を知りたいな。
強力な怨念をその身にわざと宿し…力を得る…。
恐らく色々と"かき混ぜた"怨霊…特殊な力を有していても不思議ではない」
「そうね…現に私も何人かと戦ってきたけど、
不思議な能力を持っていたわ…」
「悪いが特殊な能力に関しては本人以外知らないと思うぜ。
知っててもボスや片腕の超越ぐらいだ。
俺は知らない」
「じゃあ別の質問じゃ…。奴等は何処にいる?」
茜は核心に触れた。
「まぁそいつを知りたいと思ってきたわけだがな。
俺が案内してやる」
「…あなた、緋土京とは仲間だったんでしょ?
それなのに急に敵である私達に協力するなんておかしいじゃない!」
「優さんの言う通りだな。罠である可能性も十分に考えられる」
優と才雅が食い下がった。
「ふん。信じられないなら勝手にすればいい。
俺は頭を下げてまで教えるつもりはないからな。
それじゃあな」
男は立ち上がった。
「待ちなさい…お主についていこう」
「お祖母ちゃん!?この人の言う事信じるの!?」
「お主…何故私等に話す気になった?」
「………俺は人間が嫌いだ。
信用もできねぇし…心底腐ってやがる奴もいる」
「お前が言うな…ッ!」
聖がいきり立って怒鳴った。
「…ふん。お前の正義が俺を許せないように…
俺の中の正義で許せないものもある……」
「それで?」
茜は聖を手を沿え、落ち着かせて聞いた。
「俺は奴等に自分の正義を貫く力をもらった…。
その恩もあり…俺は奴等に協力した。
だが、俺は敗れ…力を失い、そして捨てられた。
もう義理立てする必要もない…そして何より…
奴のやろうとしている事は俺の正義に反するんだ…もう目を瞑る必要もない。
だから今度は俺の正義を貫くため、お前らに協力する…それだけだ」
「…そうか」
「随分と勝手な理屈だ…。
手がかりでなければ、僕がここでぶっ飛ばしたいよ…」
「全てに片がつけば…そん時相手になってやるさ。
俺はお前が嫌いじゃない」
ニッと笑う一条。
「で、どうするの?本当にこの人信用しちゃうの!?」
「今は可能性が少しでもあるならば、それに賭けるべきだと思う…。
それに、こやつの正義に対する思いだけは真っ直ぐなように思う。
正しい…正しくないかは別にしてもな」
…。
「場所は教えるが、俺はそこまでだ。
後のことは勝手にやればいい」
「構わんよ。元々は私等と緋土京の問題じゃからな」
「一つ疑問なんだけどいいかな?」
優は一条に質問した。
「なんだ?」
「なんで家がわかったの?
そもそも敵として認識されてたの?」
至極当然の疑問だった。
「詳しくは知らない…が、お前らを敵として認識はしていたようだ。
そしてお前らの監視役が恐怖(Fear/フィアー)だった。
丁度お前の着ている制服の女子高生だ」
「あの子か…」
「俺はそいつから敵の名前は聞いていたからな。
あとは住所を調べてやってきただけだ」
「なるほど…」
「質問はもういいか?だったらさっさと案内するぞ」
「ふむ…どうするかな…」
茜が急に考え出した。
「どうしたのお祖母ちゃん!行くんでしょ!?」
「ああ。行くは行く…。だが問題は戦力じゃ。
下手に大勢で行っても逆に不利になる場合もある。
敵は4人…か」
「ハッキリ言うぞ…
お前たちに勝ち目は薄い」
あんたに言われなくてもわかってるわよ…!
「俺は行くぞ…!あの野郎にリベンジかましてやる!」
「オイラもやるよ!銀も回復したと思うし!」
和馬と由良葉が立ち上がった。
「正直、子供を戦力として認めたくはない…。
じゃが、そうも言っておれんか…
由良葉…絶対に無理をせんと誓えるな?」
「うん!」
お祖母ちゃん、和馬に由良葉君…これで3人か。
「亜子、お主も来てくれるな?」
「もちろんよ。やっと出番って感じで腕がなるわ!」
「それと…葵殿…よいかな?」
「もちろんです茜様!そのために来たのですから!」
亜子と葵もやる気は十分といった感じだ。
「私は?私も連れて行ってくれるんでしょ?」
「ダメじゃ」
!!
「なんでよ!」
「ハッキリ言おう…足手まといじゃ」
足手まとい…。
「優は万が一に備え…菅谷殿と一緒に神谷殿に会うのじゃ」
「…」
優は顔を伏せた。
「優…わかってくれ…。
これはもはや命に関わる戦い…半端者のお主がゆけば、死は免れんのじゃ」
「わかってるわよ…」
ポンッ
亜子は優の頭に手をあてた。
「亜子ねぇ…」
「あなたはこの街を守って。
何かあったとき、誰もいなかったら…この街を一体誰が守るの?」
「…わかった…。
私は私の出来る事をやるわ」
「お願いね!優」
頭を撫でて亜子は言った。
「聖殿…あなた達の無念はわかるが…」
「気遣いありがとうございます。
わかってます…僕らの力では足手まといだということは…。
優さんではないですが、僕らも僕らに出来ることを精一杯頑張ります」
「うむ…頼みましたよ聖殿」
こうして戦いは一気に加速する事となる。
決戦へ向けて…。
第27話 完 NEXT SIGN…