第26話 小さな幸せ
SIGN 二章 - SeVeN's DoA -
第26話 小さな幸せ
「酷い有様ね…」
白凪優、天城勇、片桐亮の三人は神楽由良葉と敵の様子を確かめるため、荒れ果てた道路脇を探索していた。
道路は割れ、見る影もない。
道路脇の雑木林も激しい戦いがあったのを物語るかのように荒れ果てている。
「この先…」
優が指差した方向は地面が抉れながら、遠くの方まで続いている。
「行ってみるか…」
三人は長く続く抉れた道を進むことにした。
しばらく歩いた先に、小さい体が横たわっている!
三人はそれを見るや否や駆け出した。
「由良葉だ!急ごう!」
―――
――
「うう…」
「目が覚めた?」
由良葉を見つけたとき、気を失い…全身に打ち身はあったものの、致命的な傷はなかった。
そして、敵の姿もなかった。
片桐亮は由良葉を担ぎ、菅谷の元へ向かった。
そして30分が経過…
由良葉は目を覚ましたのだった。
「皆…オイラ……」
「ゆっくり休んでろよ…怪我は大したことないけど気絶してたんだ」
片桐は起き上がろうとする由良葉を気遣った。
「うん……オイラ記憶がないや…。
一体何があったんだろう…あいつは…あの長髪の兄ちゃんはどうなったの?」
「俺達が行った時にはもういなかった…。
お前が無意識に倒したのか…逃げたか…。
いずれにしても、死人が出なくてよかった。
アイツは今までの相手でも桁外れに強い…余りにも…」
和馬がやられ…、この面々を倒したのを見れば…それなりに力量は想像がつく…。
私達が加勢したところで結果は変わらなかっただろうな…。
「とりあえずどうします?
茂みに隠れてはいますが…表はかなりの騒ぎになってきてますよ?」
この惨事だ。
警察やら野次馬、マスコミが集まってきてるようだ。
「裏からこっそり抜けるとして…。
今白壁に戻るのも騒ぎが起きててまずいかもなぁ…。
聖ヶ丘に運ぶか…」
「そうね。えっと…」
優は菅谷の方を見て口ごもった。
「菅谷だよ。菅谷浩介」
「菅谷さん。そちらの三人…運んでもいいですか?」
「片桐君の言うとおり、聖ヶ丘に一時避難したほうがいいかもしれない…。
俺達を聖ヶ丘に連れて行ってほしい」
こうして4人は傷ついた5人を聖ヶ丘まで運ぶ事にした。
優は由良葉を担ぎ、長身の片桐は不破まりあ、彰人を両肩で組み、勇は和馬を…そして聖才雅は菅谷が運ぶことに。
人気が少ない場所を選びながら歩き、約1時間…。
ようやく白凪神社までたどりついた。
「はぁ…はぁ…。
やっとついたわ…ここが私の家よ」
「神社か…とりあえず、彼等を何処かで寝かせてやりたいんだけど…」
菅谷は物珍しそうに眺めている。
「OK。すぐに準備する!
由良葉君…ちょっと我慢しててね」
優は由良葉を背から下ろすと、玄関に駆け寄った。
ガチャッ!
「コラァアッ!!!!」
「!!…お、お祖母ちゃん……」
玄関のドアを開けた瞬間、祖母・茜の怒号が飛んできた。
「鍵もかけんで出かける留守番が何処におるんじゃ!!
…って…どうしたんじゃ!?」
茜はようやく場の状況に気づいた。
そしてすぐに、部屋に運ぶように皆に指示をした。
―――
――
客間…
「なるほど…そんな事がの…」
茜は神妙な面持ちで呟いた。
由良葉たち、傷を負った5人は別室で寝かせ、
亜子、茜、優をはじめ、勇、片桐、菅谷…そして九鬼葵の7人は客間にて会談。
片桐と菅谷が今まで起きた事を話して聞かせていた。
「俺の予想が正しければ…恐らくその敵は倒せてないと思う…。
由良葉君も強かったけど…奴はそれをも越えていた…」
「菅谷君と言ったかの…。
恐らくその予想は当っておる可能性が高い…」
「!…どういう事?お祖母ちゃん」
優が質問した。
「さっき由良葉の体を見たが…
銀の霊気がかなり小さくなっていた…相当に消耗したんじゃろう」
「それって…銀が出ても勝てなかったってこと!?」
「勝敗は別にしても、互角ないし…格上か…。
とにかく今だかつてない強大な敵じゃな」
「おばあ様…和馬や由良葉君までもが全力を賭してあの結果だとすれば…
正直私達だけの戦力で太刀打ち出来るか…」
奥里から和馬、由良葉と共にやってきた九鬼家の次期頭首…九鬼葵。
彼女もかなりの実力者ではあるが、とはいえ銀を解放した由良葉の力には及ばない。
「事態は私等が想像した以上にまずいかもしれんな。
かといって…対抗できるだけの戦力か……うーむ……」
「まだ諦めるには早いわよ!
何かしらの対策を練って…由良葉君のサポートをするなりなんなり…
きっとまだやれるよ!」
優は立ち上がって、暗い顔をする皆を鼓舞した。
「優の言う通りじゃな…。
私等が悲観してても事態がよくなるわけじゃないしな。
出来る事をしようか」
「あの…」
菅谷が口を開いた。
「どうしたの?菅谷さん」
「皆さんの役に立てるか…それはわかりませんが、
強力な霊能力者を一人知っています」
「え!?」
「かみやん…いや神谷一騎…彼ならあるいは…」
「その人は本当に凄いの?」
「ええ。実際、物凄い化け物を2人倒してますし…。
戦力にはなると思います…ただ…」
「ただ?」
「彼はその…人見知りで、引きこもりで…。
とにかく面倒くさがりなんです。余程のことがないと、まず部屋から出ません」
「はぁ…とんでもない人ね…。
でもこの際戦力になるのであれば、四の五の言ってられないわ!
菅谷さん!その人に会わせて!」
優は菅谷の元ににじり寄った。
「あう…はい。
とりあえず俺の方から話はしてみます…彼等を救ってくれた恩もありますから。
出来るだけ力になってみます」
「頼りにしてるわよ!菅谷さん!」
―――
――
その頃…
白壁では…
「あーーっはっはっはっはっはっは!!燃えろぉおおお!!
死ねぇえええええッ!!!あーーーっははっはははは!!!」
白壁は大混乱に陥っていた。
暴君が凄まじい力で暴れまわっていたのだ。
警察や軍隊はまるで無力…。
その圧倒的な力の前ではなす術もない状態だった。
気が付けば、あっという間に一面焼け野原…酷い有様である。
「暴君…その辺りでやめておきたまえ」
「超越か…ふふ。素晴しい力を手に入れたよ」
ビルの上で焼け野原を見下ろす暴君に背後から声をかける超越。
暴君は振り向くこともなく、答えた。
「いつもの君らしくないな…酷く興奮している」
「まぁね…。今までもそれなりに大きな力だとは思っていたが…。
それ以上の力を手に入れたからね」
暴君は握りこぶしを見ながらニヤリと笑った。
「それはよかった…さぁここからは私の仕事だ」
「怨霊を集めるのですね?…ふ…もういいんじゃないんですか?」
「もういい?…それはどういう意味?」
「僕やあなたが全力で暴れれば済む話じゃないですか。
そう思いませんか?超越」
「結果を見れば、あなたの言う事は正しいかもしれない。
しかしあまり調子に乗ると足元をすくわれるかもしれないよ」
「それは忠告かい?」
「さぁ…。とにかく私は私の仕事をする。
君の邪魔をする気はないが、私の邪魔をするのであれば…わかるね?」
「ふふ…底が知れないな…君もボスも。
圧倒的な強さを手に入れたというのに…君やボスには勝てる気がしない。
わかったよ。邪魔はしない……存分に回収するといい」
暴君はそういうと、ビルからビルへと飛び移って何処かへ消えた。
「ふん…」
―――
――
9月8日(火) PM8:10―――
「うう…あれ…」
聖才雅は目覚めた。
横を見ると空いた布団が三つ並んでいる。
隣の部屋からは何やら騒ぎ声が聞こえる。
才雅はゆっくり立ち上がると、隣の部屋へ足を運んだ。
「おま!それは俺の肉だろッ!」
「和馬にぃ!!さっきから肉食いすぎ!!」
「ほんとよ!!このボウズ!!飯の恨みは怖いんだからね!!」
優と和馬と由良葉による、すき焼きの肉の争奪戦が繰り広げられていた。
ゴツン!ゴツン!!ゴツン!!!
茜の鉄拳が頭上に落ちてきた。
「ええぃ!!大人しく喰えんのか!」
「あ!聖先輩!目が覚めたっすか!」
不破彰人がポカーンとしている才雅に気づいた。
「先輩体は大丈夫ですか!?」
まりあはイスから立ち上がると才雅の元に駆け寄った。
「い、いや…僕は大丈夫。
それよりこれは…ここは何処なんだい?」
まりあはこれまでの事を話した。
―――
――
「手当てに加え、晩御飯まで…感謝の言葉しか浮かびません…。
ありがとうございました!」
才雅は席から立ち上がると深々しく頭を下げた。
「いやいや、構わんよ。そんなにかしこまらないと早く食べなさい」
「しかし…白壁の様子が気になります!ここで暢気に食べているわけには!」
「落ち着いて先輩。私達の家族も、先輩の家族もちゃんと無事。
さっき連絡がとれたから心配しないで」
「そう…か。
すみません…取り乱しました」
自分の土地が酷い目にあって…家族がどうなってるのかもわからずに、
すき焼きなんか暢気に食べてられないわよね…。
やっぱり許せないよ…。
どんな理由があってこんな事をするのか知らないけど、
他人の幸せを踏みにじる権利なんて…誰にもないんだ。
「聖さん…肉食べて!
んでもって早く元気になってね!」
優は才雅に肉をよそって言った。
「…そうだね。
ありがとう。いただくよ」
そう言って肉を受け取ると、一口パクッと食べた。
「!…おいしい!」
「でしょ!どんどんあるから皆精つけてね!」
激戦の間のひと時。
幸せな時間……こんな時だからこそ大切にすべき時間。
守るべき小さな幸せ。
当たり前にあって…当たり前すぎて、その幸せに気づかない小さな幸せ。
必ず守ってみせる!
第26話 完 NEXT SIGN…